PARTⅢ
PARTⅢの1(19) カード人間、動き出す
一週間後、CIFはその
JBCのコマーシャル
それに対して、レインボーイーグルは譲渡を受けた日の記者会見で、
「この事件を解決する自信とノウハウがわが社にはあるので、CIFよりJBC株を譲り受けた」と説明した。
次の記者会見では「コマーシャル消失の犯人であったコンピューター・ウィルスの特定、
JBCはコマーシャル付きの番組の放送を無事に再開した。
この間、世界中の国々で、日本のそれと共通するようなギャンブルないしゲーム
もちろん日本でも例の主婦のパチンコパーラー殺到現象と学生の携帯等による有料ゲームや出会い系サイトへの没頭現象はどんどん広がりつつあり、
また、椅子取りゲーム現象は中学生のみならず小学生や高校生にまで広がり、その規模も全国的に拡大しつつあった。
数に限りのあるパチンコパーラーに入りきれない主婦達は花札やトランプなどを用いたギャンブルや、更には競馬・競輪・競艇などにも熱中し出し、
それは女性一般に広がって行き、
また男達も様々なギャンブルに熱中しはじめていた。
それら一連の現象や事件を通じて、″マザー″は更に多くの力の源=虚しさ・寂しさ・あきらめを集め、更に大きな力を行使することが可能になった。
神は自分に似せて人を作った。そういう言葉がある。だが、逆もまた真なりなのだ。
即ち、人は自分に似せて神を作る。そして″マザー″はいわばそういう性格の神なのであった・・・。
″マザー″は次なるアクションを開始した。
森野泉は夫の春樹と共同経営でベーカリーショップをやっている、活き活きしたきれいな顔立ちの女性だった。
もともと夫婦二人で始め、子育てもしながら一所懸命パンを作り続けた結果、味とちょっとした工夫の商品企画が評判となって繁盛した。
最近では店を拡張し、人も雇って、家族で旅行するような余裕もできてきていた。
この夫婦は周囲からはオシドリ夫婦としてうらやましがられていたが、
元々、一緒にパン屋を経営しようという目的意識で結びついた面が強かったのだった。
事業が軌道に乗り、店を改装し拡大したころ、泉が妊娠し、
そうこうしているころ新しくアルバイトに入ってきたユララという若い娘に春樹が優しくしているところを泉は目撃した。
泉は春樹に「まさか、浮気してるんじゃ?」と問いただした。
春樹は否定し、そのあとユララは店をやめたが、その後も春樹は彼女と会ってるのではないかと泉は疑った。
それは嫉妬であり、泉が春樹を愛している証拠だった。
しかし、泉は春樹をそれ以上追及しなかった。
それも『下手に追及して春樹が怒って出ていって、本格的にあの娘とくっつきでもしたらどうしよう』という、愛しているが故の恐れからだった。
ユララは自分よりも若いだけでなくなかなか可愛くて美人だったので、妊娠中の自分には張り合える自信がなかったこともあった。
――私達は一緒にパン屋をやる目的でくっついたんだ。
だから必要なのは、春樹を失う危険を
事業を維持し発展させるための共同経営者としてのパートナーシップを維持することなんだ。
その方が生まれてくる子供のためにもなるはずだ。
そうだ、私は嫉妬してなんかいない。
彼だって共同事業のパートナーとしての私はキープしておきたいはず。
親や世間には仲良くやってるように見せながら、店を維持・発展させていけばそれでいいのよ。
そう自分に言い聞かせ、子供が生まれたあともずっとオシドリ夫婦を演じ続けた。
春樹とは共同経営者としてはうまくやり続けてきていたが、仕事以外の会話は表面的なものに傾き、
そして泉はもともと好きだった韓流ドラマにますますハマって行った。
そういう泉に対して、春樹も壁を感じて傷ついていた。
が、彼も問いただす勇気を持つことができず、
忙しさにかまけて、泉と同様の理由づけによって、喧嘩も含む深いコミュニケーション、つまり密な対話や接触をはかることもせず、
当たり障りなく接し続けながら今に至っていた。
JBCが放送を再開した週の土曜日の朝。
春樹はパン作りの仕事を終え、ショップやパン工房の奥の住居スペースにある書斎でコーヒーを飲みながら、
パソコンでインターネットの音楽CDショップを物色していた。
彼は鯨やイルカの声と共演して音楽を作っているソプラノ・サキソフォーン奏者のCDを見つけた。
視聴するといい感じだったので、早速購入しようとカートに入れて手続き画面を進め、カード情報入力の画面に進んだ。
このサイトでは今までにもCDを購入しているので、
「既存のカードで支払う」のラジオボタンが選択されているのを確認したあと、「次に進む」をクリックした。
その途端に、画面がブラックアウトした。
――あれ、どうしたんだ?
次の瞬間、今度は画面から黄金の光がほとばしり、春樹の体を包み込んだ。
「わ~ ・・・」
春樹は悲鳴を上げてどんどん小さく四角く薄っぺらくなって行き、ゴールドのカードになって床に転がった。
同時進行的に、セカンドバッグの中のカード入れに入っていたカードが勝手に外に飛び出て人間の形になりながら大きくなって行き、春樹そっくりの姿になって床に立った。
人間とカードが入れ換わってしまったのだ。
息子一家と同居している春樹の母、幸子はその時リビングにいたが、息子の悲鳴を聞いて書斎に急行し、ドアを開けた。
そこで彼女が見たのは、床に落ちていたゴールドのカードを拾う春樹の姿だった。
「あなた、どうしたの?」
「ああ、別に、なんでもないよ」
「なんでもないって、悲鳴を聞いたから、びっくりして走ってきたのよ」
「そう、それは悪かった。
いや、実は、つい、うたた寝してたようで、わけのわからない巨大な黒いモンスターに襲われて踏みつぶされそうになった夢を見て、
夢の中で叫んだつもりだったんだけど、本当に叫んでたみたいだな」
「そうだったの、あなた、最近働きすぎなのに、夜遅くまでビデオ見たりしてるから。朝早いんだから、早く寝て睡眠を十分に取るようにしなきゃ」
「わかった、ありがとう、今晩からそうするように心がけるよ」
「じゃ」
幸子はリビングに戻った。
その頃、妻の泉は近くの四井銀行のATMで順番を待っていた。
彼女の番が来て、カードをATMに入れ、暗証番号を入力した時、いきなり画面がブラックアウトし、
『あら?』と覗き込んだ時、画面から黄金の光がほとばしり出て彼女の体を包み込んだ。
泉は悲鳴を上げてどんどん小さく四角く薄っぺらくなって行き、ゴールドのカードになって床に転がった。
同時進行的に、ATMの中からカードが勝手に外に飛び出て彼女そっくりの姿になって床に立った。
ここでも人間とカードが入れ換わってしまった。
それはカードを拾ってATMをあとに歩き出した。
泉の後ろに並んでいた茶髪にジーンズ姿の若い主婦はその
しかし、彼女は何もなかったようにATMの前に進んでカードをATMに入れた。ほかの、目撃したはずの人間達もみな同様だった。
金のコウモリが彼らに取り
そして、こういった事件が全国でほぼ同時刻に合計九十三件も起こった。
九十三人のカード人間達はそれぞれ元人間だったカードを
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