PARTⅡの5(13) 殴ってわかった本音
謡の携帯が鳴った。イブニングニュースのプロデューサーの渡辺からだった。
「天波君、渡辺ですけど。ちょっと緊急に君の耳に入れておきたいことがあってね」
「はい」
「実はきのうの晩、山岡君が石原報道局長を殴ってしまってね」
「え、もしかして、大浜さんの件で?」
「そうなんだよ。記者会見のあと、石原さんは姿をくらましたんだけど、夜遅くなって彼から報道局に電話が入って、
その電話を取ったのが山岡君だったんだよ」
「はい」
「それで、石原さん、
至急それを誰かに見つけさせて局の近くの公園まで持ってこさせて欲しいと山岡君に頼んだら、
山岡君が『自分が探して持っていきます』と言って、公園まで持って行ったんだ。
そこで山岡君が石原さんに『どう始末をつけるんですか?』と聞いた。
石原さんはその時自販機で買ったカップ酒を煽ってたこともあって、
『どうしようもないよ。あんな風にバラすなんて、最低の女だな。お陰で俺は職を失うだろう。
でも、女はいいよな。あの記者会見で泣いたんだって倒れたんだって全部芝居に決まってるさ。
俺を悪者にして、ああいう売名行為して同情も買って、スキャンダラスな女優にでも転身して、
俺との秘密をバラしたようにハダカでもなんでも恥ずかしげもなくさらけ出したら結構食っていけるだろうね、ははは』
とか言ったらしい。
それを聞いた山岡君は頭に来て石原さんをボコボコにしてしまった。
それを見ていた人が通報して警官がやってきて山岡君を捕まえ、少し前にぼくが身柄をもらい受けに行ってきたんだよ」
「そうだったんですか?」
「うん。まあ、山岡君の気持ちもわからないわけじゃないけど、
人の見ている前で暴力沙汰を起こして警察の厄介になったのも事実なので、一週間の自宅
それで彼が謹慎の間、君の担当は茂木君にお願いしたんで、そのことを知らせようと思って電話したんだよ」
「わかりました。ありがとうございます。それで、石原さんは?」
「それが、警察沙汰のあと、また姿をくらましてしまったようなんだ。秘書室の人からの情報によれば、きょうこれから
謡は渡辺からの電話を切ったあと、早速、山岡に電話を入れてみた。電話に出た山岡は元気そうだった。
「山岡さん、渡辺プロデューサーから電話があって話は聞きました。大変でしたね」
「いやあ、石原さんを殴ってすっきりしたよ。処分は覚悟のうえでやったことだけど、謹慎処分で済んだし。
それで、石原さんを殴ってはっきりわかったことがあるんだ」
「なんですか?」
「いや、なんというか、ぼくはキャロが好きだってことがはっきりとわかった」
「やっぱり、そうじゃないかって思ってましたよ」
「そうか。いや、君には話しておきたかったんで、言っちゃったよ」
「ありがとうございます。実はあたしも山岡さんにお話があるんです」
謡は、昨晩座敷わらしのヒカリが自分の家にやってきたこと、
一連の現象は金のコウモリがやらせたものだったこと、
大浜キャスターにああいう記者会見をやらせたのもそれだったということ、
座敷わらしが大浜キャスターの命を救ったこと、
などを話した。
「信じられますか?」
「ああ、信じるよ。
そういう妖怪に操られていたのでなけりゃキャロがあんな記者会見を開くはずがないし、あんな一連の現象だって起こるはずがないように思う。
よし、一緒にその金のコウモリとやらの正体を暴こう。キャロのこともサポートしたいから力を貸してくれ」
「はい。できることはなんでもやります」
「実はきのう警察に捕まって留置場でうとうとしていたら、
夢に、だと思うけど、着物を着ておかっぱ頭をしたわらしが出てきて、微笑みながら言ったんだ。
『もう自分に嘘をつかないで、大事な人を守ってあげて』って。
で、目が覚めて一番最初に頭に浮かんできたのが、キャロの悲しそうな顔だったんだ」
「そうだったんですか」
「ああ、これでぼくも座敷わらし仲間になれたみたいだ」
山岡との電話を切ると、すぐに響奏から電話が入った。
「やあ、何度か電話してたんだけど、やっと捕まった」
「ごめんなさい。局の人達と電話していたもんで」
「そうか。いや、実は、ぼくの住んでいるマンションの隣にある中学校でまた変な現象が起こり始めているんだよ」
「どんなこと?」
「それが、洗濯物を干すんでベランダに行ったら、
中学校の生徒が授業時間だというのに全校上げてぞろぞろと椅子を持って校庭に出てきて、椅子取りゲームを始めたんだよ」
「椅子取りゲームって、あの?」
「そう。
椅子を丸く並べて置いて、その周りを音楽が鳴っている間、ゲーム参加者達がまわりをグルグル回って、
音楽が終わったら一斉に椅子に座るけど、そのつど一人だけ椅子に座れない者がでてくるって、あれさ。
よかったら、今から来ないか?」
「わかった、すぐ行きます」
電話を切るとヒカリが、
「なんかあったの?」
と聞いて来た。
電話の内容を話すと、ヒカリは「ぼくも一緒に行く」と言って、コート掛けにぶら下がっている2号をよいしょと手にとってリュックサックに入れた。
謡が「連れてくの?」と尋ねるとヒカリは「うん」とうなずいた。
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