罪と罰(上)
人間人間
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「人類滅亡まで、あと三十六日」
朝のテレビニュースキャスターはそう言っていた。
三十六日後、人類がこの世界から姿を消す、と真剣な面持ちで言っていたのだ。
事の発端は三ヶ月前まで遡る。
三ヶ月前――この世界には『予言者』と呼ばれる存在がいた。
予言者。
この世界のあらゆることを予言し、予言することによってこの世界を天災などから救ってきた者。名も性別も国籍も全てが謎であり、人間であるかどうかすら疑問に思われるような、そんな存在。
そんな彼がどういった者かを具体的に言えば、景気の変動による企業の株価の動きから地震ハリケーン等の災害まで、ありとあらゆる事柄を予言者は予言し、さらにはそれの対処方法までも我々人類に教えた。勿論、最初は誰も本気で予言者の言うことなど信じなかっただろう。新手の詐欺師か奇術師か、人を騙す側の人間の言葉だと誰もが思っていただろう。
しかし、予言者はそれら「騙す側の人間」とは違う方法で人類にアプローチしてきた。
予言者は、その予言に関わる全ての人の下へと予言を記した手紙を送った。宛名も差出人も書かれていない真っ白な封筒の中に手紙を入れ、それを数千人、数万人規模で関係者全員に届けたのだ。
これには多くの人が驚き、興味を示した。ただの人間にできる真似ではない。予言者とは一体何者なのか――予言者はたちまち人々に注目される存在となった。
そして、予言者の予言は的中する。それでも人々は予言者の予言に半信半疑だっただろう。一度だけなら偶然的中した可能性もある。そうだ。これは偶然だ。予言などというものが本当に出来る筈がないではないか。
そう、大多数の人間が思ったことだろう。
しかし、予言者の予言はそれからも続き、そして、外れることを知らなかった。最初の予言から何回目の予言だっただろうか。もう、予言者の予言を疑う者は、殆ど残っていなかった。
そして三ヶ月前のある日、彼は全世界に向け、こう言った。「今から約四か月後の八月二十六日に世界は崩壊し、人類は滅ぶ」と。
彼のその一言は世界にパニックとも言える騒動を巻き起こした。彼の予言は今まで一度たりとも外れたことがなかったから、それは仕方のないことだろう。
そして、彼に「世界崩壊を回避する方法はないのか」と問う者達が現れた。今まで彼は予言と共にその予言の内容についての対処方法も我々人類に示してきた。今回も何かしら予言者は救いの手を人間達に差し伸べてくれると思ったのだろう。
だがしかし、予言者はその問いに「回避する方法はない。甘んじて未来を受け入れろ」と答えた。その返答に世界中の誰もが絶望したことだろう。本当に方法はないのか、どうにかして人間だけでも救えないのだろうか、多くの人間達が声を挙げたが予言者はもう何も答えなかった。
それから間もなくのことだ。
予言者は忽然と世界から姿を消した。
例の手紙はぱったりと途絶え、人々の問いにも答えようとするのを止めた。
予言者は突然、何も言わなくなったのだ。
まるで、自分の役目を終えたかのように。
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