第二刀 女神顕消

颯汰達が青白い光に包まれたあと、颯汰は真っ白い空間に来ていた


「な、何だ!?」


あたりを見回すと、白い空間がただただ広がっており、上を見上げるとどこまでも澄んだ青い空が、下を見ればやわらかそうな雲が一面に引かれていた。


「ここは一体……」


驚きが隠せずに呟く俺、というのは嘘で実はそれほど驚いてはいない。

先程喋っている途中で邪魔されてしまったので、少々腹が立っているのだ。


(なんだあいつ、俺がしゃべろうとした時に邪魔しやがってあの野郎、いや野郎ではないか。)


自分でも思うが、心の中で自問自答してる姿って、第三者から見ると変な人じゃないか?

いや、ここには人影は見えないし、どうやら俺ひとりのようだから問題は無いのだが……と思いたかったがそろそろ無理めな様子である。

なにせさっきから視界の端にチラチラ映る女性がこちらをニコニコしながら微笑んでいるのだ、怖い、ただ無性に怖い。

と言うか舌打ちをして来る、それも連続で。

普通に人いたよ、誰だよ人影見えないって言ったの。


その件の女性は金髪に碧眼、体はモデルのようにすらっとしているが、胸元に持つものは凶器としか言いようがなく、否応がなく目が吸い寄せられる魅力を持っている。

これほどの【美】を持った女性が果たして現実にどれくらいいるのだろうか。

正しく【女神】だ。


「何かリアクションはねぇのかよ、クソヤロウ。流石17年間童貞なだけはあるな、糞虫が」


その女性は突然口を開いたと思うと、くっそきたねぇ口調で罵ってきやがった。


「大体何でこんな冴えなさそうなブタを私様が相手しねぇといけねンだよクソッタレ」


女性の罵倒は止まらない。


「めんどくせェから巻き込まれとかすんじゃねぇよ、メンドクセェ」


愚痴も飛ばしてきやがった。


「あー、マジめんどいもうこいつ何も与えないで落としていいか?え?ダメ?マジかよもうホントないわ、マジないわ」


何かはよくわからないが、誰かと話しながら匙を投げようとしている。

何なんだコレ。

なんか俺を無視して (というか俺が無視したんだが)勝手にひとりで話し始めた。

流石にムカついたので、少し怒り口調で声をかける。


「ちょっと」

「アァン?」

「スイマセン!!何でもないっす!!」


睨みつけられたので即効で謝って後ろを向く。

何あれ超怖い、なんであんなのが俺の前にいるわけ!?わけわかんねぇ!!

女神なんてもんじゃねぇ、タスマニアンデビルだわこの人!?

逆らわないで素直に話を聞いた方が身のためだ、うんそうしよう。

そう決意を固めながら後ろを向いてちょっぴり震えていると女性から声を掛けられた。


「おい、オマエ…お前だよお前キョロキョロすんな、お前だって言ってんだろうがぁ!!」

「ヒィッ!?」


怖いよ、マジで怖い!!


「いきなりだがお前、なんでここにいるか分かってるか?」


そんなことを言われる、そう言われると確かに何故俺がここにいるのかが全くわからない。


「ここにいる理由ですか?皆目検討もつかないんですが、ここに来る前のことは覚えてます。信号を待ってたらいきなり足元から光が現れて……そっからはここに」

「そこまで覚えてりゃ充分だ、これから今の状況について説明してやる」


俺の目の前にいる人は俺の目をじっと見据え静かに、そしてゆっくりと口を開いた。


「お前は、お前ともうひとりを除く3人の勇者召喚に巻き込まれたんだよ」

「は?勇者召喚?」


何言ってるんだこいつ……って言えるほど状況を理解していないわけではないけど、そうか……勇者召喚か。


「お前がここに来る直前に見た光あるだろ?あれ魔法陣てゆう代物なんだわ、それがお前達を異世界に呼んだ判るか?」

「そうなんですか」

「そうなんですか、てお前、相当冷静だな。こんなに慌てないやつは初めてだぞ」

「え?この状況とここに来る時のアレを踏まえれば簡単に納得できそうなものだけど」

「それが大体のやつはパニックになって話にならねぇんだよ。と言ってもこういう事がおきんのはスゲェ久しぶりなんだけどな」

「こんな状況が他にもあったんですか?」


そうだとしたらこの人が最初にあんなに面倒くさがっていたのにも見当がつく。

おそらくはパニックで状況がわかってないやつに説明しようとしてもパニックで聞く耳持たずでなかなか状況説明ができずにイライラしたんだと思う。


「大体はお前の思っている事であってる。まぁ、パニックに陥るのも無理はないんだがな」

「俺もいま、冷静を取り繕ってますが内心パニクりまくりですよ」

「あぁ、知ってる」

「あ、質問いいですか?」


丁度いいのでここに来て聞きたかったことを質問してみる。


「私様の事か?ふふん、聞いて驚くなよ?私様はお前がこれから召喚されることになっている異世界『ランクルス』の神、世界の創造主って所だな」

「神様?」

「そうだ、神様だ。どうだ驚いただろう」

「あ、はい驚きました。偉い人だとは思ってましたけどまさか神様だとは分かりませんでしたよ。」


へぇ、そんな神様が勇者召喚に巻き込まれた俺に何のようなんだろう。


「私様の名前はランクルスの女神エディス、異世界を管理してる。と言っても盟約の決まりに沿って世界に大した干渉はできないんだけどな、まぁそんなわけで神だから一応心を読むことくらいはできるわけだ」

「フムフム、なるほど」

「質問される前に答えてしまうが、この空間は地球がある世界とランクルスの世界の狭間、神が住まう空間地球の言葉でいうところの天界って奴だ。そしてなぜお前がこの天界にいるかというのは、今回のランクルス世界人の勇者召喚に伴って、巻き込まれてしまった2人を何の力もなしに、地球より危険なランクルスに送るわけには行かない。だからこの天界に一時的に呼び出して少しでも力を与えて向こうで死なないようにするためにここに呼んだ。これは地球の神との盟約でそう決まってる。もし、地球の者がランクルスへと渡った時にランクルスで死なないようにってゆうな」


今の女神様の言葉に違和感を覚えた。

今なんて言った?2人・・?俺以外にも巻き込まれた奴がいるってことだよな?

でもおかしいぞ、俺とあの3人組以外他に人はいなかったはず。

あの状況からするとあの3人も一緒に召喚されたであろうから他に人がいるとは考えられないが…。


「なぁ、女神様ひとつ聞きたいんです、俺が記憶している限りではあの場には俺とあの3人組以外人はいなかったはずなんです…どういうことなんですか?」

「光が出た瞬間に丁度近くに隠れてた奴が居たらしくてな、そいつが巻き込まれたもう1人だ」


隠れてたって…んなアホな…


「本当だぞ、あと付け加えていうならお前のことを知ってるようだったぞ?あの様子だと」

「マジ?…俺にそこまで知り合いはいないし、誰なんだろう。」

「まぁ、そこんところは向こうへ行った後に確認するといい」

「じゃあそうします。で?その勇者召喚とやらをやったのはどこの人なんです?」

「それは向こうへ行ったらわかることだから心配するな、それにもう時間が無い、そろそろ本題に入るぞ」


本題か、一体何が飛び出してくるやら。


「今からお前に向こうで死なないための力を与える、どういう力が欲しいかはだいたい指定してくれればある程度は融通してやるぞ、ほら言ってみろ」

「そんないきなり聞かれてもパパッと思いつくわけ……」

「どうした?急に黙り込んで」

「こういうのって駄目ですか?」

「何だ?言ってみろ」


俺は女神様に近づいて思いついたある提案を伝えた。

このアイデアにエディスは苦笑いを浮かべていたが「なるべく希望に添えるようにはする」と約束してくれた。


「料理スキルと調理器具とは、つくづくお前は料理人らしいな」

「俺は、どこまで行っても結局は料理人ですから。」


俺は苦笑しながら答えた。

俺にとって料理は生来の物、異世界に行ったってそれは変わらない。

異世界に行っても料理が出来るならそれに越したことは無い。


「時間切れみたいだな、よし!!これからお前は異世界に行くわけだが、覚悟はいいな?お前は今からいつ死んでもおかしくない世界に行くわけだからな死なないように気をつけろよ?」

「料理人ですから、そんなに簡単には死なないですよ」

「お前のその自身はどこから来るんだ…。まぁいい最上 颯汰、頑張れ」


その声を最後に俺の意識は霞がかかったように消えていき暫らくすると完全に意識はなくなった。

向こうでは何が起こっているのか、何がこれから起こるのか、分からないが頑張るしかないだろう、後戻りは出来ないらしいから。

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