【ブライアン・シャトーペール隊長の報告書】


 広間に駆けつけると、ヘルシング教授とアルミニウス教授が奴と対峙していた。けれど人々に襲われ、防戦一方になっている。

 とっさにアルミニウス教授からもらった銀の弾丸を銃に込めた。

 撃つときひどく高揚していたが、不思議と心は穏やかだった。

 こちらに背を向けた奴の頭を撃ち抜く。

「教授! ご無事ですか!」

 お二人がこちらを見上げた。

「シャトーペール隊長、助かった!」

「ブライアン、奴はまだ生きている。とどめを!」

 フロレスク伯を手放して奴は床に倒れていた。頭を撃ち抜いたはずなのに、まだ立ち上がろうとしている。急いで駆け寄り、奴を見下ろした。

「…………お前が、我が祖先か」

 不思議な気分だった。

 大伯父は、奴は驚くほど私に似ていた。まるで鏡を写して見ているようだった。大伯母の言葉も今なら納得できる。髭がないのと、服装が違うくらいだろうか。腰帯に留めておいた銀の杭を取り出す。

「私を殺すのか」

「シャトーペール隊長、奴の声を聞くな。目を見るな」

 アルミニウス教授の声がした。祈りの文句を唱えるヘルシング教授の声も。その声が聞こえ始めると、奴は苦しそうに顔を歪めた。

「やめろ…私は、おまえの……」

「闇に還れ、ノスフェラトゥ!」

 奴の胸に杭の先端を当て、渾身の力を込めて押し込める。体重をかけて沈み込ませると、肉を裂く感覚が伝わってきた。

 耳をつんざくほどの濁った叫び声があがる。それでも全身で押し込んでいると、気づけば声は消えていた。

 目を開けると、胸のところから真っ黒な血が溢れ、徐々に崩れていった。急激に進行する腐敗に嫌悪する。

「大丈夫か」

 目の前に手が差し出された。見上げれば、アルミニウス教授がこちらを見下ろしていた。

 教授たちを襲っていた人々は、糸が切れたようにその場に崩れ落ちていた。

「ありがとうございます」

「奴を倒したからには、もう安心だ」

 私を立たせ、快活に笑う。

「これで、終わりなのですか?」

「奴の影響下にあったヴァンパイアたちは滅びるだろう」

 振り返るとヘルシング教授が、額に汗を浮かべてこちらを見ていた。

 コートはあちこちが破れ、顔にも真っ赤な血がにじんでいる。

「教授も無事ですか?」

「……ああ……彼らの、治療を…」

「他人の心配より、自分のことを気遣え」

 アルミニウス教授が、倒れた人々を避けて道をつくりながら近づいていく。

「私は、医者、だ…」

 ヘルシング教授の体が傾いた。

「ヘルシング教授!」

「エイブラハム!」

 慌てて駆け寄る。アルミニウス教授が抱き起こし、ほっと息をついた。

「眠っているだけだ。……ほとんど寝ていなかったからな、無理もない。まったく。こいつが一番医者が必要なくせに」

 我々も倒れそうだ。アルミニウス教授がそう笑った。

 フロレスク伯も意識を失ってはいるが、命に別状はない。二人を寝室に運び、人々の治療は兵士たちに任せ、私たちも眠ることにした。久しぶりに安心できる眠りだった。


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