精霊使いの剣舞 二次創作
けろよん
第1話 森の中で
穏やかな木漏れ日の差し込む森の中の湖でカゼハヤ・カミトは水浴びをしていた。
彼はアレイシア精霊学院に通う生徒で、休日である今日は賑やかな学院を離れて静かな森へと散策に出ていた。
「さすが地元住民の選んだ場所。気持ちの良い水だぜ」
この湖では以前にクレア・ルージュという生意気な赤髪の跳ねっ返り少女が気持ちよさそうに水浴びをしていた。
カミトはその時のことを思い出し、近くを通りかかったついでにその気持ちよさを自分も実感しようと立ち寄ったのだった。
別に何か先を急ぐような旅をしているわけでもない。近くに人もいないし、思いついた好奇心を実行するのに迷いはなかった。
水のせせらぐ音のする森は静かだ。
学院にいると人を奴隷や下僕のように使いたがる賑やかな連中に絡まれてうるさくてしょうがないが、ここならゆっくり出来る。
「ま、賑やかなのも嫌いじゃないんだがな。さて、次に行くか」
水浴びに満足したカミトは次の目的地へ向かおうと、服や荷物を置いた岸へ向かった。
「どうぞ」
「サンキュー」
そこで差し出されたタオルを受け取り、礼を言って濡れた頭を拭きかけたところで気が付いた。
誰もいないはずの森の中で、自分にタオルを差し出した人物がいる。
カミトは注意深く視線を上げた。
目の前にぼんやりとした印象の小さい少女がいた。それはカミトのよく知っている少女だった。
「って、エスト! どうしてお前がここにいるんだ!」
銀髪の静かな眼差しをしたその美少女は人ではなくカミトの契約精霊だ。彼女もそれを口にした。
「私はカミトの契約精霊だから」
「それは分かる。契約精霊だもんな。一緒についてきて何も不自然じゃないよな」
契約精霊は呼べばいつでも現れる。呼ばなくても現れることもある。
一人でいるつもりでも一緒にいることは考慮しておくべきことだった。
だが、カミトが慌てているのはそのことだけが原因ではなかった。
「でも、どうして裸なんだ! その恰好は駄目だって前に言ったよなあ!」
エストは初めて会った時も裸だった。おかげで学院では幼女をたらし込む悪い男だと噂が立ち、酷い目にも会った。
カミトは二度とこのようなことが無いようにときつく注意したはずだったのだが。
エストは不満そうに唇を尖らせた。
「カミトは裸になってるのに。カミトだけずるい」
「ずるくない! 俺は何もずるくないからなあ!」
カミトは慌ててこの状況をどうしようかと考えた。
はた目から見ると、今のこの状況はまるで男が少女に何かよくないことをしようとしているみたいではないか。
エストは外見だけならまだ幼い少女だ。犯罪だ。カミトは犯罪者になるつもりはなかった。
人に見られると非常にまずい。
カミトは湖を見て提案した。
「そうだ。お前も水浴びしてこいよ。水が気持ちいいぜ」
「私もそう思ったんだけど」
「だけど?」
エストは何かを迷っている風だった。その理由を口にした。
「水に入ると靴下が濡れてしまう。困ったなあ」
やや棒読み口調の彼女の言葉。カミトは視線を彼女の足元へと移した。
確かにエストの言う通り彼女は靴下を履いていた。少女は全裸ではなかったのだ。そうと気づき、カミトは思わず荒げた声を上げた。
「だからなんだよ! それも脱げばいいだろう!」
「靴下を脱げだなんて。カミトのエッチ」
「なんでだよ!」
初めて会った時もそうだったが、エストは靴下にこだわりがあるらしかった。
裸になった時も常にそれは身に着けていた。
まあ、いつまでも問答をしててもしょうがない。
カミトは気分を落ち着けた。クールになろう。今日は休日なのだから。
いくら暖かな季節の森の中といっても、二人揃って裸で風邪を引いては面白くない。
「服着るか。俺はあっちで着替えるからお前はここでな」
「待って」
カミトは自分の服を取ろうとするが、エストは鼻息を鳴らしてそれを阻止した。
「なんだ?」
「服は私が着せてあげる。私はカミトの契約精霊だから」
「もうお前の好きにしてくれよ。その代わりお前もちゃんと服を着るんだぞ」
「うん」
カミトは諦めのため息をついて彼女の望むようにさせてやった。
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