彼女の場合
弁護人席で、起立している彼。
身長188cm、グレーのスーツを着ている彼の肩幅は広く、手脚の長さのバランスは完璧で、まるでモデルのよう。
キエスタ人の彼は浅黒い肌にくせの少ない髪を整髪料で撫でつけている。
眼鏡をかけているその顔は、タイプは違うけど、キエスタ人俳優世紀の美男子、ラマーンに匹敵するといっていいくらいの美形だ。
眼鏡かけてるぶん、インテリな感じでラマーンよりいいんじゃねえか?
二階の傍聴席の隅で、彼を見つめていたシアンはにんまりした。
いい男だよな。
法廷ドラマシリーズの主人公できそうだな。
おかあさんたちに、人気出そう。坊ちゃんぽいところがたまらないわ、とか言われてよ。
「閉廷」
裁判官がジャッジ・ガベルを振り下ろした。
ん? 終わったのか。
眼下の人々が次々に起立して立ち去るのを見て、シアンはきょろきょろした。
弁護人席のデイーは、突っ立ったままだ。
はははは、あいつ、ホッとしてやがる。
無理ないか。初めてだったもんな。緊張したんだろうな。
でも、うまくやれたんだろ。
聞いてたけど難しい言葉出てきたから、オレにはところどころ分かんなかったけどな。
デイーを見下ろしていたシアンは、彼の背後に近づく女性に気付いた。
なんだなんだ、あのおねえさん。
ウェーブのかかった金髪を後ろでまとめ、赤い縁の眼鏡をかけた女性。
タイトなスーツを着たその姿はスタイルよく、生粋のグレートルイス美人だ。
賢そうだな。検事とか、デイーと同じ弁護士かな。法廷ドラマのヒロインできそう……あ、おいおい、デイーに…………触ったあああ!
背中に触れやがった!あの女。
ちょっと、ちょっと、デイーはキエスタ人の男なんだからさ。ボディタッチは控えめにしなきゃいけないんだぞ。
あ、やっぱり知り合いかよ。
彼女と会話を交わすデイーを見てシアンは二人の様子を観察する。
おねえさんは明らかにデイーに気があるよな。面食いぽいし。
デイー、あいつ気づいてねえんだろうな。
親切で優しくしてくれるおねえさんぐらいにしか思ってないんだろうな。
あいつ、いまいち自分の魅力について理解してないよな。
いや、多少は自分の容姿がこの国の女に受けることは分ってるんだろうけど、そのレベルがトップクラスだとは思ってない。キエスタの故郷で、女の子に自分の容姿がイケてない扱いをされた経験が尾をひいてるんだろうな。
おっと。
彼女と別れたデイーが鞄に書類を入れるのを見て、シアンは階下に下りようと立ち上がった。――――
――――――――――――――――――――
「よう、おにーさん」
法廷から出てきたデイーに、シアンは後ろから呼びかけた。
「似合うね。眼鏡とスーツ。……そこまで上手く着こなせるの、キエスタ人でお前くらいのもんじゃねえ? デイー」
「シアン」
振り返った彼は、真面目で硬い弁護士然とした表情からみるみるうちにあどけない少年の笑顔に変わった。
はは、いつもながら可愛いなこいつは。
腕を組んで微笑みながらシアンはデイーを見る。
デイーはもっていた鞄を床に落とすと、シアンに近づいてきた。
そして、そのままの勢いでシアンを抱き上げた。
「来てくれたんだ。俺のこと、見てた?」
おいおい。公衆の面前だろうがよ。
しかもここ裁判所だろうがよ。
「……ちょっと……こら、恥ずかし―からやめなさい」
シアンは周囲にいる人の視線を気にして、あわててデイーの肩をたたく。
それに、オレ最近太ったんだよ。重くなったのばれんじゃん。
三十路突入してから、代謝が下がりだしたのか? 今まで、いくら食べても体型変わらなかったのに。
お前が今持ってるその辺についた肉がなかなかとれないんだよ!
この間、ボスにつっこまれてショックだったよ。
満面の笑みでシアンを抱きあげたまま回りだしたデイーに、シアンはあきらめたようにため息をついて、デイーの頭に手を置いて見下ろした。
「なかなか、かっこよかったじゃん。見直したぜ」
デイーは嬉しそうに顔をほころばせた。
はは、相変わらず子犬みてえ。
シアンもその笑みにつられて微笑みを返した―――
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