最終章
元大統領の死
グレートルイス、フィンチ元大統領の死が世界に報道された。
二十年前の戦時中、暗殺された大統領の代行としてその後六年間、大統領の座についた彼である。
彼は大統領の座につくやいなや、ただちにキエスタから兵を引き揚げさせ、戦争を終結させた。
賢明な判断を下した大統領として、またその後の戦後の復興政策が功を奏したこともあり、国民から深く敬愛された彼でもあった。
敬虔なテス教徒でもあった彼は、使徒ギールの精神にのっとりキエスタで産み落とされた「戦争の落し子」たちの引き取りに積極的に応じた。
彼は引退後、カチューシャ市国市民権を得てかの国に在住していた。
あまりにも突然な死だったという。
彼の死から翌朝、彼が居間で倒れているのを、メイドが発見した。
彼の葬儀には多くの者が参列した。
カチューシャ市国にはグレートルイス国民が葬儀に参加するために入国し、市内の人の数は膨れ上がった。その中には色の濃い肌を持つ「戦争の落し子」たちが目立った。
グレートルイスの副大統領、ブラックもカチューシャ市国入りを果たした。
ブラックの兄とフィンチ元大統領は懇意だったからである。
レン=メイヤ=ベーカーの父親でもあるブラックの兄は、その数日前に急死していた。
レンは父親の喪に服するため、グレートルイスにとどまった。
ゼルダからは外務局長官のキルケゴールが参列した。
キエスタでは要人の出席は叶わなかった。カチューシャ市国のキエスタ大使館の職員のみが参列した。それどころではないからである。
一か月前に起こったオネーギンの腹心であるドーニスが主君を彼の娘の祝いの席で襲った事件以来、西部は本格的に南部と交戦を始めた。
グレートルイスマフィアのシャチが西部と正規の取引を始めたのも記憶に新しい。
シャチのグループは以前から合法的に商売を替えようと試みているようだったが、本格的に腰を入れ始めたようだ。
シャチが南部から西部に鞍替えしたのは、南部独立戦線にとって思いもよらない誤算だった。
シャチの考えを改めさせた理由が、彼らが犯したたった一人の少女に対する仕打ちのせいだとは彼らはつゆほども気付かない。
武器の配給先だった後ろ盾を失い、南部独立戦線の敗色は濃厚だった。
苦戦をしいられた彼らは、今度は自分たちが抱える南部の女性、子供たち、老人を盾に取り出した。
前線に飛び出る少年兵たち、女性たちに西部軍は勢いを弱めずにはいられなかった。――
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