帰宅
その二日後、シアンを迎えにコテージに来たデイーはウーの姿が見えないのに気付いた。
「おい、あの女は?」
リビングで思い思いにくつろいでいるシアン、ターニャ、ミナの三人の女たちに問うが、誰もデイーの問いに答えようとしなかった。
その雰囲気にデイーは察する。
「まさか……あの女、フェルナンドに戻ったのかよ」
苦労して攫ってきたのに。
なんでまた。
「おい、あいつは。大丈夫なのか」
キースの姿も見えないのに気付き、デイーは思わず聞いてしまった。
ソファーにもたれ、テレビを観ていたターニャがため息をつく。
「……あんたは本当にいい子だね、坊や」
ターニャを見たデイーにターニャは画面から目を離さずに肩をすくめる。
「でもそっとしておいてやりなよ」
デイーはソファーにうつ伏せに寝転んで本を読んでいるシアンに目を移した。
「おい、いいのかよ」
「……あー、うるせーうるせー」
シアンは寝返りをうって今度は仰向けになると頭上の本を見上げた。
「ならお前が慰めてやれよデイー」
デイーは黙り込む。
いや俺、あいつとまともに話したことなんかないし。
でも、あいつがものすごく辛いのはわかる。
せっかく戻ってきた恋人がまた去ったのだ。
例えば、俺の前からシアンが姿を消すこと。それと同じだ。
俺だったら……狂い死にしてしまうかも。
「俺なんかより、お前の方が……」
「オレがあいつを慰めちゃっていいんだ?」
その言葉に想像したデイーは即座に考えを改めた。
「いや。あいつはどこなんだよ。一言いってきてやる」
「彼は上の部屋で、ナジェールに勉強を教えてるわ」
ミナが編み物をしながら答えた。
「今、彼と居るのが一番いいのはナジェールよ。ナジェールに任せましょう」
「……」
なら早くそう言えってんだよ。
デイーは心の中で舌打ちする。
「……それに、あいつまたキエスタに飛ぶんだってよ。ボスから仕事もらってた。気にしなくていいんじゃねえ? 仕事してりゃ、気が紛れんだろ」
シアンが相変わらずの姿勢で本を読みながらデイーに言う。
「仕事?」
「新しい取引先との交渉役。聞いてねえ? いい加減、南部とは手を切るんだってよ」
「南部から手をひくのかよ」
デイーは驚いた。
南部武装組織の武器の仕入先はほとんどがシャチのグループだった。
南部の奴ら、ボスに捨てられたらどうするんだろう。
「新しい取引先って……」
その時やっとシアンが本の下から顔を上げてデイーを見、にやりと笑う。
「お前の故郷だよ。温室育ち」
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