リンク場
二日後、レンはキッドからフェルナンドに飛び、同様にウーに再会したが彼女には変わったところはなく安心した。
かねてから行きたいといっていたフェルナンドのアイススケート場にレンは彼女を連れ出した。
ウーはバランス感覚が良く氷上の滑りをとても楽しんでいた。
ひとしきり他の客たちと共に滑り終えた二人は端の壁にもたれかかって休んだ。
レンは息をきらして笑いかけてくるウーに多少気おくれがしたが聞いてみた。
「……この前はごめん。叔父が言ったことが気に障った……? 」
「いいえ、そうじゃなくて」
ウーは首を振った。
「あたし、なんだかあのひとが怖くて。ごめんなさい」
怖い?
レンは不思議に思う。
たしかに叔父は強面なほうだが。
上に立つ者のオーラとかそういうものかな。
「ごめんなさい、実は彼に何を言われたかあんまり覚えてないの。……キースのことしか、頭に残っていない」
ウーは笑みを消し、レンを見上げた。
「失礼なことをしたと思うわ。ごめんなさい。でもあたし、あの人が苦手みたい」
叔父はウーからみると不快な部類の人間らしい。
もう叔父とは二度と会わせないようにしよう、とレンは心に決めた。
「キースのことは良かったね。僕も嬉しい」
「ええ」
そのまま沈黙が続いた。
周囲には親子連れが楽しそうに滑っている明るい声が聞こえる。
「……映画祭が終わったら……一度、僕の家に来てくれる?」
レンはうつむいたままのウーを見下ろした。
女性を家族に紹介したいと思ったのはこれが初めてだった。
しかしウーを紹介した際、自分の家族の反応は微妙だろうということをレンは予想していた。
なにせウーは少数民族出身だし、ゼルダの一件で彼女は時の人になったし。
そのうえ妊娠、死産の経験もあることは皆が知っている。
「……あなたの家?」
「僕の両親や、姉に会ってほしい。夕食でも一緒にどうかな」
「……」
自分の顔を見上げて何も言わないウーに、レンはあわてて言葉をつけ足した。
「もし、君さえよければだけど」
「……考えさせて」
「うん、わかった」
再び沈黙に戻る。
「もしキースが戻ってきたら、君はどうするの?」
「……」
「あいつは無事だといいけれど」
「……」
キースの無実が分かりレンは嬉しかった。
だが反対に心の奥底にわだかまりも生まれた。
以前、キエスタ修道士拉致事件の際、修道士の中にゼルダ人が一人含まれていたという情報を聞いた。
外見の情報からキースではないかと、レンも思っていた。
しかしグレートルイスに送還されてきた修道士の遺体の中に、それに該当する修道士はいなかった。
彼は、あの国で命を落としたのではないだろうか。
「……あいつは……」
レンは過去の友人の姿を思い浮かべる。
ゼルダ人ということもあると思うが、キースはウーのことをゼルダで想像以上にぞんざいに扱っていたのではないのだろうか。ウーの劣等感を払拭させ、自信を持たせるような言葉なんてあいつは一言も吐かなかったんじゃないだろうか。
「君に、ちゃんと言葉で気持ちを伝えたことなんてあった……?」
言ってしまってからレンは後悔した。
あきらかに嫉妬だ。
「……もうあがろう」
壁から身を離し、レンはリンク場から上がろうとした。
「レン」
ウーの声が追いかけてきて、振り返るとウーは壁に寄りかかったままこちらを見ていた。
「レン……あたし。あなたといると楽しいわ」
ウーはその事実に気付いたように告げた。
「あなたといる時が……一番楽しい」
この前美術館で見た、泣きそうなすがりつくような目でレンを見つめてくる。
レンはウーのところに戻り、ウーを抱きしめた。
「……うん」
彼女の髪に頬を押し当て、レンは微笑む。
ウーが身を寄せてきた。
「レン……今からあなたの部屋に行きたい」
「いいよ」
「お風呂に入らせて」
「……一緒に?」
「ええ、あなたと一緒に」
腕の中でそう答えるウーの体温を心地よく感じながら、レンは抱きしめる腕に少し力を込めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます