122話 商談
デイーは自分以外誰も居ない部屋で一人、ソファーに座ってテレビを見ていた。
テレビの音声を最小限にしているのは、隣の部屋の自分のベッドで寝ているシアンを気遣ってのことだった。
シャワーを浴びた後、シアンは頭痛がすると言って横になっていたが、デイーが見守る前でしばらくすると寝息をたてだした。
穏やかなシアンの寝顔に、デイーは少し安心した。
夕方になり、どこのチャンネルも今夜の司教選出関連の番組しかしてない。
今回も、前回の司教が引継ぐことになるのは確実だろうとどの番組でも予想されていた。
気晴らしになるような番組は無いのかよ、と、チャンネルを回していたデイーはため息をついてリモコンを机の上に置いた。
人の声がした。
ボスたちが帰ってきた。
デイーは立ち上がる。
ワンフロアの部屋には、いくつもの寝室、居間がある。
今いた部屋から隣の居間に入ると、ボスたちがちょうど入ってくるところだった。
「お帰りなさい」
迎えたデイーを、シャチはちらりと一瞥した。
「シアンはどうした」
シャチが名指しで聞いたのに、デイーは驚いた。
「俺の部屋で寝てます」
「そうか、休ませてやれ」
デイーの答えにシャチは頷いて、ソファーに座った。
部下の男たちも、めいめいの場所に座る。
「商談成立だ」
シャチがデイーに言った。
「デイー、よくやった。褒めてやる」
では、ボスたちは今までお得意様に会っていたということか。
デイーはためらいながら、口を開いた。
「あの、シアンをいつお得意様……に、会わせるんですか」
少し、日数を置いてやって欲しい、とデイーは頼むつもりだった。
言っても無駄かもしれないけど。
シャチは無言でデイーを見た。
煙草を取り出してくわえ、部下の一人が火をつける。煙を吐いたあと、シャチは告げた。
「あいつとお得意様は会うことはない」
デイーは意味が飲み込めず、シャチを見返した。
「……あれが、得意先の希望だ」
数秒のち、デイーは目を見開いた。
そんな。
じゃあ、最初から。
「得意先は女だ、デイー。あんなくだらないこと考えるのはな。どれだけあいつが気に食わないかしらないが」
最初からそれが目的。
デイーは、唇を噛む。
……俺が、あいつをここに連れてきた。
行き場のない怒りが込み上げる。
むざむざとあいつがやられるのを見ていた。
「じゃあ、あいつとの……」
「約束は守る。もう、手配はした」
シャチは煙草を吸う。
「間に合えばいいがな」
デイーの視線を受けて、シャチは小さく笑った。
「あいつが可愛いからだ。……あいつを間近で見て、手に入れたいと思った。欲しくなったから、家族(ファミリー)に入れた」
シャチは、膝に肘をつき、手で額を支えてデイーを見た。
「それだけだ。あいつが欲しくなるのは、お前も分かるだろう」
デイーはシャチから目をそらした。
「抱いて、更に俺のものにしたくなった」
シャチの言葉に、デイーは胸がひきつれる。
デイーの様子をシャチは眺めていたが、煙草をふかすと続けて言った。
「……俺は出身柄、ゲンをかつぐ方でな。占いも信じる。占い師をひとり飼ってるが……奴が、最近予言したんだ。近々、俺の元にラミレスとネーデが来るだろうと」
こっちを見たデイーに、シャチは鼻で笑った。
「お前がラミレスかどうかは疑問だが……ネーデはあいつだな」
シャチはデイーの表情を確認するように見て、ゆっくりと煙を吐く。
「さながら、俺たちはネーデを捕らえた悪魔というところか」
キエスタ西部以外の地域では、女神ネーデは追放されたアネッテではなく、悪魔にとらわれていた美しい女性というのが通説だ。
「ボス」
デイーは、シャチのサングラスの奥の目を射抜くように見つめて言った。
「俺を……家族(ファミリー)に入れてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます