希望
相変わらず、身体がこすれる苦痛しか感じない。
シアンは天井を見つめて思った。
最初、彼をラマーン演じる映画のカレスだと思い込もうとした。
でもだめだった。
だって、カレス絶対こんなんじゃねえし。
映画ではキスシーンしかなかったけど、カレスならきっと夢のように優しくしてくれるはずだし。
早く終わんねえかな。
適当に反応しながらシアンは心の中でため息をつく。
数分のち、マシューがシアンに体を預けた。
重いんだよ。
思いながら、シアンは安堵した。
胸の上のマシューの髪を見て、またデイーを思い出した。
そうだ、彼だと思えば良かった。
デイーのこの時の様子を想像する。
彼が必死だと思えば、可愛いと思えたかも。
くく、と笑ったシアンにマシューがこっちを見た。
「……今日、楽しかったと思って」
マシューの髪をなでながら、シアンはやわらかな表情で言った。
「俺に言えば、案内してやったのに」
「先輩、忙しいでしょう」
冗談。
あんたといるのは、このときだけで勘弁。
「で、先輩、オレに聞かせたい話ってなんですか」
早く言えっつーの。
タダでやりやがって。
「……キエスタで外国人がよく拉致されるのは知ってるか」
マシューは起き上がって、ベッド脇に座った。
知ってるけど、詳しくない。
国外に出ないゼルダ人には関係ねえもん。
「この間、テス教の修道士たちが拉致されたんだが、武装グループがこっちにも接触してきたそうだ。……一人、ゼルダ人の修道士がいると」
シアンは目を見開いた。
「名前は……偽名だろうがな。ヴィンセント=エバンズ。長身の色の濃い髪だそうだ」
彼だ。
シアンは感じた。
彼に違いない。分かる。
「本当にゼルダ人かどうか真偽は不明だ。本国は……閣下は、しばらく様子をみる方向で行くらしい。まあ、脱国者なんてこっちで引き取った方が悲惨な末路を迎える可能性の方が高いしな。キエスタで終わった方が、そいつにはまだいいかもな」
マシューは立ちあがってシアンを見下ろした。
「奴だと思うか」
シアンは起き上がってマシューを見返す。
「どうでしょう。……先輩は」
「さあな。……俺は、調査局を離れた身だ」
マシューは、浴室に向かう。
「また、情報が入ったら教えてやる。……残りの修道士たちは、見捨てられるそうだ。国からも、テス教会からも。気の毒にな」
彼が姿を消したとたん、シアンは勢いよくうつ伏せになって枕を抱きしめた。
生きてた。
あいつ、生きてた。
ぎゅう、と枕に顔を埋める。
……修道士、てなんだよ。なんのコスプレ?
あいつにハマりすぎだろ。
涙と、笑いがこみあげる。
おさえられない感情に、シアンは脚をバタバタさせた。
嬉しい。
絶対、また会える。
大声で叫びたいのを、シアンは枕を噛んでこらえた。
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