第78話 パブ2

 パブに入ったリックに、店主と話していた男が手を上げて合図した。


「リック、申請どうだった?」


「ダメだ、二週間しか延長出来なかった」


 浮かない顔をして答えるリックは、そのままショルダーバッグをカウンターに置くと、煙草を取り出してくわえた。


「まあ、そうだろうな。そうやすやすと延長を許してたら、規律がもたねえ」


 店主のキースは、灰皿をリックの前に出しながら言うと、ジンジャーエールも追加で彼の前に置いた。


「サービスだ。……注文は?」


 自分の顔を見たリックに、彼は答える。


「ありがと。じゃあ、ホットドッグ。ポテトと、マスタード大盛りで」


 店主のキースが背を向けると、隣の男が話しかけてきた。


「パーティー後、ヴィッキーを張ってた。キルケゴールさんが、あわてて彼女に会いに来たぜ」


「ご立腹だったろうからなあ、ヴィッキー」


 リックは、煙を天井に向かって吐きながら言った。


「パーティー会場で、ヴィッキーはキルケゴールさんが連れてきた歓楽街(パラダイス)の子に、やらかしたそうだ。上から、その子の頭にワインぶっかけたんだと」


 リックは、想像して声を出して笑った。


「見たかったなー。その場面。思い浮かぶわ。……で、その子は? 会場から、帰ったのか?」


「いや。会場のスタッフの男と、服を交換してすぐ会場に戻った。その、スタッフの男から話聞いたんだ。その子の身体、スーパーモデル並みだとよ」


「その子の身体、拝めたのか。うらやましいなあ、そいつ」


 なかなか、彼女はしたたかなようだ。

 まあ、歓楽街(パラダイス)でのしあがるのなら、そうでないとやっていけないのかもしれない。

 ヴィッキーの相手として、不足はないな。


「……で、キルケゴールさんとヴィッキー張ってたら、ちょろちょろと若い男がたまに現れやがる。一応撮ったが……彼だ、わかるか?」


 言って、男はリックに写真を差し出した。

 リックは、灰皿に煙草を置いて写真を手にとり、眉をひそめて写真の彼に目をこらす。


「だめだ。キルケゴールさんの、秘書だ。ルーイとかいう、最近、ジャングルから生還した」


「やっぱり、そうか」


 男はため息をついて、リックから写真を受け取った。


「キルケゴールさんがいるときにも、現れやがったからそうかと思ったぜ。彼のしりぬぐいでもされてるのかね。毎回、花束とか、でかい箱とかもって現れやがる」


「彼女の機嫌なおすのに、苦労してんだろう。…キルケゴールさんのような男の部下、てのは大変だな」


 リックは、ジミーを思い浮かべる。

 彼も、相当ご苦労さんなこった。


――ウーを養う相手が、キルケゴールだとは思わなかった。

彼女が呼ぶ名前の男が、彼の部下だったことも想定外すぎるほど想定外だった。


……これも、なんかの縁かね。


 リックは、前に置かれたホットドッグにかぶりつく。

 大量に注入されたマスタードがこぼれ落ちそうになるのを、あわてて口で拾う。


 なおさら、彼のことが腹ただしくて仕方ない。


 あいつ、前世からのオレの敵だわ、きっと。


 ゼルダには、そういう因縁思想はないが、グレートルイスで育ったリックはそう思う。


「……やっぱり、キースってやつぁ、ろくな奴がいねえ」


 思わず、口に出して毒づいたリックを、店主のキースが振り返った。


 あ。


「……マスター。……マスターのお手製、特性チーズと香草パスタ頂戴」


 高いのに量が少なく、味も中途半端な大不評のメニュー。

 隣の男があきれたように、今日はオレにくれなくていいぞ、とつぶやいた。


「あいよ」


 店主のキースは愛想笑いをして返事した。

























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