第8話
* 29 *
中間考査、初日の朝。
昨日の雲はすっかり消えて、朝日がまばゆい。
――この空の色って、何ていうのかな。
薄めの青。
水色の空を眺めながら歩く。
「おはよう」
駅を出て最初の交差点で背後から声をかけられた。
立ち止まって
「おはよう、米倉さん」
米倉さんが隣に来るのを待ってから、学校へと足を動かす。
少し前までは、接点がなかった。ほとんど会話をしたことはないが、お互いに存在は意識していたはず。
よくも悪くも、話題や噂になるほど目立つから。
こうやって並んで登校するようになるなんて、以前は思いも寄らなかった。
これも、名本さんと親しくなった影響なのだろう。
並んで歩行する米倉さんの横顔を
前を見据える、
「今回のテストも
テスト当日なのに、緊張も焦りもない
「そう?! 森井だって、
オレの感想に、米倉さんは不敵な笑みを浮かべた。
――何ていうか………。
「米倉さんらしいね」
思ったことをそのまま声に出す。
「私がらしいと言われるなら、君も相変わらず、王子様だね」
頬にかかる、ゆるくウェーブがかった黒い髪を後ろに払いのける米倉さんを、不可解な気持ちで
――王子様…………誰が?
「何? それ」
嫌がらせ的な発言に、複雑な気持ちで問いただす。
「容姿も
楽しくてしようがない。そういう言い方で、米倉さんが説明する。
知らなかった事実に、呆れ果てた。
それは、オレの内面を知らないから。
オレの外見しか見ていないから――
「おはようございますぅ」
走ってくる足音がすぐ後ろで止まって、背中に声をかけられた。
その声で、もやもやしていた心境が、すうっと
「おはよう」
米倉さんの脇から覗き込むみたいに顔を見せた名本さんに、それぞれ挨拶を返す。
「何を話していたのですか? 後ろから見ていて、とても楽しそうでしたよ」
米倉さんを挟んで反対側から、名本さんがどちらともなく尋ねてきた。
「森井が、王子様だという話をしていたのよ」
名本さんの疑問に、先に答えたのは米倉さんの方だった。
「そうなのです。森井くんはキレーすぎて、一緒にいるとドキドキしてしまいます」
米倉さんの言葉に、名本さんは真顔で賛同する。
いつもの、のほほんとした
本気でそう思っているのか、真顔で冗談を言っているのか、その話し方だけでは判別できない。
「北上くんも
複雑な
「確かにそうね。森井も北上も目立つ人間だから、相乗効果というものね」
頷いた米倉さんが話す内容に、
北上とオレが一緒にいると、女子たちにはそう見えていたのか。
それよりも……。
名本さんがしっかりと見ていることに、驚かされた。
いつもマイペースで、他人に
「オレは、格好よくないよ」
2人の言う、女子たちの目に映る
「そんなことは、ないですよ。森井くんは、格好よくてキレイな人です」
オレの目を捕らえて、きっぱりと名本さんが告げる。
言い切る形の、名本さんらしい言葉遣い。
彼女の言葉ひとつひとつに、強さがある。
ぶれない、
――多分、オレは………。
「今日から試験だっていうのに、余裕そうだね。3人さん」
恨めしげな、暗く沈んだ声が耳に届く。
穏やかな小谷野らしからぬ
振り返ると、
「小谷野くん、おはようございます。」
名本さんが、
「顔色が悪いわよ。
「そうだよ。悪い?」
米倉さんの指摘に、小谷野はやさぐれた態度を取る。
――彼にしてみたら、珍しい。
だから、このままにしておこう。
「俺の代わりに、和哉テストやってよ」
「そうしたら、オレがテスト0点になるから、却下」
「はいはーい。名本が小谷野くんの代わりにテスト受けます」
小谷野とオレのやりとりに、勢いよく右手を上げた名本さんが主張する。
「名本さんじゃ、俺と成績変わらないから、お断り」
名本さんの提案を、小谷野は本気で
「残念ですぅ……」
「おはよう」
名本さんがしゃべっているのを
「おはよう」と返したが、高橋さんは急ぎ足でさっさと学校の門を通過していった。
――嵐の前の……。
「嵐の前の静けさ」
瞬間的に頭に浮かんだ言葉。
それを
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