第10話 外人住宅
健作は車を降りると、圧迫感を感じるほどの南国の力強い日差しに、思わずめまいを感じるほどだった。
聡は車の後ろに回ってバックドアを開けると、健作、修、智子はそれぞれの荷物を手に取った。
「あら、荷物が一つ残ってるけど?・・・」智子が言うと、
「あ、それ私のです。」と典子が後ろから声をかけた。
「トモちゃん一人じゃ寂しいだろうから、私も今日から一緒にここに泊まります。」
「えっ、ほんと? よかったぁ。」智子は嬉しそうに典子の荷物を取ると、後ろに立っていた典子に渡した。
智子は紙袋を健作に差し出すと、「父さんへお土産。健作さんが代表して渡して。」と言って差出た。
「おっ、ありがとう。後でみんなで割り勘な。」といって受け取ると聡に差し出した。
「お父さん、今回は色々とお世話になります。これ東京のお土産です。」といって聡に渡した。
「えっ、なんだ、そんな気を使わなくてもいいのに。
でもせっかくだから遠慮なくいただくよ。」と言って受け取ると、袋の中に紙包みを取り出した。
「これはなんと『銀のぶどうのチョコレートサンド』じゃないか!」
「えっ、お父さん『銀のぶどう』をご存じなんですか?」
あまりの以外さに智子は驚いて聡に尋ねた。
「ああ、典子の母親が一度テレビ番組で取り上げられているのを観て、すっかりはまってしまったんだ。ありがとう、家内も喜ぶよ。典子は素敵なお友達に囲まれて幸せだね。」
聡は典子の方を見て微笑むと、典子は「当然でしょう。みなさん素敵な人たちばかりだもん。」と答えた。
聡は紙袋を助手席に置くと「それじゃあ行こうか。」とみんなを促した。
「ここは、去年まではうちのダイビングショップの従業員が住込んでいたんだけど、ショップの近くに新しく部屋を借りたんで、今は使っていないんだ。」
目の前には芝生に囲まれて、真っ白に塗られた小洒落た平屋建てのコンクリート住宅が建っている。
典子は先に立って玄関に向かうと、玄関の鍵を開けて中に入った。
玄関ホールに入るとリビングが広がっているが、玄関ホールに段差はない。
リビングの奥にキッチンとバスルームがあり、右手には寝室が手前と奥に2室ならんでいて、左手にはバスルーム付きの寝室が1室ある。日本流にいうと、3LDKといったところだろう。
典子はみんなに声をかけた。
「スリッパに履き替えたら、荷物はひとまずリビングの隅にでも置いてください。
この建物は、建ってから40年ほど経ってる外人住宅です。」
「ガイジンジュウタク?」修は思わず聞き返した。
「はい、戦後米軍関係者のために造られた住宅です。
アメリカ風の概観と間取りは、戦後復興途上にあった沖縄県民の憧れの対象でもありました。
ここは、もともと基地の住宅エリアになっていたんだけど、返還されたときに建物はそのままの状態で返還されたので、そのまま使っているんです。」
「ふ~ん、だからこんな素敵なアメリカ風の建物なんだ。」智子は関心して見回した。
修は早速右手の部屋から一つ一つ扉を開けて中を見て回っている。
修は「右手はベッドルームが二つ並んでるぜ。」というと、リビングを横断して左にある扉に向かった。
扉を開けるとやや大きめの部屋で、ベッドルームにバス、トイレが付いている。
「へー、使いやすそうでいいね。」と修が言うと、修の後ろに続いてきた典子が続けた。
「寝室は3つあるんですけど、左手の寝室にはバストイレがついているので、私とトモちゃんが使わせていただいていいですか?」
「ああ、もちろんかまわないよ。それで俺たちはどこ使えばいいかな?」健作は典子に聞いた。
「右側の寝室はどちらも使えるけど、手前の部屋が南向きですから、そちらを健作さんと修さんでどうぞ。奥は中村先生と渡辺先生に取っておきましょう。トイレとバスは男性陣用にキッチンの隣のものを使ってください。」
「アイアイサー」修は敬礼すると、自分の荷物を取り上げて、右手の寝室に消えていった。
「それじゃあ荷物を置いて一休みしたら、みんなで近くのスーパーに買い物に行きましょう。
きっと、内地のスーパーには見られない面白いものが結構ありますよ。」
「じゃぁ、仕事があるから失礼するよ。」聡はみんなに声をかけた。
「あっ、今日はありがとうございました。お昼までごちそうになっちゃって。」
健作は頭を下げると、目の前に聡の右手が伸びてきた。
二人はしっかり握手すると、聡の暖かく力強い手に心和むものを感じた。
聡は、晴れ晴れとして爽やかな表情を健作に残すと帰っていった。
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