第111話 見逃された俺たち

「ふぉふぉふぉふぉ……」


 フィサフィーが笑っている。


「何が可笑しい?」


 亜金君が、そう言ってフィサフィーを睨む。


「主の弱点はわかっておる」


 フィサフィーは、ゆっくりと指先を玉藻さんの方に向ける。


「こうすれば主は手も足も出せぬじゃろう?」


 フィサフィーは、指先から光を放つ。


「玉藻!」


 亜金君が、慌てて玉藻さんの前に立つ。

 亜金君の肩を光が貫く。


「く……」


 亜金君がうめき声をあげる。


「亜金、主の弱点は……

 自分以外に向けられた攻撃は防げないということじゃ。

 ワシにかかれば螺子の力も間に合わん」


「こいつ、亜金君の能力のことを……!」


 俺は、小石を掴む。


「グラビティ―ゾーン」


 フィサフィーが、そう言うと体が重くなる。

 当然のことながら俺が持っている石も重い……

 俺は思わずその石を放してしまった。


「重力魔法か……」


 バルドさんが、つらそうな声で呟く。


「……これはこれは」


 マスターや軍鶏爺もつらそうだ。


「重力なんかに負けるか!!」


 万桜さんが、そう言って立ち上がる。


「ほう、動けるか……」


 万桜さんが、刀を抜くとフィサフィーに剣圧をぶつける。

 しかし、フィサフィーは、その剣圧を素手で弾いた。

 滅茶苦茶な爺さんだ。


「なら、これならどうだ!」


 亜金君が、そう言ってフィサフィーにプレゲトンで斬りつける。


「む……

 これは流石に痛いのぅ」


 フィサフィーが笑う。


「……まだ笑うか?」


 亜金君がフィサフィーが、目元を緩める。


「狩る側の人間はいつも楽しいもんじゃて……」


 フィサフィーが、笑う。

 寒気が走る。

 なんだこれ……

 こんだけ人数がいるのに勝てる気がしない?

 負ける?負けるのか?

 いずみさんが、気合を入れる。


「これならどうです!」


 いずみが、走る。

 フィサフィーに向かって突進するもフィサフィーは、いずみと距離を保つ。


「主の攻撃はもっと危ないのう」


 フィサフィーの目が笑っている。

 怖い。

 恐怖だけが俺を支配する。

 戦わなくちゃ……

 ここで戦わなくちゃ負ける。


「やれやれ……

 どこまでも手応えがないヤツじゃのぅ」


 フィサフィーは、ため息をつくと重力の魔法を解いた。


「なんのつもりだ?」


 バルドさんが、フィサフィーを睨む。


「興冷めじゃ……

 正直主らだけでは、ワシひとりで勝てる。

 もっと強くなってワシの元に来い」


 フィサフィーは、そう言って一枚の紙をすっと投げる。


「……なんだこれ?」


 俺はその紙を拾い上げる。


「地図じゃ」


「地図?」


「テオスの最終アジトのな。

 そこでモトフミ様がいる。

 そこで最終決着をつけようじゃないか」


 フィサフィーは、そう言って姿を消した。

 俺らは死ななかった。

 俺たちは、見逃されたのだ。

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