第112話 完全なる完敗

「この勝負、完全な完敗だな」


 フィサフィーが、去ったあとバルドさんがそう言ってため息をついた。


「フィサフィーがここまで強いとはな……」


 かみさまは、そう言って俺の方を見るとその場にいる全員が俺の方を見た。


「家出した気分はどうだ?」


 バルドさんが、もう一度俺に尋ねた。


「自分の無力さを実感しました……」


 俺がそう言うとカイが、静かに俺の服を掴む。


「お前は、また私を置いていこうとしたんだな……」


「ごめん」


 今にも泣きそうなカイに俺は謝ることしか出来なかった。


「ごめんじゃない……

 死ぬところだったんだぞ!」


 カイが、涙を流しながらそう言った。


「それでもいいと思った」


「なんで、そんな悲しいことを言うんだ?」


「俺のために誰かがし死ぬのなら誰かのために俺が死ぬ方がいい」


 俺が、そう言うと俺の頬に衝撃が走る。

 カイが俺の頬を叩いたのだ。


「そんな寂しいことを言うな!

 昴は、残された人のことを考えたことがあるか?

 残されたものは、涙を流すことしか出来ないんだぞ!

 私は、昴がいてくれたからここに……」


 カイが、ボロボロと涙をこぼす。

 あぁ、俺はまた女の子を泣かしてしまった。


「そういうことよ。

 アンタが居なくなったら私たちも困るからね」


 ビシャスがそう言うとカイの肩を小さく叩いた。


「そういうことー」


 ピトスが、そう言うと回復の魔法陣を描く。


「女の子を泣かすなよな」


 モチコが、ため息を打つ。


「あたしらもアンタに救われたタチだからね。

 言わせてもらうけど、アンタに死なれるとあたしらも後味が悪いのよ」


 シズカも俺を責める。

 するとバルドさんが、俺の方を見て言った。


「昴。

 もしも、仲間が外に出て誰かに殺されかけたらどうする?」


「助ける……」


「ああ、そうだな。

 俺らがどうしてお前を助けたかわかるか?」


「……仲間……だから?」


 自信がなかった。

 前世の俺には、仲間なんていなかった。

 仲間だと思っていたけれど仲間じゃなかった。

 裏切られっぱなしの人生だった。

 つらかった。

 でも、もしかしたら俺が今行ったことは裏切りなのかもしれない。


「はぁ、仲間って本当に思ってくれてる?」


 亜金君が、そう言って俺の方を見る。

 俺は、言葉を失った。


「思ってないのか?」


 カイが、そう言って俺の目をじっと見る。


「俺に、仲間と言う資格が無いから……」


「どうしてそう思うんだい?」


 マスターが、そう言うと俺は小さな声を出す。


「裏切ったから……」


「何をだい?」


「仲間を……」


「何をしたかわかってるのかい?」


「家出した……」


 それを聞いたマスターが、優しく笑う。


「家出程度では、裏切りにはならないよ。

 その程度で裏切りと思っていることに僕たちは、がっかりだよ。

 僕たちは、そんなに頼りないかい?」


「そんなこと……ない」


「いいか?昴。

 俺たちはお前の仲間であり家族だ。

 何があってもな……

 だから、俺たちはお前を護る。

 命がけでな……

 今回は、完全なる完敗宣言だが……

 次は勝ちに行くぞ」


「勝つってどうやって……」


 俺の自信のない声がその場に響いた。

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