第75話 大切な人を失ったはずなのになにも感じない俺は冷たいのかもしれない

 ――数時間後


 バルドさんとマスター、軍鶏爺が酒を飲んでいる。

 俺や亜金君、かみさまはコーラを飲んでいる。


「あのソラちゃんがのぅ」


 軍鶏爺がそう言って酒を口に運ぶ。


「ええ。

 なんだかんだ言って昴さんとソラさんは、家庭を持つと思っていました」


「……え?」


 マスターの言葉に俺は、少し驚く。


「余も思っていたぞ」


「俺も……」


 かみさまと亜金君もうなずく。


「……俺とソラは、そんな関係じゃないぞ?」


「でも、好きだったのだろう?」


「え?」


 かみさまの言葉に俺は一瞬固まる。


「好きじゃなかったのか?」


 バルドさんまでそんなことを言い出す。


「よくわからん」


 俺が、そう言うとマスターが笑う。


「恋なんて気づいたらしているものですよ」


「そうか……」


「はい。

 なんか異変とかありませんでした?」


「ソラが笑うと俺の心が暖かくなった。

 ソラが泣くと切なくなった。

 ソラが傍にいると安心した」


「人は、それを愛と言うのですよ」


「愛?」


「そうです。

 ソラさんもきっと貴方のことを……」


「でも、そんなことソラは一言も言ってなかったぞ?」


 俺が、そう言うとマスターは、バルドさんに尋ねた。


「バルドさん、尋ねます。

 貴方は、人生に置いて『愛している』と何度言いましたか?」


「さぁな。

 数えてないが、あんまし言えてないな」


「そういうことです」


 マスターが、ニッコリと微笑む。


「いや、わかんないぞ?」


「本当にわかりませんか?」


 マスターが、そう言ってコーヒーを淹れてくれた。


「……そうだな。

 好きだったのかもしれない。

 だが、それが愛かどうかはわからない」


「そうか……」


 バルドさんは、コップに盛られた酒を一気に飲み干す。


「ワシは、思うんじゃが。

 ソラちゃんは、昴のことを愛していたんじゃないかのぅ」


「どうしてそう思うのだ?」


 軍鶏爺のことばに俺は首を傾げる。


「ワシ、レベルアップ仙人じゃからのぅ。

 そういうのんは敏感なのじゃよ」


「そうか……」


「元気出すのだぞ?」


 かみさまが、そう言って俺の背中を叩く。


「ああ」


 元気か……

 大切な人を失ったはずなのに何も感じないたぶん俺は冷たい人間なのかも知れないな。

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