第76話 この世には意味のことのあることよりも意味のないことのほうが多い

「俺は、大丈夫だ。

 それより、亜金君は大丈夫なのか?

 さっきから一言も喋ってないが……」


「……うん。

 大丈夫だよ」


 亜金君が小さくうなずく。


「そうか?

 ソラのことショックだったか?」


 俺の問いに亜金は、静かに答えた。


「俺が、傍にいればソラさん死なずに済んだのかなっと……

 俺が、その不幸を食べていれば……」


 亜金君が、そこまで言いかけると軍鶏爺が言葉を放った。


「死は食べれない不幸じゃろうて……」


「俺の命と交換すれば食べれます」


「ソラの代わりに死んでいればよかったと言うのかお前は……」

 バルドさんが、ため息混じりにそう言った。


「そうだぞ?

 そんなことをしたらソラはきっとつらい思いをしていただろう」


 俺が、そう言うと亜金君が答える。


「それでも、俺は……」


「亜金さん。

 ダメですよ。

 貴方も死ねば悲しむ人はいるのですから」


「ソラさんほどじゃないと思う」


「どうしてそう思うのですか?」


「俺には、愛されない呪いがあるから」


「お前を嫌うのは、力が無いやつ限定だろう?」


 バルドさんが、そう言うと亜金君はうつむく。


「でも……」


「大丈夫だ。

 このギルドならお前なら、愛してくれるヤツが現れる」


「俺には、わからない。

 不食の能力の意味も……

 不食の能力の使い方も……」


「意味なんてないさ。

 俺らはそういう生き方でいいじゃないか?」


 俺が、そういうとかみさまもうなずく。


「そうだぞ。亜金。

 この世には、意味のあることよりも意味のない事のほうが多いのだからな」


「そうだね」


 亜金君は、そう言って立ち上がった。


「亜金?」


 俺は、亜金君の方を見る。


「すみません。

 俺は、もう帰ります」


「……そうですか」


 マスターは、そう言って頷いた。


「兵長ごちそうさまでした」


「いや……気にするな」


 バルドさんが、そう言って亜金君の方を見て笑った。

 亜金君は、軽く頭を下げると店を出た。


「……昴。

 すまないな。

 亜金は、昔色々あってな人の死に敏感なんだ。

 誰かが死ぬたびにああやって自分が代わりに死んでいればと言う。

 悪いやつじゃないんだが……

 まぁ、なんだ。

 次の任務は、亜金と一緒にアンゲロスの所にプレゲトンの様子を見に行ってやってくれ。

 プレゲトンの交渉には、恐らく亜金の力も必要だからな」


 バルドさんが、そう言うと俺は頷いた。

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