第23話 ご主人様と呼ばれる日

 そして、俺はギルドまで走った。


「もう大丈夫だ……」


 玉藻さんが、静かに頷いた。


「本当に?ギルドの場所を特定されて襲われたりしない?」


 俺は、テレビやゲームでありきたりの設定を言ってみた。


「ウチのギルドは、公認ギルドだからね……

 場所はすぐに特定されると思うよ」


 優心さんが、小さく答える。


「で、お前はコイツをどうするつもりなのだ?」


 玉藻さんが、そう言ってサキュバスの方を見た。


「あ、君はもう逃げてもいいぞ?」


 俺は、そう言ってサキュバスを降ろした。


「え?」


「そうだな。

 ここでお前は逃げた方がいい」


 玉藻さんもそういった。


「でも、私行く場所ない……」


 サキュバスが、呟く。


「なら、先ほどのオークの群れに戻るか?」


「それだけは絶対に嫌……」


「なら逃げろ……」


 玉藻さんが冷たく言い放つとサキュバスが、今にも泣きそうな顔をしている。


「えっと……

 モンスターってギルドに入れないの?」


 俺は、よく考えもしないでそう言った。


「前例はないね」


 優心さんがそう言って苦笑いをした。


「じゃ、ペットでもなんでもいいから貴方のそばにいさせてください!」


 サキュバスが、そう言ってその場で頭を下げた。


「……こう言っているけど、ダメ?」


 俺は、そっと玉藻さんの方を見た。


「いいんじゃないか?」


 すると俺の後ろから若い男の声が聞こえた。

 バルドさんだった。


「兵長……?」


 玉藻さんと優心さんが目を丸くさせて驚いている。


「あ、バルドさん?」


「その様子だと仕事は失敗したみたいだな……」


「はい。

 オークの群れの中に指揮をする男がいました。

 男の名前は、ヴィン・バレンタインです」


 玉藻さんが、冷静に言葉を放つ。


「ヴィンか……」


「知っているのですか?」


 玉藻さんの質問にバルドさんが答える。


「ああ……

 最凶のスナイパーだ。

 ヤツの銃弾を浴びて生き残った奴はいない。

 ヴィンは、銃弾に魔力を籠めて撃つ。

 物理攻撃と魔法攻撃の両方を併せ持っている最凶のスナイパーだ」


「げ……」


 俺は思わず声を出す。


「どうしたんだ?

 そんな声を出して……」


 バルドさんが、首を傾げた。


「いや、その銃弾。

 何発か当たったのですが……

 呪いとかで死んじゃいますか?」


「当たったのか?

 マジで?」


「はい。

 当たってました……」


 玉藻さんが頷く。


「安心しろ。

 ヤツの銃弾は、即死性だ。

 当たれば必死。

 必ず死ぬ」


「でも、俺は死んでないですよ?」


「それは、お前の防御力が高いからだな。

 そうか、お前の防御力はヴィンをも超えるか……」


「でも、痛かったですよ?」


「痛いで済むお前が凄い」


 うーん。

 いまいちわかんない。


「あの……私はどうなるんですか?」


 サキュバスが、不安な表情で俺の方を見ている。


「名前は?」


 俺は取り敢えず名前を尋ねた。

 いつまでもサキュバス、サキュバス思っていられない。


「ソラ」


 サキュバスが、答えた。


「ソラさん?」


「うん。ソラでいいよ。

 ご主人様」


 ご主人様?なんだ……?

 この心に響く言葉は……


「いい名前だね」


「ありがとう。

 ご主人の名前を教えて下さい」


 ソラが俺の名前を訪ねてきた。


「俺の名前は、小野寺 昴だ」


「かっこいい名前ですね。

 ご主人様」


「そう?」


 名前を褒められたのは、はじめてかもしれない。

 なんかいいぞ。

 ご主人様……


「部屋は、同じでいいな?」


「はい!」


 バルドさんの問いにソラは元気良く頷く。


「っていいの?

 俺も男だよ?

 何をするかわかんないよ?」


「いいですよ……ご主人様になら……」


 もしかして、これってハーレムフラグのはじまりなのか?

 俺、ソラで童貞卒業できるかも?

 ってか、俺にご主人様と呼ばれる日が来るなんて思わなかった。

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