第8話 ひきこもりが異世界に行っても強くなれない

 さて、ひきこもりの俺がまずここにしてすること。

 それは、可愛い子を沢山集めてハーレムを作ること。

 ではなく……子守だ。

 恋愛対象とは、とてもじゃないけど言えない子供たちを相手にしている。

 この子たちが、せめてあと十数年過ぎれば恋愛対象になるかもしれない。

 でも、そんな事を待っていたら俺はおじさんになってしまう。


 「私がオバさんになっても――」という歌があったけれど……


 この子たちは、俺がおじさんになるまで待ってはくれないだろう。

 と言うか……俺は、いつまでこの世界にいるのだろう?

 戻れるのだろうか?戻れたとしても戻れる場所がないか……

 そんなことを思っていたら同じく子守の仕事をしている赤髪に赤い瞳の美少女、万桜さんが話しかけてきた。


「なにかわからないことある?」


「え?」


「わからないことがあったら何でも言ってね?

 私にわかることならなんでも教えるわ」


「んー。

 むしろなにがわからないかがわからない」


「え?」


 万桜さんが困った顔をしている。

 そりゃそうだろう。


「えっと、俺は異世界から来たからね……

 この世界のことがいまいちわかんない」


 俺は、万桜さんにもことの経由を話した。

 するとあっけなく受け入れてもらえた。


「へぇー。

 じゃ、亜金君と話が合うかもね」


「その亜金って人は、どこにいるの?

 バルドさんやミズキさんの話にも出たし少し気になっているんだ」


 俺が万桜さんに尋ねると万桜さんが、苦笑いを浮かべながら指を刺した。


「あそこにいるんだけど……

 昴君は、どうなるんだろう?」


「うん?どういうこと?」


「亜金君は、ちょっと変わっていてね。

 呪いがあるんだ」


「呪い?」


 俺が、首を傾げると万桜さんの表情が変わる。


「人から愛されない呪いよ」


「え?」


 俺は、一瞬耳を疑った。


「まぁ、魔力が高い人には効果がないんだけど……


 魔力が低い人は、亜金君を嫌っちゃうの。

 だから、亜金君はギルドのコミュニティから出たがらないの……」


「そっか……」


 なんとなくわかる。

 俺も元の世界では、結構嫌われていたからな……

 異世界でもどうなるかわからない。

 気をつけないとな……


「あ、亜金君!」


 万桜さんが、そう言って亜金君に手を振った。

 亜金君は、一瞬俺の方を見て遠くの方から手を振り返した。


「亜金君もこっち来なよー」


 万桜さんが、そう言うと亜金君が遠くの方から声をかけてきた。


「その人誰?」


 まぁ、そうだよな。

 そんな呪いがあったら人と距離を置きたくなるよな。


「この人は、昴君。

 小野寺 昴君だよー

 異世界から来たから多少魔力はあると思うよー」


 その基準は、わからない。

 異世界から来たらチート級の魔力を持っているなんてよくある話だけど……

 それほど世の中うまくいかないことを俺は知っている。

 というか気づいている。

 チートなんて現実にはないってことを……

 ひきこもりが、異世界に行っても強くなんてなれないってことを……

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