TWO FACE
深夜シン
プロローグ
「教えてたまるか」
既に組織の一員で無くなった今でも妙に強い結束力は残っているのだろうか。
それが組織犯罪の一番の長所でもあり短所でもある事を高橋は十分承知していた。
県有数の波止場だが夜中になると人も殆どいなくなり、周りには波音だけしか響かない。規則的な波が打ち上げる音と男の荒い息遣いが夜の空気を揺らしている。
右肩を既に一発撃たれている目の前の男は抵抗する力も無いのか、背後にある半ば壊れかけているコンクリートの壁に身体を預けている。既に痛みを感じないのか右腕はだらんとして力が無く、使い物にならないようだ。
重傷を負っているのにも関わらずこちらを睨みつける眼力は衰えていない。このようなささやかな反抗をしてくるのも高橋にとって気に喰わない。高橋が男の腕を足先で圧迫すると、男は痛みで顔をしかめる。
「っつ――」
男が声にならない叫びを上げる。このような姿を目の当たりにしながらも、良心が全く痛まない自分はやはりどこかおかしいのだろうか。そんな中冷静に愛用の銃である9mmのトカレフを右手に構えるとカチリと慣れた手付きで安全装置を外す。
「痛いなら早く居場所を教えろよ」
「吐くくらいなら殺された方がましだ」
更に痛みを加えるため右肩の丁度銃創がある所を銃口でつついてみる。
「くっ!」
男は痛みにしかめながらもぐっと歯を喰いしばるだけで何も吐こうとはしない。
そろそろこいつもお役御免なようだ。
高橋はそう心の中で呟くと銃口を相手の眉間に当てて狙いを定める。最期を悟ったのか男が息を荒くしながら唇を噛み締め、銃口の先にいる自分の瞳を睨みつける。
「最期に言いたい事は?」
「……….が殺人か、世も末だな」
パンパンと二回乾いた音が暫くの沈黙を破った。
ぐったりとして頭から血を流す男は二度と口を開く事はなかった。
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