03-01 偽空の下で(1)


 ――城塞都市『ラウエル』

 魔族だけで無く同じ人間族を含む外敵から己が領地を守る為、広大な土地の周囲に深い堀を穿ち、水を溜め、多くの煉瓦や石を用いて造り上げた壁は高山にも匹敵するほど高く堅固。

 その上、空からの奇襲にさえ対応できるようドーム状に造り上げられた石の天蓋によって、ラウエルの上空も完全に包まれている。その様はもはや難攻不落の要塞と言っても過言ではない。

 そして、唯一の出入り口である巨大な門口――優に五階建てのビルに匹敵するであろう門前で行われている検問所では、必然的にラウエルへの立ち入りを求める者達が門番である三人の憲兵達による質疑応答によって足止めされ長い行列を為していた。


「次の者、前へ!」


「「………………」」


 その行列の最前列に並ぶのは薄汚れたローブを身に纏う二人組。二人は自分達の荷物を背負う荷馬を引き連れ、静かに憲兵の呼び掛けに答え前へ歩みでた。ローブに付いているフードを深く被っているせいで顔つきは分からないが一人は背の高い男。もう一人も同じ格好だったが、こちらは男よりも頭一つ分程背が低く身体の線も細い事から女だろう。

 二人の風貌と荷馬が運ぶ少量の荷物から判断して人間族の村や街、大きな都市を巡り商売を営む商人では無い事は一目瞭然。考えられるのは定住の地を探して方々を旅する旅人、もしくは人間族も魔族の手も入らぬ秘境を探し其所に眠る金銀財宝を掘り当てることを生業とする冒険者。

 どちらにせよ身なりからして怪しいと思っているのか、ラウエルに置ける規約同意の証拠となる言伝石を手に二人を見る憲兵達の視線は厳しいものだった。


「街への立ち入りを許可するために身分と荷を改める、まず顔を見せてもらおうか」


「……これで良いか?」


 鋭い視線を向けられる中、男は被っていたフードに手を掛け顔をさらす。

 フードの下から出てきたのは灰色の髪と右と左で瞳の色の違う双眸が特徴的な端正な顔立ちをした青年……成人しているようにも見えるが若者特有の青さを感じる。


「若いな……それで名前と此処へ来た目的、滞在期間は?」


「名前は名無、家名は無い。旅すがら貴重な品を集めて生計を立てている。ここ暫くめぼしい見つけられていなくてな、休息をかねての情報収集がしたい。期間は一週間程」


「冒険者か、ならもう一人は同業者だな? それとも身内か?」


「彼女は……」


「私はご主人様の忠実なる隷でレラと申します」


 名無が答える前に連れだった少女が名無と同じようにフードを捲り、一切の感情を切り捨てた声で答えた。


「なっ!」


「ま、魔族だと!?」


「あの肌……ブルーリッドじゃないかっ!!」


 人間しかいないこの場において、平然と魔族であると名乗り出たレラに憲兵達だけでなく名無達の後ろで列を作る者達も驚きの声を上げる。

 そんな彼等をしり目に言葉を続けるレラ。


「道中の荷物運びからご主人様の朝のお食事の準備に身だしなみのお手伝い、夜のお戯れの相手もさせて頂いております。勿論、日が高くとも求められればいつ何時でも……それが私の役目、この身はすでにご主人様の所有物。身も心も捧げております」


 ローブの下に隠れるその肢体はか弱く細い。しかし、それに反してメリハリある体つきは瞠目に値する。

 見ただけで確かな弾力と大きさを実感する事が出来る程よく実る双丘、思わず吸い付きたくなるような艶のある唇、喉を鳴らし息を飲み込みざるおえない優艶な腰つき……。

 もしその裸体を此処で晒したとしたら、この場に居る男達の眼はどうあっても彼女の肉体に釘付けに成るだろう。例え己が妻や子供達の眼があったとしても視線をきる事など考えもせずに。


「既にご主人様から身の振り方を学ばせて頂いた身、立場は充分にわきまえておりますのでご安心下さい」


「そ、そうか……それは何より……だ」


「その若さで良くここまで従順に、どれだけ調教しても反抗心は残るというのに……いや、若いからこそ欲望の赴くままに躾けたのが逆に功をそうしたか」


「だとしたら、一体どれだけ…………」


 人間族は魔族を自分達よりも下である事が当然だと考える者達が大半だ。

 この人間族が築き上げた城塞都市ラウエルでもその考えは強く刻み込まれている。

 それは名無達の立ち入りを検分している憲兵達にも言える事だが、羞恥心で躊躇うことも唇を噛んで悔やむ事もせず淡々と自分の身の振り方を語るレラの様子に憲兵達は名無が施してきたであろう調教の苛烈さと悲惨さを想像してたじろいでしまう。


「…………根掘り葉掘り聞かれるのはあまり良い気分じゃ無い、すまないが手続きを再開してくれ」


「あ、ああ! そうだな、後ろがつっかえているしな」


 レラの発言で思いがけず向けられる周囲の冷めた視線に名無は眉を寄せ、居心地の悪さから早くこの場を離れようと憲兵達に先を促す。


「えー、見たところ手荷物に異常は無い。荷馬の方に積んでいる物にも危険な物は無いようだが……冒険者なら武器も携帯しているだろう。所持している武器は?」


「これだ」


 名無は手を腰へと回し、ホルスターに治まっている対輪外者武器(ノーティス)を取り出し刀身を構築してみせた。


「まさか奴隷だけでなく魔法具まで所持しているとは………………先程から失礼な態度を取ってしまい大変申し訳ありません。以前は魔法騎士の位に身を置いていたとお見受けいたしました」


「……さっきも言ったが、あまり身の上について聞かれるのは良い気分じゃ無いんだ。今の事も含めて悪いと思っているのなら早く済ませて欲しいんだが」


「重ね重ね申し訳ありません……ナナキ様の生業は冒険者であらせられるようですが第二区画への滞在を受付させて頂きます」


「第二区画というのは?」


「はっ! このラウエルは滞在する場合だけでなく定住する場合も、身分や生業としている職を基準にして円形状に五つの区画に分けて住み分けをしているのです」


 城塞都市ラウエルの構造は樹木の年輪のような同心円状の模様の様に全五区画に分割されている。


(分かり易く考えるならバームクーヘンの形をしていると言ったところか)


 外見や言動とは裏腹に、門番達の説明を思いの外可愛らしい例えでラウエルの構造を理解した名無。そんな変わった解釈をしているなど思ってもいない門番達は名無への説明を続ける。


「第一、第二区画は魔法騎士以上の位か上流商人の地位を確立している方だけが立ち入ることが出来るラウエルに置ける最大の安全地帯です。警備も厳重にしており治安が整っていますので、滞在中は快適な生活を保証いたします」


「残りの三区画はどうなっているんだ?」


「第三区画は冒険者、第四区画は中流から下流までの一般市民、最外層の第五区画はラウエルに定住するだけの財力と力を持たない旅人達を申請期間だけ滞在させる為だけの区画になっています」


「その規定で言えば俺達は第三区画のはずだ、なのに第二区画への滞在を許可する理由は?」


「魔法具の所持と調教の行き届いた奴隷の所有。これらの事を踏まえまして、ナナキ様にはラウエル第二区画での滞在が見合う待遇だと提案させて頂きました」


「………………」


「ご、ご不満でしょうか?」


「いや、その提案を受ける」


 身の安全と休息を考えるのであれば少しでも安全な場を確保したい身としては、憲兵達の提案を断る理由は無い。それにこれ以上この場に留まるのは拙い。レラ……の不用意な発言もそうだが、自分が魔法騎士だと誤認されてから周りの視線が一層自分に注がれ始めた。

 必要以上に目立ってしまっては、ラウエル内を出歩くにも支障が出かねない。

 しばらくの黙考の後、早く話を切りあげようと表情を強ばらせる憲兵の言葉に淀みなく応える名無。


「こちらの提案を受け入れて頂きありがとうございます」


「それで検査はまだ続くのか? 無いのなら泊まる宿を探したいんだが」


「最後に一つだけ注意して頂きたいことが」


「注意?」


「はい」


 最後と口にしながら名無に向けられていた憲兵達の視線はが再び名無の後ろで控えているレラに向けられた。その視線に害意らしいものは映ってはいない……が、我関せずといった無機質な感情がありありと浮かんでいた。


「ナナキ様の連れている奴隷、ブルーリッドは『心器』の材料にもなる貴重な個体。第一、第二区画に定住する魔法騎士の位に就く方々の眼に止まる可能性は大いにあります。その際、揉め事が起きてしまった場合は自己責任という事で対処して頂く事になります。ですので、外出の際は充分お気をつけ下さい」


「……分かった、その点に関しては自力で何とかする」


「ありがとうございます。あと最後と申し上げましたがもう一つ、第二区画以上の滞在者には全区画共通で金銭の支払い義務は発生しません。全て接客側が負担しますので自由にお楽しみくさい」


 では、お通りください……と立ち入り許可を出した憲兵達は胸の前で右手を構え小さく頭を下げる。


「行くぞ、レラ」


「はい、ご主人様」


 これでラウエルの中へと入ることが出来る、名無とレラは門番が溢した最後の注意点。人間族最大の法を聞いても特に表情を変えること無く歩を進める。その一方で、


(魔法騎士同士の争いには口出ししないか……ここまでハッキリと明言すると言う事は、少なからず普段からそう言うことが起きていると考えた方が良さそうだ)


 表情を変えることが無かったとは言え、すでに我が身に災難が降りかかってくる事が示唆されてしまっている状況に名無は頭を悩ませるのだった。













「――マクスウェル、さっきのはどう言う事だ」


 ラウエルの検問所で行われていた検査を終えた名無は、レラと共に第五区画から第三区を寄り道すること無く歩き進め自分達に宛がわれた第二区画へと辿り着く。そして、区画内にある宿の一つで部屋を確保し休息を取っていた。


『さっき、というのは……検問所での事でしょうか?』


「そうだ」


 身体と心の疲れを癒すための時間ではあったが、名無は棘を感じさせる声でレラの首から備え付けのテーブルの上へと居場所を映したマクスウェルを問い詰める。


「レラの声を模倣して憲兵達の前で言った事だ、アレでは悪目立ちするだけだ」


『内容は任せるとの事でしたので、ワタシが保有している奴隷に関する情報から適切な物を選んだつもりでしたが』


「……それでも限度がある、見ろ」


 シャルアを出立してから約一ヶ月、エルマリアの助言を受けた今の名無とレラの関係は人間上位の主従関係である。しかし、これはあくまで人間達の集落や都市に限り魔族であればその反対という立場を演じるというわけだ。

 とは言え、レラが主では名無を従えるだけの力が無いことは一目瞭然ではある。が、マクスウェルを拘束に秀でた『心器』である事にすれば後々の対応の選択肢を広げることが出来る。

 そして今回は人間族が統治する都市であり、限定的とは言えマクスウェルが自身に保存していた奴隷に関する情報を元に憲兵達に提示したレラの立場は間違いなく最適解であるのだが……


「……うぅ……」


 同じ部屋で、たった一つしか無いベッドの上で隠れるようにシーツに包まり小さく唸るレラ、その姿に目頭を押さえる名無。

 ラウエルに辿り着く直前である程度の打ち合わせはした。しかし、レラが人前で淀みなく自分の枠割りを説明する事が出来ないのは打ち合わせをする前から分かっていた。人も魔族も得手不得手がある、まして今回は魔族の比率が少ない人間族の街……レラの負担も一入である。

 そこで少しでも彼女の負担を減らそうと今回のような検問に対して、マクスウェルにレラの代役を任せたのだ。マクスウェルであれば突然の話題転換や斬り返しにも柔軟に対応する事が出来る上に、戸惑いや動揺と言った相手側に付け入る隙を見せない事も期待できる。これ以上無い適役だと名無もレラも必要以上に気負いせず検問所へ出向苦事が出来た。

 だが、その結果はより一層レラに負担を強いる形になってしまった。

 蒼い肌でも頬が上気しているレラの表情は、文字通り顔から火が出るのでは無いかと言う程に赤い。原因は言わずもがな、マクスウェルが淡々と口にした奴隷としての過激な奉仕内容である。

 あの大衆の前で表情を崩さず冷静にマクスウェルの音声に合わせ口を動かし、何事も無かったかのようにこの部屋まで辿り着けたレラを褒めたい、本当に心からそう思う名無だった。


「話す内容は成るべく穏便な形で頼むと言っておいたはずだ」


『ですが、あの状況を利用しない方が下策だったと思われます』


「……理由は?」


 出来るなら今のうちにマクスウェルの判断基準を改めさせたかった名無だったが、マクスウェルの考えに耳を傾ける。


『レラ様に恥を強いて行った発言のデメリットは言うまでもなく、レラ様が悶えている羞恥心です。他にはレラ様が希に見る調教が行き届いた奴隷である事、日常生活に置ける補助能力が高い事の三点。ですが、同時にレラ様の安全もある程度ですが確保されたと思います』


「その根拠は?」


『ワタシの発言は確かにマスター達が悪目立ちする物でした。しかし、同時に憲兵達の誤認も加わって、あの場にいた者達の意識はマスターに注がれました。この時点で彼等のレラ様に対する認識はマスターの従順な奴隷で固定され、ワタシがレラ様として所有権の有無をマスターにあると明言した事でレラ様を力尽くで奪おうとする輩には効果的な牽制となったはずです』


 生まれ持った可憐な容姿もさることながらレラは魔族の中でも特殊能力を持つ珍しい種族である、それは皮肉にも男達の欲望のはけ口にも『心器』という力を求める魔法騎士達の欲求にも答える事が出来てしまう事に他ならない。

 奴隷が一体どう言う存在なのか、どう扱われるのか。

 名無も《輪外者》としての力を兵器として悪用され戦う事を強いられた身だ。それも奴隷の有効的な活用応報の一つである。

 しかし、そんな名無以上にマクスウェルは奴隷に関する知識を保有している。だからこそ、敢えてレラが誰の所有者であり、誰が行動の一切を管理しているのかと言う事を強く印象づける事でレラの身の安全をはかろうとしたのだ。

 ただ、問題が無いわけではない。


(マクスウェルの出した案は悪くないが、それでも力尽くでと考える奴等までは止める事が出来ない……やはり、エルマリアさんの助言の通りにするしかないな)


 レラを狙うだけで無く他の理由でも、自分の前に的として立ちふさがる者が現れたのなら躊躇ってはいけない。


 その助言を思っていたよりも早く実行せざる終えない機会が来るとは……いや、むしろシャルアからラウエルまでの道中。一ヶ月という決して短くは無い期間、人間族や魔族と揉め事を起こさず過ごせたことの方が上手くいきすぎていると考えることもできる。

 どちらにせよ、加減を間違えないようにしなくては……。


「マクスウェルの考えは分かった。それに検問所でも憲兵達から自力で対処しろと忠告も受けた事もある……レラ」


「は、はい!」


「出来る限り問題を起こすつもりは無いが、もし人間族に絡まれた時は俺の後ろに。何か聞かれても答えなくて良い、俺が対処する。任せて貰えるか?」


「はい、私はナナキさんの様に戦えませんから。でも、私に出来る事があったら言ってください。私に出来る事なら何でも…………なんで、も……なん……で……も…………」


「……安心してくれ、荒事もそうだが疚しい事も頼む事はしない」


「は、はいぃ……」


 自分が口にした『何でも』という言葉に、自分の声でマクスウェルが言った事を思い出し頬を朱くして俯いてしまうレラ。合成された音声とは言えレラの声を元に作成されたものだ。誰でも自分の声であれば簡単にその声音を思い出すことが出来る……口籠もってしまっている事からも自分では決して言わない、というか言えない内容が何度も頭の中で甦り、その羞恥心と動揺を納め切れていないことがありありと分かる。


「んんっ……とりあえずではあるが方針は決まった。今日一日は不必要な外出は控え身体を休めることに専念しよう、食事もこの宿で済ませることが出来るからな」


 一週間の滞在期間中、宿泊する事になった客室には一人で寝るには大きすぎるベッドから始まり誰にも急かされる事無く湯浴みを楽しむ事が出来る浴室も完備。そして、食事に関しても宿屋内で食事を済ませる事もできる。

 これなら外に出ず宿屋の中だけで一日中過ごすことが出来るのだから、あまり表立って行動せずに済む点は素直にありがたかった。


「そ、それじゃ……先にお風呂に入っても良いですか? 人間の人達が沢山いるところに汚れたままで行くのは、その、あまり良くないと思うので……」


「そうだな、身なりをだしに強気に喰ってかかられる可能性もある。レラの後で俺も入る事にする。それと急がなくて良い、少しゆっくりしてから動く事にしよう」


「ありがとうございます、それじゃ先にお風呂頂きますね」


「ああ」


 レラは荷物の中から着替えを手に取り、浴室へと入っていった。身だしなみの事もそうだが、浴室の扉を開けた時に見えたレラの横顔は喜んでいるように見えた。年頃の少女としては身体の汚れをゆっくりと、そしてしっかりと落としたかったに違いない。

 そんなレラの姿に名無は肩の力を抜く。


「今度は上手くペース配分が出来ていたようで安心した、あの様子なら疲れを隠していると言う訳ではなさそうだ」


『イエス、ワタシの生体スキャンでも不調らしい不調は見つかりませんでした。前回よりも移動ペースを抑えた事と、簡易的な物ですがマスターが用意した浴槽に張った湯船による疲労緩和が功を奏したようですね』


「俺としても魔法の加減を覚えるのに一役かってくれているからな、そういう意味でも助かってはいる…………まあ、俺が近くにいては気が休まらないのは眼を瞑ってもらうしかないが」


 こうして話している間にもレラは湯浴みの最中である、当然の事ながら覗き等という不貞をする気は無い。人間族の街に滞在するからには気を休めることがどれだけ難しい事なのか分かっているつもりだが、それでもレラには身体だけで無く精神的にも休んで貰えたらと思う。

 その為にも出来る限り彼女の行動に気を配り、同時に配りすぎない距離感を保たなくては。


「さて、レラが入浴している間に手荷物を整理しておくか。大仕事とは言わないが、やるべき事を済ませておいた方が彼女も休めるだろう」


『イエス、気を抜くことが出来る部屋を確保出来た事でこう言った些細な事でも億劫に思えるものです。重要なことで無くても用件が済んでいるのといないのとでは心持ちが違うのは間違いありません――しかし、少しでも情報収集はしておくべきだったかもしれませんね』


「楽観的なのは理解している、気がかりな事があることも。だが、レラは周りの変化に敏感だ。俺達が下手に警戒心を見せれば彼女も気をはる事になる……今は力を抜きつつ冷静に努めよう」


『イエス、マスター』


 床に置いていた旅袋の一つに手を伸ばし、簡単な荷ほどきを始める名無。しかし、整理を始める前に少しの間だけ眼に映った光景に名無は眼を細めていた。

 彼の色違いの双眸に映ったのは、何てことの無い風景。

 何処までも広がる晴れ渡った青い空とゆったりと浮かび流れる白い雲――天蓋という灰色の盖(かさ)に塞がれているはずの頭上に広がる、見えるはずの無い空の景色に言い知れぬ不穏を感じ取って……。




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