魔法つかいのマテマティカ

@hironobu

序話

 火の魔術はE = ( e ・ m ) ・ M²で表される


 その限界点はこうだQ = q / √ ( 1 - ( e / A )² )


 これが魔術だ。


   +++++

 胸の中央に穴を開けた女性が倒れている。

 そのこぶし大ほどの昏くらい物は、まるで元よりそうで在ったかのように、彼女の胸の中央で、綺麗に、見事に、確然たる球を描いてそこを抉えぐっていた。

 そして、元は彼女の胸で活発に、しかし規則正しく打っていた器官を掠かすめ削ぎとっている。

 けれど、それだけの傷を負いながらも、彼女の胸からは一滴の血液も溢れていない、そのことで傷口の見事さを、いっそう見る者にはっきりとさせた。

 いまその傷を見下ろす男が一人、足元に散らばった霜のようなものを踏みしめ、何の感慨もなく、どのような達人でもなし得ないような切り口を眺めている。

 彼は唯一言、

「これで完全だ」

 そう呟いた。

 彼の瞳を、倒れた彼女の、嘗かつて知性を灯した瞳が、今やその仕事を終えた瞳がみつめていた。

 男の名はサードマン・エルバーグ。

 英雄である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る