第55話 馬車内

 馬車の中は見た目よりも何倍も広かった。俺のと同じ、エンチャントによるマジックルームだろう。

 今、グレープさんから中の説明を受けている。



「ん……しまった、どうしよ」



 おいおい、一体どうしたと言うんだ? 俺らの部屋の説明する直前に、そんなこと言われたら不安で仕方ないだろう。



「ど…どうしたんですか?」

「ん~、いやね~。冒険者さん達のお部屋、二人で一部屋しか無くって……ガバイナさんとアリムちゃん、一緒のお部屋。」



 あ、なんだその程度か……。

 ………そういえば俺は今、女の子じゃん。そういうことね。心配はいらないよ。リビングのソファで寝れば良い。



「ん~、いやね。ごめんね。まさか女の子が来るとは予測してなかったから……」

「だったらボク、リビングのソファで寝ますよ?」

「否、俺がソファで寝よう。アリムは部屋のベットで寝るが良い。そもそも俺は野宿覚悟だったのでな」



 ガバイナさんがそう言った。いやいや、そんな訳にはいかないでしょうに。俺よりガバイナさんの方が役割がでかい。



「そ…そんな訳にはいきませんよ! ガバイナさんは何かあったら魔物と闘わなくちゃいけないんですから…。ボクがソファで。……いや、ガバイナさんが良いんでしたら……あのぉ…そのぉ……一緒のお部屋でも……大丈夫……です…よ?」



 なんで今、無駄に頬を赤らめてモジモジしてるかわかんないや。これ、性別変換の効果の1つだよね。多分。

 ガバイナさんはかなり困惑している顔で俺に問う。



「…本当に大丈夫か?」

「…はい…。大丈夫です。ガバイナさんなら大丈夫そうな気がします」



 何がどう大丈夫なのかサッパリわからん。だから俺は、無駄に恥ずかしがってんなっての。これ本当、魅力の才の効果と合わせて、ヤバイことになるんじゃないか?



「ぬぅ…………。本人がそう言うならば仕方ない……か」

「ん~、お二人さん、ごめんね?」

「いえ」

「大丈夫です」

「ん~、じゃ、しばらくやる事ないから、このリビングでのんびりしててねー」



 あ、グレープさん自分の部屋に行っちゃった。暇じゃん。どうしよ? 控え中の御者さん達、ガバイナさんと遊ぶか? いや、まだそれは早いな。

 何しようかなー。なーんにもすることないんだよなー。

 そんなこと考えてると、ガバイナさんに話しかけられた。



「アリムよ。お前は何故、その歳でDランクになれたのだ? 普通の者はDランクになるのに、数年、早くても数ヶ月はかかるものなのだが?」



 あ、それを聞きたかったのか。いいだろう。答えてあげよう。



「それはですね。冒険者になる前から魔物を倒したりしてたんですよね…。だからかもです」

「ほう…成る程な。既に対魔物を経験済みだったと。納得した」

「はい。そういうことなんです、それにしても」



 ガバイナさんは腕を組み変え、続ける。



「アリムよ、お前には人を惹きつける不思議な魅力があるな。あと3~4年もしたら世の男は黙っていないんじゃないのか?」

「ふぇ!? そうですか? えへへ」



 おうおう、こいつはいきなり何をいいんだすんだよ。そんな思考を読み取ったのか、ガバイナさんはこう言う。



「ふ。悪いな。半分からかった。つい」

「むーっ!」



 ついからかったってガバイナさんねぇ……。

この会話にグレープさんも介入してくる。



「ん~、確かに私は商売柄、いろんな女の子をみてきたんだけどねぇ…その中でも別格だよね」

「グ、グレープさんまで!」



 いや、魅了の才ヤバイな。俺にはもう美少女というレッテルが張り付いたぜ。

 そんな感じで和気藹々と話していたが、今、運転している御者さんが、馬車を止め、叫んだ。



「うわっ! 魔物だっ!」



 グレープさんは一切同様せずに、ガバイナさんにアイコンタクトをした。その意を汲み取った彼は行動を起こす。



「承知」



 ガバイナさんは馬車から出てその魔物と対峙する。

 俺は場所の中からその魔物を見て、ズマホトで調べる。

 魔物の名はトレント。Dランクの木の魔物だ。


 ガバイナさんの装備は槍(ランス)と盾。トレントの蔓の攻撃を盾で防ぎ、槍で突く。



「槍の豪 二の連突」



 ガバイナさんはそう、技名を言い、槍を素早くトレントに刺す。一回しか突いてないはずだが、敵は3箇所に風穴が開いた。

トレントは倒れた。

 

 これが[槍の豪]の技の1つか。

 ちなみに、剣極奥義も、こんな感じで技名を言ったら技を出せる。まだ使ったことないけど。

 グレープさんも、トレントが倒れたのを確認したようだ。



「ん~、さすがAランクだね~。アリムちゃん、あの魔物の解体、お願いできる?」

「はいっ」



 俺は馬車から降りて、その場でトレントを解体する。自分の中では等速で解体したのだが、周りから見たら異常な速度だったらしく、ガバイナさんもグレープさんも、御者さんも驚いた顔をしていた。

 ちなみに、解体したものは依頼が終わってから俺、ガバイナさんで山分けをするのだそうだ。

 その際にグレープさんが買い取ってもいいのだとか。

 解体し終わり、トレントをグレープさんのマジックバックに収納したら、また馬車は走り出した。


 

 お昼時となった。朝ごはんを抜かしているためお腹が減っている。

 グレープさんは俺に、そろそろ昼食を作ってくれと、頼んできた。馬車内の食物庫の食材は自由に使っていいらしい。

 しかもこの馬車、キッチンもきちんとついてる。さすが商人。


 さて、みんなのために美味いものを作ってやろう。そうだな、オムライスでも作るか。

 アイテムマスターの能力全開にして、俺は至高のオムレツを作った。どうせだ、サービスとしてエプロンのままで、みんなの前にでてやろう。



「はい! お待ちどうさまです!」

「ん~! おいしそーだね~ すごくいい匂いだ」

「ふむ。味は期待できそうだな」

「エプロン、いいね!」

「な、可愛いよな!」

「お腹減ったー」

「美少女のエプロン……いいっ!」

「では、皆さん、召し上がれ」



 みんなは食前の挨拶をし、スプーンでオムライスをすくい、口の中に入れる。

 

 あ、あれ? みんな黙っちゃった。その一瞬の静寂を破ったのが、グレープさんの次の一言。



「ん~、ちょっと…アリムちゃん、これは一体?」

「ふえ!? お、お口に合わなかったでしょうか?」



 美味しくなかったかな? もしそうだったら本当に申し訳ないな。

 グレープさんは首を振りながら言う。



「ん~、その逆。美味しい。いえ、美味しすぎる。いい? 私はね、王都一って言われる料理人の料理を食べたことも、城に仕えてる料理長の料理も食べたことがあるわ。言っとくけど、お世辞じゃない。その二人よりも美味しい。美食家の私が言うんだから間違いないね。正直に言うよ。あなたの味はアナズム#一__イチ__#よ。」



 そういえばアーキンさんもそんなこと言ってたな。あの時は同じくらい美味しいって言ってたっけ? アイテムマスターのおかげで、ついに超えたか。

 グレープさん以外も、感想を述べ始める。



「美味い……。グレープ殿の言うとうりだ。一介の冒険者、それも成年もしていない少女がこの料理の腕。何者なのだろうか? 解体の早さも異常だったしな」

「うめぇ…うめぇよぉ…」

「おかわりはないのかい? もうなくなっちゃった!」

「可愛い子が作った、それだけでもいい。それなのにこの天国にいるような味は……」

「こんな料理が今夜も、明日も、帰りも食べられるのか…」



 みんな喜んで食べてくれる。嬉しいな。

途端にグレープさんが商売人の目になる。俺がアーキンさんにグレートポーションを売った時も、アーキンは同じ目をしていた。



「ん~、アリムちゃん、私達の商人組合のお得意様になって、取引してみる気はないかな? メディアル商人組合をよろしく…」



 グレートさんはあの、名刺のようなものを取り出し、俺に渡してきた。つまりはこの名刺が、あの商人組合本部のフリーパスみたいなものだったのかもしれない。



「グレープさん、ありがとうございます。ですが、既にメディアル商人組会とは、頻繁に取引をしてますよ。このカードも、既にアーキンという方から一枚もらっていますし、ボクの顔を見ただけで、通すようにも、門番さんは言われてるみたいです。」



 そのことを言うと、非常にグレープさんは驚いた顔をしてこう言った。



「ん~、なんだ、そうだったのか。アーキンも中々やるね。ま、彼も私もメディアル商人組会本部の幹部だし。そうか、アーキンね…あ、もしかして青舌を104枚売ってくれたのってまさか…?」

「はい、ボクですよ」

「ん~! やっぱり! ここんとこ、ずっと本部じゃ、その青舌の異常な枚数についての話題で持ちきりだったのよ! これからもメディアル商人組会をよろしく。アーキンが仕事に行ってる間は私が買い取るようにするね」



 これで俺はメディアル商人組会にずっとお世話になるんだな。いろいろと都合が効くようになったと言っても過言じゃない。無理なお願いも聞いてくれるようになるかもね。


 御者さん達も食べ終わって、おかわり求めてきたけど作ってないの。ごめんね。

 そのかわり夜ご飯はおかわりできるようにしてあげるよ。



 この日、道中でDランクの魔物2匹、Cランクの魔物1匹と遭遇し、討伐した程度で、特に大きなことはなかった。

 

 夕飯はシチュー。おかわりをできるように沢山作った。でも、シチューの肉に、ウサギの肉を使ったのは内緒ね。特に美味しいわけでもないのに、沢山あって困ってたから。

 おかわりは、グレープさん、ガバイナさんは1杯、御者さん四人は平均2杯。いや、一人だけ5杯もしたツワモノが居たんだよね。


 お風呂はこの馬車には備え付けられてない。でも、身体を綺麗にするアイテムが導入されていたから問題なし。

 寝巻きに着替えるところは流石に誰にも見られなかったよ。

 見られたら、そいつは気絶させるけどね。



 もう寝る時間だ。ガバイナさんはもう少ししたら寝るってさ。

 ガバイナさん、部屋の隅にベットを寄せすぎな気もする。そんなに気を使わなくてもいいのに。

 それに関してはガバイナさんはこう言っていた。



「…アリムは女子だろう? 年頃にもなる前の娘が男と共に部屋が一緒になるなど、本来はあってはいけないのだ。とにかくアリムは先に寝てろ。」



 俺は寝る前に皆に挨拶をし、ガバイナさんには申し訳ないが、先に寝かせてもらった。

 港町には明日の夜中に着くそうだ。




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