第22話 金と銀、そして虹色

 俺はその城門を開け、中へと入る。


 中はそこそこに広い。小学校の体育館より一回り狭いぐらいだ。

 そして、まるで森の中に居るような地面の苔の生え具合と一定の範囲を避けるように木が生えている風景。

 そして、そんな場所の真ん中に犬がいた。

 しかも3匹。3匹とも大きさは大犬と同じくらい。


 1匹は毛が銀色に輝いており、灰色の毛長犬ぐらいに毛が長い。

 1匹は毛が金色に輝いており、毛は並みの犬と変わらぬぐらい、だけど物凄く綺麗だ。


 そして、その2匹を両脇に従えて、真ん中に居る1匹、毛は白なんだけど、虹色に輝いている。

そして、こいつ………強い。


恐らく、両脇の2匹は難なく倒せるだろう。

 だけど虹色の犬、こいつは今のレベルでも手こずりそうだ。



「ガゥ…」



虹色の犬が軽く吠えた。それは何かの合図だったのか。奴の横に居た銀色の犬が



「アオーーーーーン!」



と一吠えし、その瞬間そいつに緑色のオーラが纏わりつく。恐らくあれは「風の気」だな。


 その気をまとった銀色犬はこちらに向かって飛びかかってくる。なるほど、スピードは中々のものだ。だけど、俺の方が上。

 素早く居合の構えをし、手に神経を集中させる。


_______今だ!


 飛びかかってきた奴を、水の剣を出して俺は一瞬の間に切り捨ててやった。3回は斬っただろうか。

 銀色の犬は既に息絶えている。


 また、虹色の犬は合図を出した。本犬は後ろに下がる。と、同時に金色の犬はその場から数歩前に出てきて、銀色の犬と同じように吠えると、


 俺の足元に赤い魔法陣が出現した。フレイム系の何かか?

 だけど、エミッションの魔法陣じゃないな。

 …上の段階か。


 俺はとっさに自分の背中からウォーターエミッションを放ち、その勢いで魔法陣から離れた。


 魔法を放たれたところから物凄い爆発音が聞こえる。なんとも派手な魔法だ…。

 まるで炎の柱ではないか。それもかなり太い。どうやら、「改」の次のスキルで覚えられるのはエミッションの上位互換のようだ。


 とりあえず、あの金色の犬は倒す。


 俺はウォーターエミッションを唱える。金色の犬の頭を抑え付けるようにして。

 そしてウォーターエミッションに次ぐウォーターエミッション。7回ぐらい連続でウォーターエミッションを唱え、その後、サンダーエミッションを3回唱える。

 素早く撃っているから、回避もままならないハズだ。


 そのうち、金色の犬は動かなくなった。


 残るは虹色の犬のみだ。虹色の犬はより一層、その白い毛を虹色に輝かせる。



「アオーーーーーン!」



 威圧を含む咆哮だ。恐らく呪文を唱えたのだろう。

 だが、何か違和感がある。

なにか、その唱えた口の周りの空気が魔力で歪んでいるような。

 そう、丁度、夏に暑くて景色が歪むような感じで。


 俺を囲むようにしてエミッションの魔法陣が現れる。それもすべて、違う種類。

 こんなことができるのかりそうか、さっきの違和感。これは何かをしていたんだ。


 サンダーエミッションとウォーターエミッションを持っている俺だが、一度も多種同時は成功したことはない。どうしてできた?


 ………そうだ、空気。空気に魔力が集中されていたから口周りが歪んでいた。

 成る程、空気に魔力を含んで唱えれば同時に別の魔法もできる…か。


 でも、まずはこのエミッションをどう回避するかだな。彼奴は確実にあの2匹より強い。

 金色の犬の魔法でもそこそこのダメージを負いそうな威力だったんだ。これ、全部喰らったらマズイ。


 俺は即座にウォーターエミッションとサンダーエミッションをその魔法陣のうち2つに被せるように同時に発動させる。

 口と、出す息と脳の三点に魔法力を集中させ、「エミッション」と、放つ技名だけ唱えたらできた。

 なんだ、簡単じゃないか。案外できるもんだな。 

 で、後2つをどうするか。一個は回避できるが、もう一個は無理だな……受けよう。


 俺は相手の「ランドエミッション」……土流放射を頭部に喰らった。



「………っ!」



 頭から多量の血が、激痛と共に流れてくる。血が目に入らぬように気をつけながら、反撃を開始しなければ。


 虹色の犬に向けてサンダーエミッションとサンダーボール10個を撃つ。

 奴は素早さがかなり高いみたい。その11個の魔法を難なくバックステップで回避しやがった。

 だけど、それはフェイク。

 実はその後ろにウォーターエミッションとサンダーボール追加10個も出しておいた。


 奴はまんまとそれを喰らう。


 犬の表情なんて俺には本当はわからないが、その偉そうにしていた顔が、一瞬歪んだような気がした。ざまぁみろ。


 追撃のため、俺は水の剣を構え、俺の間合いまで虹色の犬に一瞬で詰め寄る。

 奴もそれを悟ったようで、まるで獲物を狩る際に飛びかかる時のような構えをとっている。

 近接で応戦するつもりだ。

 剣を振ると、同時に奴もその鋭い爪を振るう。 俺の剣と虹色の犬の爪が合わさり、つばぜり合いのような状態となった。

 剣は水でできているハズなのだけど、火花のような、ものも散る。


 俺は打ち込み続ける。奴も爪を振るう。

一進一退の攻防だった。戦闘趣味の人間が見れば『美しい闘いだ』とか言い出すのではないだろうか。

 そんな打ち合いを続けるが、どうやら勝ったのは俺だったようだ。奴に一太刀入れられた。


 よしっ!


 ……それと合わせるように虹色の犬も爪を俺の腹に刺した。油断したか?

 俺と奴は即座にその場から、様子を見るように後退する。


 暫く、俺も奴も、共に動かない。沈黙が続く。

静寂を御し、先に動いたのは虹色の犬。


 今度は恐らく「改」の次の段階の魔法だろうか。また、4種同時発動だ。

 いや、これはあの金色の犬が放ったものとはまた違う。さらに上の魔法か?


 この状況はマズイ。あれのさらに上だなんて、今喰らったらひとたまりもないだろう。さらに4種同時。本気だということか。


 でもな、俺にもまだ奥の手がある。



「シャボン」



 これだ。このスキル。最初はクズなスキルだと思っていた。

 しかし、動物の目潰しには丁度よい。


 指定する数はMP300の値。Wは1000を超えている。故に、出現するシャボンの数は3万以上。


 魔法陣がこのフィールドいっぱいいっぱいに展開される。

 虹色の犬が少し、驚く表情をしているような気がする。


 もしかすると、相手は犬だから匂いで俺の場所がわかるかもしれない。

 だけど、魔法陣の出す場所は正確に把握しなければ、完全には当てることができない。

 


 まぁ、それは俺も一緒だが。それの対策もちゃんと考えてある。

 俺はその虹色がシャボンに驚く間に魔法陣群から抜け出し、記憶を頼りに虹色の犬が居る場所に全速力で近づく。


 後方から、地獄の底のような音が響く。あんなの当たってたらひとたまりもなかった。と、背筋に冷や汗が走る。


 俺はそ虹色の犬が居るであろう場所にウォーターエミッション、サンダーエミッションを同時発射する。

 なぜ、俺は相手を捉えられるか、それは簡単な話。犬が輝いてるからだ。見ればすぐわかる。


 相手はこの闘いを、この状況を、喜んでいるのか、怒っているのか、哀しんでいるのか、それとも楽しんでいるのか。

 とてつもなくまばゆい輝きを先程から発している。

 そのおかげで俺は奴の場所がわかるってわけだ。


 相手は地面から出てくる2つの魔法に気づいたのか、上に驚くほどの跳躍力で飛んで回避した。

 うまく上に回避してくれたよ。その上に回避させるのが目的だったんだ。

 俺はシャボンを解く。



 広がった視界、そこに広がっているのは合計300個の。

 火水風土雷の5種それぞれ60個ずつの「ボールLv5」……!


 空中で回避できないだろう。全て喰らえっ!

 1匹の魔物に300個の魔法のをぶつける。



 _____あたりにまばゆい閃光が走る。




 空中からなにかが落ちてくる。

 それは、あんなにも傷つけられながら、毛の美しさは全く消えない、虹の犬。

 それの死体。


 ___________俺は勝ったのだ。

このダンジョンを攻略したんだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る