大人になっていく

「お、いつもと違うことしてる! 何してるの?」



 美花が俺の部屋に瞬間移動でやってきた。

 そして、机に広げられた資料を覗き込んでくる。


 たしかにいつもは美花とイチャイチャするか、ゲームをするかしてないからね、珍しがられるのも仕方ないね。



「お勉強だよ、もう俺達も再来月には大学生じゃない? ほら、高校の勉強は終わったしさー、俺達の学校はエスカレーター式だから受験もないでしょ? なんかこう始めたくなって」

「なるほどねー。でも有夢ってさ、人文学科行くじゃない? これ西洋史学科の内容だよね?」



 むむ、流石……ひと目見ただけでわかるんだ。

 アナズムで勉強っていうズルいこと始める前から、うちの学校で成績がトップ10位以内だったことはあるね。



「その通り! こっちの西洋の歴史を深掘りしたらさ、アナズムでも役に立つことあるかなーって漠然と考えてね」

「別に王様に任せれば良いのに」

「いやでもほら、一応、アナザレベルから神様代理みたいなの頼まれてるし。ま、本格的にやるわけじゃないよ。一通り学んだらまたいつもに戻るつもり」

「ふーん、真面目だねっ」



 真面目……真面目かぁ。

 よく考えたら俺って、今まで勉強に対して真面目になったことあんまり無かったな。


 ゲームのやりすぎで授業中はずっと寝てたし、家に帰ればやっぱりゲームでさ。アナズム行くまで一応平均点はとれてて成績もちょっど真ん中くらいだったけど、勤勉とは程遠かった。


 お父さんと叶が異常なほど頭がいいから、それに対して不貞腐れてたのもあるかもしれない。……まあ、俺たちが通ってる学校行ってる時点で俺も頭いいんだけどね、えっへん。



「まあでも、私もお父さんから最近は色々ね、会社経営のこととか本格的に教えてもらってるし。そういう意味では私も今有夢がしてることと同じなのかな……それとも世界一つ背負ってるのと一緒にしちゃダメかな?」

「大きな会社一つ背負うのも、世界一つ背負うのもそう変わんないよー」

「ふふ、そっか! ……いや、やっぱりそれは流石にない」



 めちゃくちゃ久しぶりじゃないだろうか、美花からこんな鋭いツッコミを受けるのは。


 でも美花は相当立派だよね、やっぱり。


 昔からの夢が変わってないし、そこに向かって一直線で進んでる。おじさんの会社を継いでくのを目標でさ。勉強も、コーヒー作りも、お菓子作りも……色々と。


 本格的に会社の運営を学ぶために、大学だって経済学部の経営学科に進むんだ。

 俺とは学部が違うから、特に講義が詰め込まれてる一、二年生は一緒に帰ることすら中々できないことを覚悟したほうがいいけれど、それでも頑張ってる美花を見ると、俺も頑張ろうって思えるね。


 それに、夢に向かって突き進んでるのは美花だけじゃない。

 翔とリルちゃんだってそうだ。


 翔は幼稚園児の頃からの夢通り、警察のお偉いさんになるため、法学部に進む。


 そもそも、俺たちの通う大学の法学部に進むために、幼稚園から受験してこのエスカレーター式に乗ってるからね、すごいもんだよね。

 その上で柔道でそろそろ日本代表として世界大会も出られそうなんだし。うん、肉体的な意味も含めて超人的だと思う。


 そして相棒であるリルちゃんは、健康学科に進む。


 柔道家としての翔の身体のケアをしたり、翔に好かれるために編み出したらしいめちゃくちゃ効く豊胸法を中心としたストレッチを考え出したりしているうちに、そっち方面の知識が深くなりすぎたため、そのまま進路もそれに決めちゃったみたい。


 リルちゃんの地球での設定は、大成することを前提に送り出された留学生なので、そのうち健康用品やダイエット法などを中心とした健康管理会社の本格的な設立を目指しているようだ。


 叶と同じ資金運用をしてて、もう会社設立に必要なお金なら十二分に貯まってるって言うから驚き。

 ……ま、リルちゃんは学校に来てすぐトップを掻っ攫っていったりした、俺たちの六人の中では叶の次に頭がいい、とんでもない頭脳の持ち主だから、あの子が考えてること全部、心配しなくてもそのままそっくり実現させられそうだね。


 あと、サナダは夢である新聞記者になるため、社会学部に行く。  


 勉強の天才であるリルちゃんに教えてもらいながら励み続けたし結果、進学試験でとんでもなくいい成績が出たみたいで、お父さんにすっごく誉められたってこれ以上ないくらい嬉しそうにしていたのが記憶に新しい。


 ……うんうん、みんな頑張ってる。



「……大人になるってこういうことなのかなー」

「んー? そうだね、大人だねー……もう十八歳だし、一応成人だもん。お酒はまだ飲めないけど」



 そう言いながら美花は俺の顔を見つめてくる。

 いやー、やっぱり我が恋人ながら顔が綺麗すぎるね、いつ見ても。



「……どしたの? 今日もかわいいね」

「えへへ、知ってるー。でもそれ言って欲しかったんじゃないの。十八歳になったってことは、法律的に大人ってことで、結婚できるなーって思って」

「ああ、できるね」

「……叶君と桜は、十八歳になって大学行ったらすぐ籍入れだけでもして結婚するって言ってるじゃない?」

「言ってるねー」

「私達もそうしない? ほらほら、もう大人なんだし……ね?」



 この提案、これで何回目なんだろう。

 これに関しては……俺もまだ答えが出切ってないんだ。そうしたい自分もいるし、流石に早いんじゃないかって思う自分もいる。

 もうあと数年だけ猶予があったほうがいい気がするというか、なんというか……。


 叶なら一生一緒なのは変わらないんだからさっさと結婚しようって言い出すと思うんだけどな。



「ごめん、今回も保留で」

「ええーっ! もー、仕方ないなー」

「……まあ二十歳になってすぐなら良いかなって気はするけど」



 口からその数字がぽろっとでた。

 自分で言っておきながら、結構そのタイミングは自分の中でしっくり来ることに気がつく。


 そっか、そこが俺の妥協点だったか。

 ……そして美花は満面の笑みで頷いた!



「ふふふ、それでも良いよ?」

「え、良いの? じゃあそうしよっか……?」

「うんっ! えへへ」



 え、あ、なんかサラッと決まっちゃったけど、良いのかな?

 ……ま、良いよね。二十歳で結婚……十分早い気もするけど、俺た達なら丁度いい。決まりだ決まり!


 一旦、しばらく勉強は止めてあとで二十歳になったらどうやってプロポーズするかカッコいいの考え始めないとね!

 ふふ、これも大人だなぁ……? たぶんね。






=====


あとがき



この子達、トップレベルの学校に行ってるって設定なんですよ。

そんな学校で有夢君はアナズムに行くまで、授業中は寝てるし家ではゲームばっかりなのに、成績は平均点取れてたってどういう理屈なんでしょうね?


ちなみに、今回、8ヶ月ぶりくらいにR18な外伝の方も更新します。

今回はもはや内容がほぼ全くこっちと関係ないので、純粋なR18展開目的の方のみの閲覧をお勧めします。




非常に励みになりますので、もし良ければ感想やレビューやコメント、フォローなどをよろしくお願いします!

(これ、最近私のどの作品の後書きにも書いてるんですよね。心理学的に効果があるそうで……? ともかく、是非、私の更新してる別の作品も見てみてくださいね! 


今更新してるのは、『呪われた身でもジェントルに 〜最弱から始まるダンジョン攻略〜って作品ですよー!)





 

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