中学、夏の思い出 (有夢)

「ねー、あゆむー! あーそーぼーよぉー! ひまなのぉー」



 中学1年生の夏休みのある日。

 この日も相変わらずのように美花が窓から俺の部屋に侵入してきた。そして、こうして真摯にRPGと向き合ってる俺に茶々を入れるかのように暇を持て余していることを訴えてくる。



「ひまー! あそぼー? あそぼー!」

「俺は忙しいんだよぅ! 見てわかるじゃない!」

「ゲームじゃん。ゲームしてるだけじゃん!」

「ゲームこそが俺の人生! 俺の至福の時間を邪魔しないでねっ」

「むぅー」



 たぶん美花は頬を膨らませているだろう、怒ったときの俺の真似をしてわざとらしく。美花の行動パターン的にそんなもんだろうし、俺は振り向きもせず再びゲームを始めさせてもらった。

 


「……こうしてやる!」

「ぬぇ! ちょ……やめてね!」

「ふん! 遊ぶって言うまで離さないもんね」



 美花が後ろから肋骨の辺りを絞めるように抱きついてきた。単純に苦しい。苦しくて暑い。



「あついー! くるしい! 離れて!」

「別に暑くはないでしょ? この部屋、すっごくクーラーきいてるし」

「密着面はあついよ! 背中がぬくぬくしてる……」



 そういえば、ぬくぬくの原因は美花の体温だけじゃない。ぬくぬくと言うより……。つまりこれは……。どうやらまた大きくなったようだ。

 俺と美花ももう中学生、そりゃあ成長するけどいつも一緒にいる姉か妹みたいな美花からそーゆー成長を感じとると、毎回なんか複雑な気分になる。俺も見た目以外は男子だし……兎にも角にも早く離れてもらわないと。



「と、とにかく離れてよー、ゲームやりづらいー」

「わざとそうしてるんだもん!」

「いや、でも本当にちょっとこれ以上はやば……ぬああ!?」

「え、なに、いきなり大声出して! どしたの?」

「で……でた……」



 ゲーム画面には『ラッキーバッジ』という文字が。ちらりと時間計測機を見る。所要時間は56時間42分23秒。たった1ダース集めるだけでこれだけの時間がかかったが……やった、やりきった。

 何百分の1の確率のこのアイテム、全キャラに3つづつ装備させてラスボスに立ち合ったら1ターン撃破も可能。理論上はそうなってるけど、あまりに入手確率が低すぎるためまだ誰も試せていない。これで俺が誰よりも早く先駆者となれる。

 

 あとはラスボスを倒して、それを動画に撮って返信して声をつけてネットにアップする。やることはたくさんあるけど、一山超えた。



「ごめん、大事なところ。慎重にセーブするからはなれてて」

「え、あ、うん……。わかった」

「はぁ……やりきった」



 ゲームの電源を切り美花の方を向く。美花は俺のことをキョトンとした顔で見つめていた。



「おまたせ。一段落したよ」

「……もしかして遊べる?」

「遊べる」

「そっか! ……ずいぶん待たせたんだから、とことん付き合ってもらうわ。覚悟してよね!」



 眩しいくらいの満面の笑み。心の底から喜んでいるように見える。うん、そんなに喜ぶならきっちり遊んであげた方がいい。俺も普段はゲームへの優先度が高すぎるだけで、美花と遊ぶのは嫌いじゃない。



「……で、なにするの?」

「なにしよっか?」

「決めてないのに押しかけてきたの」

「だめ?」

「いや、ダメってことはないよ」

「ふふふ、じゃあいつものしよう。取りに帰るからちょっとまっててね」



 美花の言ういつものと言うのは、俺の女装セットのことだ。美花は俺のことを着せ替え人形かなんかだと思っている。背丈がほぼ一緒だからって自分の服やわざわざこのために用意した服を俺に着せて鑑賞するんだ。

 美花はいつものようにベランダに出た。ここから真隣の美花の部屋のベランダへと移動する。正直危ない……。



「気をつけてね」

「もー、心配症ね。ここ使って移動するの5年くらいしてるし、有夢だって私の部屋に来る時ここ使うじゃない? だからへーきへ……きゃっ!?」

「みかッッ!?」



 柵に足を乗せた時、珍しく美花が足を滑らせた。俺は慌てて美花の腰を掴み、こちら側へ引っぱる。

 全力で引っ張ったため俺たちはそのまま体勢を崩し床へ倒れ込んでしまった。



「もー……ははら……」



 だから危ないと言っただろうと、俺は美花にそう言おうとした。しかしそれはできなかった。口が何かに塞がれていたから。

 ……気がつけば美花の見開いた眼がすぐ目の前にある。鼻の先も同じ。そして唇も……。どうやら倒れた拍子に、俺と美花は____。



_____

___

__



「んんっ!?」

「は……ほひは……」



 目を開けると、またミカの顔が目の前にあった。そしてやはり唇同士が繋がっている。……夢の中でキスして、現実でもキスしてるとは。



「ぷはっ。ふふふ、どう? 目覚めのキスは」

「ちょうど美花とキスする夢見てたから本気で驚いたよ」

「私がキスしたからそんな夢見たんじゃない? 30分くらいああしてたし」

「そーなんだ」



 成長して少し大人になった美花はあの頃のように嬉しそうに笑う。

 あの夢は思い出。たしか、中学生になってから初の事故キスしちゃった日のものだ。……俺と美花は付き合う前からわりと事故でキスしてしまうことがあった。1年か1年半に一回くらい。いや、もっと早いスパンだっただろうか。


 今となっては1日に何十回とキスするから当たり前になってるけど、あの頃はキスだけで心臓がはちきれそうなくらいドキドキしてた。俺だって男だもん。



「じゃ、私が先に起きたから朝ごはん作るね!」

「……いや、美花だけ30分も堪能してずるいよ。俺も30分キスする」



 美花の返事を待たないまま、引きずるようにベッドに倒して唇を重ねた。ああ、ドキドキすると言う点は今も変わらない。







#####

2ヶ月と1週間ぶりの投稿です、大変長らくお待たせしてしまいました。

と、言っても精神的な不調は2ヶ月前より変わらないどころか悪化しているのでまたしばらく投稿を控えます。

流石に2ヶ月以上投稿しないのはどうかと思って今回は出しました。次は2ヶ月以内で出したいです。


あと、18禁版も半年ぶりに投稿するので読める条件に合っている方、興味のある方はご覧ください。

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