第一王子の日記

7/21追記


Ss侍はしばらくの間お休みすることとなりました。

お手数ですが、詳しくは近況報告をご覧ください。



※新キャラじゃないです。


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 メフィラド王国現第一王子、ティール・メフィラドがこの日記を記す。


 本日の天気は雨。

 王子としての仕事も本日やるべきものは全てひと段落したため暇を持て余し、仕方なく本棚を見ていたらこの書きかけの日記を発見したため、およそ一年ぶりに執筆してみることにした。


 現在、メフィラド王国には毎週のように大きな吉報が響き渡っている。お母様が蘇り魔神が消滅、本物の神が我々の前に出現し、理不尽な脅威に怯えなくて良くなった。これは全てこの一年の出来事だ。


 そしてその始まりは全部、弟のルインがピピーの森でアリム・ナリウェイを保護した時から始まっている。


 そこから今日までの経緯を書くと長くなるし、そういった重要なことはこの城の書記達が書にしたためているため僕が書く必要はないだろう。


 さて、アナズム全域が平和になったからか僕の周囲では皆の元に春が訪れ始めている。あるいは花の蕾が開花したか。

 

 例えばルイン達。

 ルインは数ヶ月前からついに、やっと、ようやく、リロちゃんと付き合い始めた。ミュリちゃんとオルゴくんもだ。


 兄から見て各々の関係はただの仲良し四人組じゃないことくらいわかっていた。

 18にもなって……例えばルインとリロちゃんが互いに手が触れ合えば赤面し数十秒の間もじもじしだす。ガタイのいいオルゴくんがミュリちゃんに甘えられただけで表情を硬らせる。そんな光景を毎日のようにみせられたらもどかしくもなる。


 それが今はどうだろう。それぞれ男性であるルインとオルゴくんから告白し、当然のように成就。この間なんてルインの部屋からリロちゃんが朝方にいそいそと出てきたのを見かけた。


 つまりそういうことなんだろう。実際の弟であるルインと弟や妹のように可愛がってきた三人が大人になったんだなと実感した瞬間だった。

 とりあえずメフィラド家およびメフィラド王国の存続は確実にして安泰だ。喜ばしいことだといえる。このまま頑張ってほしい。


 そしてお父様とお母様。

 お母様をアリムちゃんに蘇らせてもらってから、お父様の様々な調子があからさまに良くなった。お互いに愛し合っていたのは知っていたけれどここまでだったとは。

 しかしそんなお父様にも最近悩みがある様子。それはお母様との年齢差。


 お母様は現在カルアを産んだ当初の姿、要するに三十歳丁度あたりなのに対しお父様はそれより13年多く歳をとっている。一方は生き、一方は亡くなっていたため当然といえば当然。

 しかしお母様はアリムちゃんが来る前はこの世界で一番美しいとまで言われた美貌を持つ。僕の目から見ても母上であるのに同い年にしか見えないほど若々しい。要するに実際は二十年以上歳が離れているように見えるのだ。


 そのためお父様はアリムちゃんの作る薬の効果を知ってからも、お母様の年齢に合わせて若返ることはあえて選択しなかったけれど、それがどうやら少し揺らぎつつあるようだ。


 これは噂の段階ではあるが、あの二人はカルアの下にもう一人そろそろ子供が居てもいいんじゃないかと考えているらしい。つまり僕たちに兄弟が増えるかもしれないわけだ。

 それを踏まえて長男である僕としての意見は、お父様達の好きにしてほしいというのが正直なところ。お母様を失ってどれほどお父様が苦しんでいたかは知っている。だからこそ、お二人の出した結果を尊重したい。


 さて、次にカルアだが。

 彼女はさすがにまだ十三歳であるためルイン達のように恋人はいない。しかし、この一年でアリムから派生して一気に友人が増えた。毎日楽しそうなのが、見てて微笑ましい。


 正直なところ、カルアにはアリム以前には仲のいい友など居なかった。リロちゃんとミュリちゃんとは仲が良かったけれど、あれは実質、姉のようなもの。同年代の子達とは見ればわかる、上部だけの関係のみだった。

 それが今やどうだろう。女子会と称して十人近くの女の子たちがカルアの部屋に集まるようになった。それだけでなく、そのうち何人かとも個別で、日替わりで遊んでいるためほぼ毎日友達と一緒にいる状態だ。


 兄として妹に心の許せる友人が一気に増え、幸せそうにしているのが心から嬉しい。

 

 ただ、気になる点が二つある。アリムちゃんとミカちゃんの実年齢が17歳であったことにより、カルアがあの女子会のグループで最年少になっていること。同年代の女子は一人もおらず、むしろ大体十六歳前後が一番多い。話についていけてるのだろうか心配だ。

 でも多分、仲良くやれているってことは大丈夫なんだろう。兄として心配しすぎるのも良くないから心のうちに秘めておこう。


 もう一つはカルアが完全に遊び呆けるようになったことだ。

 毎日誰かしらと遊んでるから、勉強する時間がなくなってしまった。これは姫として由々しき問題としたいところなのだが、アリムちゃんを中心とした『友達』達がどうにもえらく優秀な人間ばかりのようで。

 カルアに勉学の教授をしている教論によると彼女達との交友関係が始まる前より明らかに、カルアの勉学状況が進歩しているらしい。毎日遊び回ってるのにも関わらず、だ。

 どうやら教えることに関して天才がいる様子。リロちゃん曰く、どうやらリルという狼族の娘がそれらしい。加えてアリムちゃんととミカちゃん、ミカちゃんの実妹だというサクラちゃんも恐ろしく高い知能を有しているのだとか。それで釣られてカルアも勉強ができるようになっているようだ。やはりこれも気にする必要ないのか。


 ‥‥王族は本来ならば交友する相手は選ばなくてはならないが、どうやらカルアの友達に関しては僕が問題視しなくて良いのかもしれない。勝手に環境の方から整ってしまったといえる。

 それに、あの女子会のメンバーはそれぞれ種族や出身国はおろか出身世界までが多種多様。あれほど広い交友関係を持つ姫も珍しい。このまま健やかに育ってほしいものだ。


 あとは……そう、ヘレル殿とエル殿。

 あの御二方はそろそろ結婚するだろう。百年以上経ってようやく巡り合え、再びヘレル殿が悪者に操られたりしながらもなんとか仲睦まじく暮らしている。

 聞けばヘレル殿とエル殿は幼馴染みと聞く。そういえばルイン達も幼馴染みだし、結婚して身篭ったウルト殿とパラスナ殿もそうだったはずだ。


 そう考えたら、幼馴染み婚が、近いうちアナズム全域の流行になるかもしれない。


 ただ、一つ問題があるとすれば僕にはそういった話が一切ないことだ。ここまで振り返って書きたかったことは、僕だけなんか春が来ていないということ。どこかにいい相手はいないだろうか。

 




 追記。

 このことを同い年であるバッカス殿に共感を求めてみたところ、「僕は葡萄酒が作れれば人生幸せですからね〜」という回答が返ってきた。そうか、僕も何か趣味を作れば……。




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メフィラド一家の中で影の薄さNo.1。

作品全体を通しても恵まれた状況からの出現頻度の少なさゆえに、全登場人物中影の薄さNo.1かもしれない。


本来なら王位継承をするはずの第一王子にして長男、ティールさんに何年かぶりに焦点を当ててみました。ちなみに初登場は70話前後。4桁あるこの作品のまだ2桁の時で、書籍の方にも第1巻から登場してます。これでもかというほど影薄いけど。

い、一応、アリムによるカルアやルイン達のレベル上げの時も参加してるんですよ、影薄いけど。

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