第1103話 豪華な夕方

「いやぁ、思わぬ収穫」

「おにくー! おにくー!」

「そだね、鹿肉とイノシシ肉……たくさん食べれるね!」



 俺と美花は戦利品を持って拠点に戻ってきた。正確には念術で浮かして持って帰ってきたんだけどね。

 コーカサスオオカブト虫みたいなイノシシは、俺が重力魔法と念術で動きを止めつつ弱らせ、その間に美花は転生し、水魔法でトドメをさして倒した。念術は何にでも応用が効いて、とても強くていいね! これに一番最初に目をつけたお父さんはやっぱり俺の尊敬する人だよ。



「よいしょっと。もうそろそろ夕方になるかな。お夕飯の準備をする時間だ」

「そうね! ……ねぇ、あれどうするの?」

「あれ? ああ……」



 美花が言ったのはあの不潔なゴブリンの死体のことだ。こんなの素材にするつもりすらない。俺は念術をつかってできる限り遠くへ吹き飛ばしてしまった。俺の大事な大事な美花を無理やり犯そうとしたんだ、視界にも入れたくないね。汚らわしい。



「で、今日はどっち食べる?」

「鹿肉のステーキがいいなー」

「いいね」



 余ったお肉は冷凍保存する。氷魔法が使えるから食料の保存も結構大丈夫だと思う。とりあえず鹿を倒して手に入れたステータスポイントを三割素早さ、七割を器用さに割り振って鹿とイノシシの解体作業をした。もちろん、アイテムマスターと255レベル+アルファのステータスがあるからあっという間に作業が終わる。アイテムの素材もタンパク質も大量ゲットだね。

 ところで、鹿肉のステーキを作るのに塩がない。だから代わりに胡椒などのスパイスを使いたい。アイテムマスターで探せばすぐ見つかるかもだけど、暗くなる前に拠点へ戻れるかどうか……。



「ねぇ美花、ちょっとスパイス探ししてくるけど、もしかしたら遅くなるかもだよ」

「うん……あれ、アイテムマスターと大探知、あと念のため透視あたりのスキルを合成したら目当てのアイテムがすぐ見つかるーみたいなのできないかな?」

「……! やってみるね!」



 美花のアドバイス通りに合成してみると星4つのスキル、「究極アイテム探索」を手に入れた。さっそくレベルマックスまで育てて使ってみると、探知と同じような感じで欲しいと思ってるアイテムを見れるようになった。これは便利だ。

 アナザムにいた頃は、アイテムマスターを使ったスキル合成、ダークマタークリエイトくらいしか究極的で超強いの作らなかったけど、もしかしたらもっともっと可能性のあるスキルなのかもしれないね、これ。

 とりあえず今のステータスで行ける範囲内にある食材として使えるアイテムを採取できるだけ採取してきた。念術を極めてるおかげで運ぶだけなら籠とか要らないの楽チンだね。

 でもここで残念なことが。材料は揃ったからさっそく調理と行きたかったけど、調理器具がない。どうやらこれを作るところから始めなきゃいけないみたいだ。……いや、まてよ。ついさっきアイテムマスターの可能性を見出したばかりじゃないか。なにか……こう、便利そうなの作れないかな。そう思って鉄術・極を中心に、アイテムマスター、念力の仙神、念術・極を合成してみると、SSランクのスキル、『神の鋼鉄錬金』というのを手に入れた。

 鋼鉄で生き物を作ることすらできる結構ヤバめのスキルみたい。触れた鉄を同じ材質のものなら何にでも作り変えることが出来、他の物体を鉄に変えることもできる。またMPを使えばマーチレス(極の魔法)以上に自由度が高い鉄製のものを作り上げられる。そしてそれら全て自由自在にコントロールできる。……ま、今はフライパンとお鍋、その他調理器具くらいにしか使わないけどね! とりあえず金属限定の擬似ダークマタークリエイトってわけだ。



「いやぁ、色々寄り道しちゃったけどできたよ!」

「わーい!」



 アイテムマスターの腕を持つ俺が作る、SSSランクの鹿のステーキ。昨日まで最低限生き延びるくらいのものしか口にできなかった俺たちがこれを食べたらどうなってしまうのか。二人で同時に口に含んでみた。



「………!」

「………!」



 声にならない。美味しさで死んでしまいそう。まあ、死なないけどね。普段一人で食べる量じゃお互い足りなかったらからたくさんお代わりした。そのくらい美味しかった。美味しかったから美味しかったしか言えないね。美味しかった!



「もう満足だよ……」

「そだね……!」

「じゃあ次は寝床作らなきゃね」



 『神の鋼鉄錬金』と同じ要領で、木属性と岩属性、土属性でできないかなと考えて実行してみた。できた。

 『神の植物錬金』と『神の岩石錬金』と『神の大地錬金』。それぞれ効果は鋼鉄錬金の他属性版なんだけど、なかでも植物錬金は『木』だけでなく自分の記憶にある植物全てが対象みたい。つまり、このスキルがあれば綿や麻で美花の服が作れる。というか作れた。寝床を作る前に先にそっちを作ってあげた。



「全部、綿100%だよ」

「ほほう……有夢のパンツ脱がなきゃいけないのは惜しいけど、有夢からのプレゼントだから着ちゃいますか」

「まあ俺も新しい服着るんだけどね」

「えー、私が履いた有夢のパンツ、もっかい有夢が履いてよー」

「お洗濯したら履くよ」



 二人ですっぽんぽんになって新しい下着と服に着替えた。靴だけは魔法じゃどうにもならなかったので、美花は木靴だけどね。それにしても新しい服っていうのはいいね! 解放された気分だよ。

 それから錬金系の魔法を駆使してドドンとおうちを一軒建てた。アイテムマスターにかかれば属性の違う錬金系の魔法の同時操作もチョチョイのチョイだね。

 特に自信作はベッド。枕や布団、毛布。綿が詰められていてもふもふに仕上がってるはずなのだ。無論、俺と美花が寝るんだからダブルベッドだよ。他にもヒノキのお風呂とか大理石のキッチンとか自慢どころはたくさんある。



「現代人らしい生活がやっとできるね!」

「お風呂……土が混じらないお風呂に入れる!」

「植物オイルも植物の適用範囲だからね、ちゃんとした植物性の石鹸もあるからしっかり洗えるよ!」

「いえーい!」

「いえーい!」



 それから俺たちは一緒に長時間お風呂に入ってしっっっかりと体を綺麗にし、綿製の寝巻きに着替えて、木と綿でできたベッドに潜る。

 月明かりに照らされる中、美花が俺にべったり抱きつきながら話を始めた。まずは俺が色々作ったりしてる間に、2回目の転生分のスキルとステータスを管理したんだよという報告。ステータスポイントは1回目と同じようにMP、魔力、素早さに均等に割り振ったらしい。スキルの方は『氷の女神』を作り直したそうだ。水と氷、一緒に使えば強いかもしれないと考えたみたい。氷属性のSSSランクの魔法も一個作ったようだ。

 


「えへへー、これでもっと有夢の役に立てるね」

「ありがとね」

「うん! ……ねぇ、有夢」

「ん?」

「わた……私……こわかったよ。こわかった……有夢以外の、あんな化け物に犯されるんじゃないかって……すごぐ……ごわがっだよ……うぇぇ……」

「……うん」



 泣きじゃくり出したので、俺も美花のことをぎゅっと抱きしめてあげる。三十分くらいして泣き明かした美花は俺が作り出したハンカチで涙などを拭くと、より深く俺に顔を埋めながら話を続けた。



「……本当にありがとね、私、もうダメかと思ったのあの時。でも有夢は、何時間もずっと諦めずにあの魔物を倒そうとしてくれてたんだもんね。殺され続けてるのに、そんな中でずっと。すごいなぁ……。私なんて、わざと考えるのをやめることしかできなかったのに」

「ああ、だから話しかけても俺の名前しか返さなかったし、服を破かれるまであの状況に気がつかなかったんだ。それでいいと思うよ、まともに立ち会ってたら絶対おかしくなってた」

「え、話しかけてくれてたの? ごめんね、気がつかなくて。……有夢、愛してる」

「えへへ、俺もー」

「えへへへ……しゅ……き」



 その後、美花は泣きつかれてしまったのか死んだように眠ってしまった。大丈夫、実際に死んではいない。悪魔で死んだように、だから。俺もゆっくりと目を閉じて、今日あったこの濃すぎる出来事を整理してしまうよう、脳を休めることにした。

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