第1091話 一度目の死を経て
「ただいまっ」
「……早いね、帰ってくるの。あれからすぐ見つかったんだ」
「うん、思ったより近かった」
しかしまあ、痛ぶって殺すようなことはしなかったし、一瞬で首をポーンってはねられておしまいだったから、死んだのにそんな辛い気持ちじゃないね。いや、一回死んだからこそ若干慣れちゃってるのかな? それにしても、気がつけば拠点に立っていたわけだけど、どうやって俺、美花の前に現れたんだろう。ちょっと聞いてみようかな。
「ねぇ、どんな感じで俺でてきたの?」
「えっと、目を離したらそこに居たって感じかな。スーッと横たわって出てきたよ」
「髪の毛一本に対してアムリタを使った時と同じだね」
「グロテスクじゃないのが救いね。……有夢」
「ん?」
美花が立ち上がって俺を抱きしめてきた。俺も美花を抱きしめ返す。いつもの甘えている様子とは違う、怯えを含んだ抱擁。そりゃ普通の人は誰だって俺みたいにゲーム感覚で死にに行けたりしたいもの。美花みたいになるのが当然だよね。
「……ん」
「キスもする?」
「する! ……あ、でも有夢ってば下着のままじゃない。先に服着よ?」
「ほんとだ。あれ、でも結構無残にやられたのに血はついてないね」
「泥とかは着いてるけど」
「うーん、服自体は劣化するけど、俺か美花の体液による汚れは死んだら消えちゃうのかな」
「多分そうだと思う。それなら普段から着てた方が体温奪われないしいいんじゃない?」
「そうだね」
俺は服を着なおした。制服だけど、着るものがあるとないとじゃ全然寒さが違うね。あったまるよ。それから美花と二分くらいキスをして、数分間の冒険の釣果を美花に伝えることにした。
「ほほう、なにかあったのね?」
「そう、あったの! 実は食べ物がそこらへんにたくさん転がってたんだよ」
「え、ほんと? 毒がないやつ?」
「うん、食べれる。多分大丈夫。美花は俺の記憶力が、叶ほどじゃないけど良いのは知ってるでしょ? アイテムマスターをずっと使ってて得た知識からのものだから確かだよ」
「そうなんだ! ていうか、アイテムマスターの知識、記憶してたんだ」
「ふふん、まあね!」
だから、アイテムマスターを習得する前より、俺は手先が器用になっている。サバイバルはよりやりやすくなってるだろうね。ただ一人なら経験済みだけど、二人だからこれからどうなるかは予測はつかないよ。
「それじゃあ、さっそく採ってくるよ」
「私も一緒にいく! 死ぬ時になったら一緒に死ぬ!」
「そう……? 俺としては……いや」
美花には一度も死んでほしくない。そう言いたいところだけど、美花にとっても俺には死んでほしくないはずだ。この話題を出すと喧嘩になっちゃいそうだから、どっちかが譲歩するしかない。俺は一度死んじゃった負い目があるから、ここで引き下がるのは俺じゃなきゃ。……本当に、嫌なんだけど。
「わかった、じゃあ二人で行こうか」
「どのくらい採る?」
「しばらく大丈夫なくらいにはとっておこう。いつ不足するかわからないし」
「うん」
俺と美花は二人で拠点から森の中に入った。拠点も森の中だけどね。道に迷わないように尖った形の石を探してそれを持ち、木々に目印になるように矢印をつけていくことにした。
俺がさっき殺された場所まで行かないよう注意しながら食材集めをすること三十分くらい。なんとか今日、明日、明後日で二食ならやっていけそうなくらいの食料を見つけた。
「すごいね有夢! あんなただの雑草にしか見えない草の、根っこが食料ってすぐに見破ったり! 普通の人ならまずわからないよ」
「ここはたぶん、出てくる魔物の強さ以外は普通のアナズムと一緒だから助かってるけど、全くの新しい世界だったらやばかったよ」
「そうね!」
それからちょっと道に迷いながら四十分かけて拠点に戻った。火をつけて、制服の中から食料を出す。良い感じに拾ってきたは良いものの、皮付きだと毒があるものもある。注意しないとね。
「今のところ順調ね。これからどうするの?」
「とりあえず水と火は一度に出せる数はあれどほぼ無限だし……まず道具つくってこうかな」
「わかった! そうだ有夢、私、いまあるステータスポイントを全部MPに振ろうと思うんだけど、どうかな?」
「ああ、それしかないね。そうしよう」
「有夢は温存してね? スキルといっしょで、今後なにがあるかわからないし」
「うん、生活用スキルについては美花に任せるよ!」
道具に関しては本当になにもない。動物を殺して骨ナイフを作ることもできないだろうね。ヨクナウサギの肉をただの石ころで捌いたけど、あれは本当に大変だったからもうなるべくやりたくない。
てな訳で一番最初にやるのは粘土になりそうな材質の土を探すところから。土器やナイフの形状をしたものをつくれれば生活は一気に進む。魔物の折れた爪とかがそこらへんに落ちてれば速いんだろうけど、SSSランク相手にそんな都合のいいこと期待できるわけないから頑張るしかない。無い無い尽くしだけど、仕方ないね。
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