閑話 見てはいけない現場

もう閑話はしばらくないだろうと言ったでござるな? あれは嘘でござる。( -ω- `)フッ

#####



「ハァハァハァハァ」

「……わふ?」



 どこかからかケモノのような荒い呼吸が聞こえる。あゆちゃんのお屋敷内にケモノなんて、私とその両親か、シヴァとかいう魔神の犬型ロボットしかいないはず。まずパパとママはそんな下品なことしないし、私もショーに隠れて下着を嗅ぐ時くらいしかそんな声は発さない。ロボットならこんな生き物じみたのは無理だと思う。

 つまり、つまりだよ。この屋敷に住む一見普通の人たちのうち誰かがなにかをしていてケモノ並みに興奮してるってことだ。うーん……そっとしておいた方がいいかな。でも気になるな。



「かわい……ふふ、かわいい……へへへへへ」



 あ、これミカちゃんの声だ。あー……どうせあゆちゃんに対してなんかしてるんだろうなぁ。やっぱり様子見ちゃおうかな。

 ミカちゃんの荒い呼吸と声を頼りに進み、屋敷の途中にある給湯室に着いた。この給湯室、実は誰も使ってない。カップ麺とかいろいろ棚の中に保存してあったりするけど、ほんとうに誰も使ってない。あゆちゃんが空いたスペースが虚しいから作った場所。あかりはついておらず、真っ暗。でも何かが奥で体育座りして蠢いているのが見える。



「あ、あの……ミカちゃん?」

「はっ……! だれ、えっ……リルちゃん!?」

「こんなところでなにを……」



 暗いのに慣れてきた目が捉えたものは、超大量のあゆちゃんの写真。あゆちゃんモードもアリムちゃんモードもどっちもある。あざといとしか言えないような可愛いショットがたくさん。



「わーふぇ……一人あゆちゃん鑑賞会してたんだね」

「あ、有夢に言わないでね……?」

「言わないけど今更幻滅されることもないんじゃないのかい? 別に自分の彼氏のいい感じの姿みて興奮するなんて……私もよくあることだよ?」

「ま、まあそうなんだけど……」

「何か悩みがあるなら相談にのるよ」

「悩みってほどじゃないんだけどね?」



 私たちは部屋を移動してお話をすることに。私から発言はあんまりせずに傾聴重視にしようと思うよ。



「あのね、有夢が可愛すぎて仕方ないの」

「わかるよ、あゆちゃんは可愛いよ」

「リルちゃんが見た写真、私たちが出会った頃から今までの全部あるんだけど、どれを見ても可愛いのよ」

「まあ、あゆちゃんだからね」

「例えば見て、この写真」



 ミカちゃんが取り出したのはあゆちゃんが小学生の中頃らへんの写真。くりっくりの目をこちらに向け、嬉しそうに笑いながら四つ葉のクローバーを差し出している。正直これは私の心にもドスンと重く響くくらい可愛い。



「わふっ……!」

「ね、可愛いでしょ? 有夢の可愛さってこう、幼くてキュートな子供がキュートな行動をしたのを見た時に感じる、胸の締め付けのように心に直接響かせてくるのよ」

「うんうん、たしかにそうだね」

「私ね、有夢のことよく盗撮しててね、そのあとさっきみたいな人目を盗んで一人で鑑賞してるの。ただその時の顔が私、ひどい破顔の仕方するから……ヨダレ垂らしたり。見られたくなくて隠れてるの」

「……盗撮が後ろめたいんじゃなくて?」

「盗撮してることはもう有夢にばれてるし」

「そうなんだね」



 気持ちは十分にわかったよ。元々あゆちゃんに対しては変態気質だったミカちゃんだし、予想の範囲内の行動ではあるね。それにしてもミカちゃんが抱えてるあゆちゃんの画像、やっぱり可愛いよ。私だってショーや……周りの人たちに可愛いって言われてるけど、そうやって培ってきた自信が一切吹っ飛んでしまうくらい。



「私ね、有夢より私のほうが可愛いって本人とかから言われることあると思うけど、絶対違うと思うのよね。私なんかより百倍は有夢の方が可愛いの」

「気持ちはわかるよ。気持ちはね。実際は同じくらいだけど」



 ……でもあゆちゃんってやっぱり男の子にしては可愛すぎる気がするんだよね。遺伝だから、そういう体質だからで済む範囲内ではないと思うんだ。何か秘密があるに違いない。そしてストーカーじみてるミカちゃんなら知ってるはず。



「ミカちゃん、あゆちゃんってどうしてこんなに可愛いんだい? いや、生まれつきなのはわかるよ、カナタくんも可愛いからね。だとしてもここまで男らしさをなくせるのは……」

「有夢って自主的にすね毛とか脇毛そったり、保湿クリーム塗ったりとか……女子顔負けのケアしてるのよ」

「わーふぇ、そうなんだ!」

「うん、私の真似してね。だから昔からシャンプーやトリートメントも同じよ? ……おばさんと私で手を組んで、私の真似をするように幼い頃から仕込んでるの」

「どーりで」



 つまり昔からずっと美容に気をつけてたからああなったとも言えるわけだ。……実はショーも筋肉自慢するために脇毛は剃ってるけどね。いや、それとはまた別だよね、あゆちゃんの場合は。



「まあなんにせよ、生物的にも生活的にも有夢は特別性だから可愛いの。ほんと大好き……!」

「……ミカちゃんって、あゆちゃんのこと、女の子みたいだから好きなのかい?」

「一番はそこじゃないのは知ってると思うけど、見た目の好きな点は確実に女の子みたいだからだよ」

「……ミカちゃんって、よく私とか他の女子の胸を揉むよね? とっても嬉しそうに」

「うん」

「……もしかしてミカちゃんって、あゆちゃんとショーが特別ってだけで本当は同性あ……」

「リルちゃん、察しがいいのはいいけど、それ以上探ると……服剥がして揉むよ?」

「わふぇ……」



 どうやら図星見たいだよ。学校でさなちゃん辺りの勘のいい人とかが薄々感づいてるであろうことをちょっと聞いてみたんだけど……ビンゴだったみたいだね。……ま、本人が幸せそうだから別に問題ないね! わふん……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る