第1038話 布告

「またなんかし始めたぞ!」


 

 文字と違って動きは見える。誰かが言った通り、剣を鞘にしまってからヘレルさんはまた何かをしようとしていた。

 


「……しまった!」



 カナタらしき声がそう叫ぶのが聞こえた。それとともにヘレルさんの体が一瞬で空間の檻の中から消え去る。どうやら瞬間移動みたいだ。イルメがカナタからコピーしたあれ。おそらく最初から伝えたいことだけ伝えて瞬間移動でアナザレベルの元に帰っていく算段だったんだろう。



「そうか、そういえばアリムちゃんの話では敵にも瞬間移動使いが……」

「せめて前勇者はなんとかなるのかと思ったのに!」



 ヘレルさんを送ってきたのは完全に嫌がらせだったのかもしれないな。おちょくってきてるんだ。

 俺たち三人は大騒ぎしてる人混みを掻き分けてカナタの元まで向かった。国王様の隣にいたカナタはめちゃくちゃ悔しそうな顔をしている。



「カナタ!」

「あ、に、ねぇちゃん達……。ごめん、取り逃がしちゃった」

「もしかしてカナタ様のスキルの弱点は同じスキルを持つ相手ですか?」

「姫様、うん、そうなんです。俺のスパーシオペラティオンは移動などはさせられるけど、全く同じスキルのそれを回避や抑制できる機能はないんです。そして他のスキルでも止められない」

「仕方あるまい、どんなスキルにも弱点はあるもの。……それより私はこれから再び大規模な対策会を開く。アリム達もいよいよ気を引きしめてくれ。相手からの連絡を見ただろうが、誰もが予想していた通りになった」



 それだけ言うとヘレルさんが置いていった内容を教えてくれることなく国王様は大声をあげてみんなを一旦鎮静化させ、その上で偉い人たちに会談室まで今すぐ来るように言った。国王様は俺らがヘレルさんからの連絡をきちんと見えたって思い込んでるようだ。

 ひとまず人の通りが落ち着いてから俺達はカナタにヘレルさんからどんな連絡があったのか聞くことに。



「え……文字見えてなかったの?」

「ほら見てカナタ、ボクなんて下手したら150センチ未満だよ? あの人混みじゃ見えないよ」

「あぁそっか、いつものつもりでいた」

「叶君ならなんで書かれたか全部覚えてるでしょ? 教えてくれる?」

「わかった」



 カナタはヘレルさんが書いた内容を言い出した。

 結構長く書いてたようだ。



『アナズムに住む全人間に告ぐ。これは貴殿らが崇める神、アナザレベルからの言葉である。取引が不成立となったこと、しかと確認した。たった一人の少女を晒し首にし、魔神を渡すだけで免れた惨状をこれから目の当たりにし、貴殿らは皆後悔することとなるだろう』

『アナズムの神アナザレベルは貴殿らを滅ぼすべく戦争を起こす。神対人間の大戦争である。戦争と銘打ったからにはせめて公平に攻める日時を教えておこう。明後日の朝六時丁度、全ての国々の主要都市に向けてまさに天災と呼ぶべき攻撃をする。防げるものなら防ぐが良い』

『その後、人類を確実に滅ぼすためにアナザレベルの配下が動き出す。残党狩りである。さあ、人間達よ、持てる力をもって抗ってみよ。もっとも最強の駒の一人であるアリム・ナリウェイが精神的に廃人となりかけている以上、貴殿らに救いの手建はないのである』

『アナザレベルからの言葉は以上である』



 つまり、交渉決裂したから戦争を仕掛けるよって言うことだろう。みんなが予想してた通りのことだ。にしても俺を殺して魔神を渡すだけ……とは。魔神を渡すのって『だけ』で済むことなんだろうか。

 あと俺が復活したことはアナザレベルは知らないみたいだね。おかしいな、いつも俺の一歩先を行ったような行動ばかりとってたのに。俺がいない前提で戦争を仕掛けてくるなら付け入る隙ができてるかもしれない。



「……いよいよですか」

「あれ、カルアちゃんあんまり緊張してないの?」

「はい、二回目ですし。私自身も戦えるので」

「そっかそっか!」



 ミカが聞いた通り、カルアちゃんはどちらかというとやる気みたいだ。サマイエイルこと光夫さんに自分の手でやり返すことができるかも、なんて考えてたりする可能性はあるな。復讐を覚えたような顔をしている。



「ひとまずアナズム中の国の主要都市を狙うって行ってたけど、その対策をしないとね。きっと俺のアイテムマスターの力を使ってガードできる範疇を超えた攻撃をしてくると思うんだ」

「それさえしのげば、私、なんとかなるんじゃないかって考えてるの。そのあとは残党狩りみたいなものだって言ってたんでしょ? 油断してるんじゃないかな」



 やっぱり油断してくるのかな。俺もミカと同じ意見だ。

 一方カナタはしばらく考えるような仕草を取ったあと顔を上げ、国王様達が向かった部屋に体を向けた。



「カナタ、どしたの?」

「ちょっと俺も作戦会議参加してくる。……今、俺の力で明後日にある天災とやら、防ぐ方法思いついたから」

「一カ国は確実に大丈夫ということでしょうか?」

「いいえ、姫様。俺が守るのは全部の国ですよ。……じゃあ」



 思い立ったらすぐ行動するね、カナタ。ただその思い立ちが天才だからいつも成功するんだよね。俺、ちょっとこの戦争の出だし、カナタに賭けてみようかな。

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