第1035話 ゲーム療法

「ちょっとゲームしてくる」

「……! 有夢のちょっとはちょっとじゃないでしょ」

「十二時間くらい」

「私、隣で抱きついてていい?」

「うん」



 あれから三日が経った。ミカの親身な介抱のお陰で、なんとか『なにもやる気が起きない』ではなくなった。俺自身あそこまで弱るのは初めてだったからなんとも言えないけど、ああなった時は大切な人に甘えるのが一番いいのかも。

 みんな俺の精神をタフだとか言うけど割とそうでもないのにね、我慢強いだけで。でも今こうして俺のこの我慢強さを作った原因であるゲームのやる気がやっと起きたんだ。昨夜まで寝込んでミカに支えられることしかできなかったのに。ドラグナーストーリーの1から4までぶっ通しでやれば俺の精神はかなり回復するんじゃないかと思ってる。……わかんない、思ってるだけだから。

 ゲームの主人公って、味方が殺されたりしても普通に、画面から見ると何食わぬ顔でそのあとも冒険を続ける。まあゲームだからね、仕方ない。ちゃんと人間である俺はそうはいかなかったけれどね。それでも現時点ではみんな俺の味方をしてくれるらしいし、知り合いが誰か二度と生き返られなくなったとかじゃないし、もう少し軽い心持ちでもいいんじゃないか、なんて、昨日寝付く前に思ったの。

 時間が進むのが遅くなるマジックルームはに入って、ミカをつれて、携帯ゲーム機とカセットを持ったらスタートだ。



「あれ、1からやるの」

「うん、時間が許す限りまで、外伝除いた全作やろうかなって」

「相当時間かかるんじゃない?」

「まあプレイしてる間に本格的にアナザレベル達と戦闘になったら流石に中断するよ。それまでは不眠不休でぶっ続けさ」

「不眠不休連続プレイこそ有夢の真骨頂だもんね」

「その通り」



 その間中々ミカの相手ができないかもしれない。自分から好きに抱きついてくるらしいし大丈夫かな? いつもならこれだけゲームやるって言ったら拗ねるのに、今日は賛同してくれる。最高にいい俺のお嫁さんだね。

 ゲーム機にカセットを入れてスイッチをつける。新しく作ったものだからデータは全スロットなし。そのうち一番上のスロットを始める。懐かしい、俺をゲームの世界に引き込んだ原因の一つ。徹夜でゲームをする、という俺の原点を作ったもの。



「……」

「たのし?」

「まだイベント中だから弄ってないよ。まあでも楽しいかな」

「そっか」



 ミカは俺の顔を見てホッとしたような、嬉しそうな顔をして寄り添うように抱きついてきた。手にはゲーム、身体には恋人。途中でお菓子や飲み物も用意したら最高の空間が出来上がる。自堕落が好きってわけではないんだけど、ベストな環境を整えようとするとどうしてもこうなる。もし、今の光景を理解ある人以外に見られたらもう精神的に回復したと思われちゃうかも。



「あ、戦闘だ。スライムねー。このゲームのスライムは可愛いわよね」

「ニャルラトホテプもこんなんならいいのに」

「アリムの格好真似てたわけだし、可愛くはあるんじゃない? 見た目だけ」

「中身は俺と違って可愛くないよーだ」

「有夢は中身も可愛いもんね」

「うんうん」



 スライム一匹ではレベルが上がらなかったけど、次にエンカウントしたものを倒したら1上がった。軽快な音楽とともにステータスが増える。これだよこれ、この快感。やっぱりサイコーだね!



「あゆむ、こっち向いて」

「ん?」

「ふふっ」



 ミカの方を向いたらキスされた。



「これからレベルが1上がるごとにキス一回、10とか20上がるごとにもっとディープな内容のこと仕掛けよっかな。どうせレベル99まで上げるんでしょ?」

「なるほど、そういう縛りも悪くないかも。……でも四作品全部やるの?」

「もちろん四作品、対象は全キャラね!」

「何千回キスすることになるのやら」

「やだ?」

「やる」


 

 さて、ここからが本番だ。楽しい楽しいレベル上げの時間……! ミカとイチャイチャできるルール付き。



______

___

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 マジックルームには、外の部屋の戸を誰かが叩いたりしたらその音が聞こえるような機能がついてる。今、誰かが俺たちの部屋の戸をノックしてるみたいだ。



「ふわぁぁ……ちょっと行ってくるよ」

「ん……翔とかかな? いってらっしゃい」



 崩れてた服を着なおしてマジックルームを出て、部屋の入り口へ。戸を開けるとそこには翔と叶がいた。心配してきてくれたみたい。



「にいちゃん、四日前に話は聞いたよ。流石のにいちゃんでも耐えられないきついことがあったんだよね、大丈夫?」

「心配でな、今日ならそろそろ大丈夫かと思って見舞いに来たぜ。全員でゾロゾロ来るのもなんだからとりあえず一定時間に二人ずつなんだ」



 お見舞いかぁ、えへへ、嬉しいな。でも大丈夫。俺はもう大丈夫なんだ。二人ともそれを俺の顔色から察したのか、安堵した表情になった。



「なんだ、なんとか克服したのか」

「わかる? ドラグナーストーリーを1から4までぶっ通しで全作全クリしてたんだ。合間合間に頻繁にミカとイチャイチャしてね」

「そうか、そんなゲームやったのか。そりゃ復活するわな」

「兄ちゃんらしいね」

「うん、今なら何がきても大丈夫だよ!」



 我ながらよくここまで回復できたと思う。やっぱり、やっぱり、俺の原点はゲームなんだ。あと、ミカね!

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