第1025話 紫色の顔

「おじゃしま……」


 

 中は真っ暗……というわけでは流石になかった。人の気配もしっかりとする。だがやはり違和感はあり、何かが起こっていることだけは確かな様子。そりゃこの短時間でこのお城にいた人達を全滅させるなんてこと無理だろうし。



「とりあえず誰かいないか探そう。カルアちゃんが俺のあげたもの、今日も身につけてくれてれるかな?」

「そうね、とりあえずカルアちゃんが心配」



 本当のことを言うと、結構しっかりしてるカルアちゃんより、俺と初めて出会った時にいきなり死にかけたリロさんはじめルインさん達の方が心配。でも確実に探し出せるのはカルアちゃんだし。

 マジックバックから随分前に作ったカルアちゃんのネックレス探索機を取り出す。これを使うのはもう一年ぶりくらいと言ってもいいかもしれない。むしろ使う機会があるなんて思ってなかった。

 起動させると、どうやらこの城内にまだちゃんといることがわかる。場所は2階のあんまり使われてない広間。俺も入ったことない部屋だ。前にカルアちゃんはこの部屋はほぼ空き部屋みたいなものって言ってたっけ。



「2階にいるっぽい。行こう」

「うん」



 階段を上っていくと、その途中で一人の兵士さんとすれ違った。よく見ると、門番さんの一人のようだ。職務放棄してなんでこんなところにいるんだろ。いいや、とりあえず何があったか聞いちゃえ!



「すいません、あの、門番の……」

「ガ……ア……」

「ひっ!?」

「きゃっ!?」



 振り向いたその顔は、肌の色が紫色に変色しており、目線は明後日の方向を向き、荒い呼吸を立てていた。確実になんかされてるし、この時点でこのお城でなんかあったのは明白。紫色に変色した門番さんは数秒、俺とミカを見ている様な素振りをみせると、剣を抜いて襲いかかってきた。まるでゾンビみたいだ。とりあえず……。



「えいっ」

「ンガ……」



 ショー直伝の背負い投げで投げ飛ばし、バッグから素早くアムリタを取り出して顔に振りかける。どんな病気かウイルスかわからないけど、効かないことなんてないはずだ。

 案の定、門番さんの顔はみるみるうちに元どおりになり、白目を剥いて気絶した姿勢になった。



「あーあ……こりゃ大変なことになってるね」

「私、カルアちゃんとかミュリさんとかリロさんがこんな風になってるの見たくないんだけど」

「一応強さだけならSSSだしカルアちゃん達は大丈夫じゃないかな? 特にカルアちゃんなんて俺があげたペンダントでバリアも貼れるし」

「そっか、じゃあ大丈夫かもね。とりあえずこの人を起こして何があったかきこう?」

「だね」


 

 目を覚まさせる効果を持った飴(ハッカ味)を作り出し、門番さんの口の中に入れてやる。数秒後、まるで遅刻までギリギリであることに気がついた人がベッドから飛び起きるように門番さんは復活した。



「はっ……俺は何を!?」

「大丈夫ですか?」

「あ、アリムちゃ……! そ、そうだ奴らがまた!」

「やっぱりその、偽の神様にしたがってる人達ですか?」

「そ、その通りであります! ワタシ、ヒュドルが出した毒の霧を吸ってから意識が……」

「なんか暴走してましたよ?」



 前々から小耳には挟んでたけど、やっぱりこの国から脱走したヒュドルって人は人を操るスキルを持っているようだ。むしろ今のを見るとゾンビウイルスに近い。

 また、毒の霧を食らってこの門番さんがこうなってしまったってことはやっぱり複数人、最悪このお城のある程度の実力を持たない人全員が同じことになってると考えた方が自然かも。

 ……うーん、さっきまで短時間でお城一つと各国の代表さん達が全滅するなんて考えられなかったけど、相手は持ってる力は今までの行いだけ見ると神様そのものだし、マジックルームみたいに時間を捻じ曲げて、実はこのお城だけ一ヶ月過ぎてました……なんてことが可能かもしれない。



「お恥ずかしいところを……あ、ああ! 王様や姫様、同胞達は無事なのでしょうか!?」

「いや、ボク達が事件を察してこのお城に乗り込んだのはついさっきでして、一番最初に出会ったのが……」

「暴走したワタシですか。なんてこと」

「でもカルアちゃんは少なくとも無事だと思いますよ」

「そ、そうですか……」



 この人からは襲われたって言う確証を得ることしかできなかった。とりあえず助けられただけでもいいか。ヒュドルって人の毒は俺の力でなんとかなるのも少し安心した。



「じゃあとりあえずボク達はカルアちゃんの様子を見ようと思います」

「俺は何をしたら……?」

「とりあえず何か手伝ってもらわなきゃいけないことがあるかもしれないので、付いてきてください」

「わ、わかりました!」



 こうしてお城にいた人達を正気に戻していって、協力して貰えば早く済むかも。あ、でも……ヘレルさんみたいに誘拐された人がいたらどうしよう。導者を選ぶ力がまだ残ってるラーマ国王とか特に危ないかもしれない。でもなんかあの人は大丈夫そうな気がするな……。



「もしお城の中まで壊されたり荒らされたりしてたら、桜にも協力してもらわないとね」

「ああ、時間戻せるもんね、物だけ」

「そそ」



 結果的には、被害はあったけど無かったように見えるまで元どおりにすることはできそうかな? うん、少しポジティブに行こう。

 

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