第1024話 怪しい天気

 アナズムの中でも歴史ある大国と呼ばれる、メフィラド王国、ブフーラ王国、エグドラシル神樹国の三ヶ国を中心とした超大規模な話し合いが始まってから三日が経った。話し合いの場であるメフィラド城内は、一際厚い警備が貼られている。

 ここ三日のうち、二日間は三ヶ国だけで話し合い、それ以降は今来ているほかの国々の代表さんも混じっているようだ。むしろ、こうやって全アナズム規模での会話なんてすることないからと、一度帰ったり、来る予定がもうちょっと先だった国々までこぞって遠くから参加しにきている。だから今、お城の馬車置き場が満員。それどころか一部、ほかの場所を馬車置き場として使わざるを得なくなってる状況だ。

 うーーん、ほんとはた普通に脅威である偽の神アナザレベルや、異世界人といる俺のことについての話し合いだったはずなのに、いつのまにか話題がそれてアナズム全体の存続とかなんとかになってるみたいだ。真面目なムードでアナズム中の国の代表が一点に集中してるから、そうなってしまうのも仕方ないかもしれないけど。

 ちなみに国王様や大臣さん以外は何をしてるかというと、主にミュリさんのお父さんである大司教さんとオルゴさんのお父さんの騎士団長さんが指揮をとり誘拐された冒険者の数の把握と、その予防をしている。

 それにしても流石に、誘拐の件があって兵士さん達が街に繰り出してることや偉い人がメフィラド城にあつまってることにより、何か魔神と戦う並みの大ごとが有ると国民達は気が付いている。いいことじゃないってのもわかってるようで、不安に思ってる人が多いみたい。そのうち暴騰が起こりそう。もしそうなりそうだったら、俺がなんとかしようかな……。



「それにしてもさ、有夢ってすごいよね」

「ん、なにが? 継続力?」

「それはいつもの話でしょ。違うわよ、現状の話」



 現状ね。……ミカの言い分によると、俺が色々してきたから結果的にこうやって何十年も疎遠関係だった国同士を協力関係までもってきて、アナズム全体で話し合いまでさせてるらしい。たしかにそうとも言えるかもしれない。まあきっかけ自体はアナザレベルのわけだけど。



「うんうん、やっぱり有夢はうちの会社でもバッチリやっていけそうね!」

「世界一つをまるごと協力関係にさせてから、その経験をミカん家の会社の運営に活かすの? なんか順序が逆じゃない? いや、逆ですらないよ、飛躍しすぎてる」

「いいのいいの。本当のことなんだから」

「まぁ……そだけど……」



 でも問題はなにも解決してないし、仮に俺が自分で認知していた能力以上にすごいことしてるんだとしても、いい気分にはなれないや。もう……ほんと、だって未だになんでこんなめんどくさいことになったかわかってだっていないもん。



「んんっ!」

「ん、どうしたのミカ」



 ミカが突然背中を仰け反らせだと思うと、首を振って周りを確認した。そして窓の方を見る。



「……なにか……ある?」

「え、なにが」

「有夢、寒気感じない?」



 部屋は適温だから寒気なんて感じるはずない……。そう思っていたのに、たしかにいままで感じたことないくらいの不気味な寒さが背中を撫でた感覚がした。



「んっ!?」

「……なんだろう、これ」

「どう考えてもなんらかのプレッシャーとか嫌な予感とか、そういう類のやつだよね。だから外みたんだ。俺も一緒に見るよ」



 ミカのような超的勘が働いたとかではなく、無理やり寒気を感じさせられたような。……ともかく俺とミカは窓から外を覗いた。さっきまで普通に晴れていたのに、曇り空になっている。そして重くてドヨンとした空気。何か嫌な感じがするとしか言えない雰囲気。

 そしてなにより、一番大変なのはメフィラド城の上空に無理やり作ったような積乱雲が渦巻いていること。あれがただの雲の塊じゃないことはすぐにわかった。



「ミカ、行こう」

「うん……!」



 もしかしたら、またお城に光夫さん達が攻めてきたのかもしれない。だがその時は俺やカナタがおらず、対応できたのはファフニールとヘレルさんだけだったと聞く。だから今回は大丈夫……のはずだ。窓から屋敷の外に出ると、嫌な空気がさらに濃くなっていた。毒か何かでも吸わされているような気さえしてくる。

 城門前。見張りの人は誰もいない。一般の人たちが何事か様子を見ようとお城の前にたむろしている。



「まさか、各国のお偉いさん達が集まるのを狙ってたとか……かな?」

「わかんない。でもその可能性も考えなきゃ」



 ただ俺もこういう事態を予測していなかったわけじゃない。実はこっそりと、いろんな防衛システムを用意しておいたんだけど……まさか、全部ことごとく破られた? まだお城の中に入らないとなにもわからないけどね。

 俺とミカは念のために手を繋いで、メフィラド城の敷地内へ足を踏み入れた。特に荒らされた形跡はなく、いつも通り御庭は綺麗なまま。ただ、人がいないというのだけが不気味。いつも庭師さんはいるから。



「……じゃあ、城内に入ろうか」

「……うん」

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