特別話 IF

「………うん?」



 俺は昨日、普通に眠ったはずだ。えーっと、なんかミカといいことしてたような気がするような……。うん、うん? とにかく俺は眠たい目をこすりながら部屋の窓のカーテンを開けた。

 隣は美花の家だ。お部屋が見えるけど、すでに部屋には美花がいない。あれ、まってよ。やっぱり俺の隣に美花がいたような気がするんだ。とってもラブラブで……好きすぎてついに幻覚を見たのだろうか。夢だとしてもリアルすぎたような。

 それになんだろう、この違和感。なんだか自分の部屋なのに自分の部屋じゃないみたいな。ほんとは居るべき場所があるのに、ここはそうじゃないそんな感じがする。



「あっ!?」



 そんなことより、今日はドラグナーストーリーの新作の発売日だった。なにをぼやぼやしてるんだ俺は。ずっとこの時を待っていたんじゃないか。こうしちゃいられない。

 俺はさっさと制服に着替え、身だしなみは必要な程度に整え、カバンを持って出て行こうと思った。でも玄関に立った時にまた違和感が走った。



「……有夢、どうしたの?」

「なんか忘れてる気がする」

「ふふ、今日はゲームの発売日だもんね? 色々忘れちゃうのは仕方ないけど、朝ご飯を忘れたらだめよ」

「あ、ああ、そうだった」



 俺はお母さんに促されるまま朝食をとった。でも味は覚えてない。ゲームが楽しみすぎるのと同時に、なんだかもっと大事なものがあるような気がしてならないんだ。

 朝ご飯食べて歯磨きをしてからもう一回家から飛び出そうとした時に、その違和感の正体がわかった。美花だ、なんとなく美花が関わってるような気がする。起きてからずっと美花が気になって仕方ないんだ。

 俺は思い直して、いつも美花と待ち合わせしている時間になってから家を出た。



「あっ! あゆむっ!」

「ああ、おはよ」



 毎朝合ってるはずの美花が、今日は一段と大きく見える。髪の毛も緑色じゃないし。いやまって、なんで緑色だなんて考えたんだろ。そういえば俺も赤色じゃなかった。いやいやいやそれが普通なんだよ。案外似合いそうだけどね。

 それにしても美花が愛おしくてたまらない。もしかして今日が告白時なのかな? 



「えへへー、あゆむ! おはよっ。んっ」

「おはよ。んっ」



 朝のキス。まあ起きたら毎日してること……だよね? あれ、キスしたんだよね、今。ま、まだ付き合ってないのに!? 

 美花もものすごく戸惑ってるみたい。顔を真っ赤にして唇を抑えてる。なんで俺は美花とキスをしたんだろう、や、柔らかくて甘かったな相変わらず……。いやこれも違う、物心ついてからキスなんてしてことなかったはずだ。



「い、今私っ…あ、有夢とち、ちゅ……した!?」

「う、うん、うん……!?」

「もっかいしよ?」

「うんっ」



 今度はもっと大人っぽく、ねっとりとした深いキスをした。唇を離すと糸が引いて……また自分達がやってることに気がついた。



「ぷはっ……わ、私たちどうしちゃったの?」

「わ、わかんないよ」

「……つ、付き合ってないよね私たち」

「つ、付き合ったないはずだよ、うん」



 付き合えるものなら付き合いたいけどね。美花は顔が真っ赤なまま元に戻らない。俺もたぶん真っ赤だ。



「と、とりあえず学校いこう。話はそれからだよ」

「そだね……」



 俺と美花は登校し始めた。美花は俺の腕に抱きついてくる。これがとっても可愛いんだ。そのまま普通に歩くときは恋人繋ぎで手を繋ぐ。これでも付き合ってはいない。

 なんだかお互いにこの状況が当たり前だった感覚で、慣れたように学校の近くまで来た。ボロい建物の下を通ろうとした時、美花が俺に思いっきり抱きついてきた。身動きが取れない。



「ダメっ」

「ダメって、ここ通らなきゃ学校行けないじゃない」

「でも有夢がどこか遠くに行っちゃいそうな気がするの」



 今の美花の様子は、死ぬほど必死って言うのが正しいかもしれない。それに目からなぜか滝のように涙が流れてる。

 ただ……俺もこの先を死んでも通らなきゃいけないような気がするんだ。そうでなければ、友達も恋人も、なんだかいろんなものを得る前に失ってしまうんじゃないかと思う。



「通るよ」

「ダメっ。なんでもしてあげるから行かないで!」

「なんでも……?」

「うん、お嫁さんにだってなってあげるから!」



 本気で言ってるっぽい。でも……俺は……。



「ごめん、美花のことは大好きだけど行かなきゃいけない気がする」

「あっ……!」



 俺は建物の下を通った。すると頭の上に花瓶が落ちてくる。そう、そして俺は異世界に転生するんだ……!



▼△▼△▼



「うわぁ!?」

「あ、あゆむー! おはようっ」



 ものすごく変な夢を見た。俺がアナズムの記憶を少し持ちながら知らない程で死ぬ前の話が進んでく夢。付き合ってない設定なのに美花とバカップルしたり。今のミカはべったりと俺にくっついてきている。



「うなされてたよ?」

「あ、ミカ。なんかすごく不思議な夢を見たんだ」

「有夢が? 珍しいね……どしたの、後ろ向いて」

「いや、なんでも」



 なんだか見られている気がするんだ。

 今の俺の夢を、不特定多数の誰かから間違ってるって認識されていたような気がする。でも、これからなんだかもっと見られる気がする。いや、見守られてるって言ったほうがいいのかな。

 とにかく、今日もこれからも頑張ろうね! 

 


####


今日は発売日なので、発売記念の特別話ですよー。もし1話目で有夢が転生しなかったらどうなっていたのでしょうね。

それにしても、購入や書店での発見報告を頂いてます。ありがとうございます!! 本当に、ありがとうございます!!! あれもこれも皆様の応援があってこそです!

また、私自身も数軒の書店でこの本を見つけることができました。感動です……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る