第964話 ゲームは?

 みんなに指輪を配った昨日、ついに、驚くべきことにSSSランクの魔物が一匹も現れなかった。お父さんもスタンバイしてたらしいけれど意味なかったってボヤいてたよ。もしかしたら一気に倒されるところを見ていてSSSランクの魔物を送り込んでも無意味だと判断したのかもしれない。これがながく続くようなら、武器を開発した意味が本当になくなってしまうけどそんなことより平和に暮らせる方が何倍も大事。いまは喜んで胸をなでおろしもいいものなのかな。



「今日はどうなると思う? 魔物関連でさ」

「んー……」



 勘が鋭すぎるミカに意見を求めてみたが、どうやら見えてこないみたいだった。つまり今日は問題が起こるようなことはなにもないわけだ。仮にあったとしてもお父さんがすぐ倒せる程度のSSSランクの出現なんだろう。嫌な予感がした日は実際カナタが殺されたりしたからねー、何もないならリラックスしても大丈夫そうだね。



「じゃあ今日はゆーっくりできそうだね。ふぃー……やっとゆったり休めるよぅ」

「そうね、ずっと気張ってたもんね。お疲れ様」

「うみゅー」



 体から空気が抜けていくような音がする。SSSランクの魔物が現れた時も休めるような日はあったけど油断はできなかったからね。ここまで空気を抜けるのは本当に久しぶりだよ。



「じゃあ私とエッチなことしようか! 嘘よ、ゲームとかすれば?」

「ゲームかぁ……」

「え、うそ、まさかゲームやる気ないの!? 有夢といえばRPG、RPGといえば有夢でしょ?」



 そんなに驚かなくたっていいじゃないか。俺だってゲームのやる気が起きない時だってあるよ。エッチしようっていうもう一つの提案も乗り気にならないよ。疲れてるからね。



「大丈夫? 熱ある? 雨降るかもしれないわね今日」

「んあー、そうかもねー」

「正直、今はゲームが一番有夢のこと癒してくれるんじゃないかなって思ったんだけど。ほら、ドラグナーストーリー4で最初の草むらでレベルをカンストさせるとかもまだしてないんじゃない?」

「んー、そんなことないよ、ミカが一番癒してくれるよ」

「ほんと? えへへ」



 嬉しそうに笑いながら抱きついてきた。そう、いまはこういうのを求めてるんだ。それに実はドラグナーストーリー4、すでにやり尽くしてしまってる。

 ミカには俺がゲームばっかりやってるイメージがこびりついているんだけど、ただその程度が少し甘いよ。ミカに見限られるのは嫌だから黙ってたけど、実はこっそり時間の流れが超ゆっくりのマジックルームにこもってドラグナーストーリー4でやりたかったこと全部やっちゃってるんだ。

 彼女に隠れてアナズムの危機に追われながらゲームするのはなかなかにうしろめたかったけど、衝動が抑えきれなかったんだから仕方ない。すでにアップするための動画も撮って編集もし終えてる。

 たしかにミカの言う通り、いつもの俺ならゲームをやればこんな疲れは吹っ飛んでいただろうね。でも今はゲームの方も熱気が燃え尽きたあとなんだ。再燃しなきゃ癒しにならない。



「……まって、その顔」

「んぬ?」

「もうゲームはやり尽くしたからしばらくやらなくていいですって顔ね?」

「……!?」

「図星でしょ。ね? 予想するに武器を作ってる合間とか、私がトイレに入った隙とか……マジックルームの中にさらにマジックルーム作ってそこでやってたんじゃない?」

「え、あ……あの……」



 げ、ばれた。さっきは勘を働かせなかったのに今発動するのか。何でこんな事細かにわかるんだ。……誰か助けて! 怒られちゃうよ! 



「そうよね、あれだけ頑張ってたのに私と私の身体だけで有夢の精神が保つわけないもんね」

「いや、それは断じて違うよ。大丈夫だよ」

「えへへ……ってやっぱりゲームはほんとなんだね?」

「……うん」

「まあ実質時間食ってないし? 私が有夢といちゃつける時間が減ってたわけじゃないし? 有夢の好きなものを規制するつもりもないからいいんだけど?」

「……うん」



 お、怒られてない? 大丈夫? ちょっとミカが不機嫌になったくらいで何とかなったみたいだ。よかった。

 ……いや、よくない。ミカが不敵に笑い始めた。何か企んでるね。



「まあ、あれだけ毎日疲れたって言ってたのに隠れてゲームやる気力はあったのよね? それに今私は有夢の好きなことを容認したわけじゃない」

「うん」

「私の好きなことって有夢といちゃつくことなのよ。それも容認してほしいな! もう言いたいことわかるでしょ?」

「だめだよ、疲れて……」

「私、本当は有夢が精神的には人並みはずれた無尽蔵の耐久性もってるの知ってるんだからね。そうじゃなきゃダンジョンを何千周なんてできないし。それにどうせ私が裸になればその途端に乗り気になるじゃない」



 その通りだ、最後の一言含めて何も否定できない。今まで俺が疲れたって言ったのは……いや、たしかに疲れてたんだけど、それは普通の人基準でってことだ。俺は昔から「疲れた」って感じてから動ける程度が人並み以上だった。疲れたって感じないんだったらいつまでも動けた。……まあ身体が追いつかないことが多々あるけど、それでも体力自体はかなりある。

 現にサマイエイルと戦った時だってアイテム作りまくることに夢中になってMPの大量消費の影響が出てることに倒れそうになるまで気がつかなかったし。ここ最近の魔物の大量出現に関しても疲れた、と口にはしてたけど実際はどれだけ出現されてもゲームはやれたし、ミカにキスのひとつさえしてもらえれば全然動けたはずだ。

 だから否定せずに答えることにした。ミカは全部理解してるからね。



「まあ……全くもってその通りだけど!」

「じゃあエッチなことするためのマジックルーム出してよね!」



 なんと、そのままいいくるめられてしまった。マジックルームの中に押し込まれる。

 そうだよ、気持ちだけは疲れてるって感じてるはずなのに、実際は精神的にも肉体的にも動くことはできるんだ。仕方ない……ゲームの件は反省したし、今はミカに付き合ってあげようかな。




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