第955話 親の意見

「いきなり結論から話してもいいんだけど、その前に言っておきたいこともあるからなぁ」



 俺ら六人は用意された椅子に座った。真正面に親が八人……どうにもこちらから冗談を言う隙すらなさそうだ。



「代わりに話そうか」

「いや、昨晩相談した通り、アナズムに初めてきたのはうちの子だから私から言わせてくれ」

「……お父さん達、昨日の夜集まったの?」



 ミカんちのおじさんの声かけにうちのお父さんは首を振る。その二人の問答に俺らの中で一番討議力があるカナタが質問を仕掛けた。大人と大事そうなおはなしする時に先導するのは、いつも一番頭のいいカナタだ。



「うん。実はみんなに秘密で定期的に私達の部屋に集まってるんだよ」

「個人的に遊ぶとかじゃなくて、秘密なの?」

「子供には子供の、親には親の目線ではなさければならないこともたくさんあるんだよ」



 眉間にしわを寄せたまま、ウンと、ショーの親父さんやお母さん達は軽く頷いていた。別に俺ら子供組だけで集まって何かしようとしたことも結構あるし、お父さんやお母さん達が集まって俺らのことやアナズムについてを相談しててもなにもおかしくないよね。



「それで私達全員で、昨日、じっくり話し合った内容をこれから話すよ。みんな聞いてくれるかい?」



 頷く以外にない。でも頷いたからにはしっかりお話を聞かなくちゃいけない。空気がさらに重くなったような気がする。

 いや、お父さん達が重くしてるのかもしれない。お父さんはゆっくりと言い聞かせるように口を開いた。



「私達が昨日相談したこと……それはね、有夢達にアナズムで起きている異変にこれ以上関わって欲しくないってことなんだ」



 つまりアナズムの異変にこれ以上関わるなってことでしょ。気持ちはわかる。昨日はカナタがあんな風になって、サクラちゃんはこの世の終わりかというくらい泣きじゃくって……ショーが腕を斬られるショッキングなシーンもあったしね。こう言われてしまうのも仕方ない。



「別にアナズムに居るのをやめろと言っているんじゃないよ。命に関わること、魔物との戦闘や危険人物との接触、神だの魔神だの王国の政治だの、ともかく地球基準の日常生活で普段は関わらないようなことに関わって欲しくないんだ」

「それは無理だよ」



 カナタが即座にそう言った。でもこんなにはっきりと反論をしたことに対してリルちゃんの両親以外は驚いた様子がない。色々と計算のうちなのかもしれない。

 ただアナズムに居るのは良いけど、政治や戦闘に関わるなっていうのは無理な話だ。もう俺にはメフィラド王国……いや、アナズムの勇者兼アイドルとして活動していかなきゃいけないという多くの期待があるからね。



「そうだよお父さん。俺たちにはもう立場があるし、そんなこと言われても」

「有夢と美花ちゃんがやってるあのアイドル活動をやめろって言ってるわけじゃないし、この国のお姫様や友達と別れろと言っているわけでもない。アナズムに来てはいけないとも言ってないよ」

「そうだけど、SSSランクの冒険者や勇者、つまり戦闘のエキスパートとしてこのアナズムにいるんだよ? 俺だけじゃなくて、俺達六人全員。もし昨日のことをみてて話し合ったなら尚更だよ、俺達じゃなきゃ、SSSランクの魔物も魔神も止められないんだ」



 例えばもし、俺が最初に戦った暗黒のようなモヤを従えてるガタノソーアって魔物が俺たちがいないアナズムで暴れまわったとしたら、その被害は数万人にも及ぶと思う。あれはほとんど俺だから倒せたようなものだ。

 俺はそのことについてどう思うかも聞いてみた。もうちょっと答えを出すのに時間をかけてくれても良いのに、お父さんはそれに対して即答する。



「実は有夢達が戦った魔物の中でも特に強そうなものを中心に独自に調べてみていたんだ。研究者らしくね。例えば有夢が例に出したガタノソーアっていう貝殻の魔物だけど、あれは昔、SSSランクの冒険者複数人に倒されたものが復活した個体だって推測ができたよ」

「う、うん」

「有夢はこのアナズムに住んでるSSSランクの冒険者、あるいはそれに匹敵するような人達を全員知ってる? 能力も含めて。もしかしたら、正確な人数も把握してるか怪しいんじゃないかな」



 それに関してはお父さんの言う通りだ。俺はなんやかんや言ってSSSランクの冒険者やそれに匹敵する人達の人数すらしらない。増やすことはしてたけど、既にいる人を把握しようとはしなかった。

 メフィラド王国にいる現存してるSSSランクの冒険者は、俺らが来る以前は三人だけだった。それに加えて少なくとも二人、国王様と昨日脱獄したやつが匹敵する実力を持っていたわけだ。

 たしかにお父さんの言う通り、俺は案外同業者に対しての知識が薄い。



「この間は……思い当たる節があるんだね。じゃあなんで全員把握してないのに、そのSSSランクや高ステータスの人達がSSSランクの魔物に対処できないって決めつけるのか。もしかしたら一撃で魔物を倒せたり、全スキルを無効化できる人もいるかもしれない。そう言う人なら十分、転生を1回もしてなくてもガタノソーアに勝てる筈だ」



 うっ、確かにそうだ……。



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今日は11/18ですが、その1週間後である11/25はレベルメーカーの書籍化本をその日に予約して販売日当日に届くラストの日ですよー。

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