第956話 必死の制止
まったくもってお父さんの言う通りだと思う。ただ、そういう人材がいるかもしれないし、いないかもしれない。もしいないと大変なことになるんだから、やっぱり俺らが出ていったほうがいいんじゃないかな。アイテムマスターのおかげで危機の感知に関しては一番早いはずだし。
「でも、もしいなかった場合はどうなるの?」
「そうだね、たしかにいないかもしれない。でも私はもう一つ有夢達に尋ねたいことがある。もしかしたら、これは白状だと思われるかもしれないが……」
「ううん、いいよ。話してよ」
俺たちのことを心配して話してくれてるんだろうし、そのことについて文句を言うのは野暮だよね。
「わかった。……ならなぜそんなにアナズムの住民を助けようとするんだい? カルア姫とか、親しい間柄の人たちならわかる。メフィラド王国の勇者だし、メフィラド王国国民を助けるのも納得がいく。でも有夢たちはどうにもアナズム全体を救おうとしてるよね?」
お父さんも主に医学に関係するような研究を続けて、発見品や発明品を世に送り出し続けたくさんの人を救ってきたた人だから、いまのセリフはとても言いづらいそうだった。たぶん、質問に対してもうこころの底から疑問には思ってないと思うけど。
「今はもうアナズム全体を監視して瞬間移動で何かあったらすぐ向かえるようなシステムが完成してるから、むしろSSSランクの魔物を見逃すことは救える人たちをわざわざ見捨てることになるけれど……それ以前に、なぜこうなったんだろうね?」
「うん……」
たしかにいつのまにか俺がアナズム全域を助けるようになっていた。どっちみちどう転んでもそうなってただろうし、俺の性格なのかな、そうとしか言いようはないと思うんだ。
俺は何か別の理屈が込められた答えがないか救いを求めて五人それぞれの顔を見た。ミカとショー、サクラちゃんはたぶん俺と同じ答えを出したと思う。リルちゃんは元々ここの住人だし、考えてることは違うのかな。カナタは……いや、カナタもよくわかってないみたい。
「まあ大方予想はつくよ。みんなとってもいい子だから……いい子だから助けようとしてるんだろう。六人が六人とも例えば道端に捨てられてる子犬を見捨てることができないでしょ? おそらく、最初は自分たちに降りかかる火の粉を消せればよかったのに、いつの間にかこうなってて、見捨てることができなくなったんだよね?」
誰もそれに反論をしようとはしない。俺に関しては図星だ。お父さんはなんでも見抜いてる。いや、この答えを出すまでに仕事柄、何パターンも色々考えてきてるんだろうけれど。
「もし私も同じ立場ならそうしてただろうね。いや、私達かな。でも、それで……そう、火の粉を振り払うだけだったのに、今じゃ死んでまでSSSランクの魔物討伐に躍起になってる。その上、なんだか危険な存在に目をつけられてるでしょ? 俺たちは、いや、俺たち親はね、もう死んで欲しくないんだよ、うちの子の誰にも」
お父さんの後ろでお母さん達が目に涙をためてる。特に俺とカナタとミカを見ているみたいだ。直接的な死を味わったのはたしか俺含めたその三人だけだったはず。
たしかに死にながら親を悲しませてまで自分に無関係な人を救うおうとするのは、冷静になればおかしい事だと思う。それでもやめられないとは思うけどね。お父さん自身も珍しく感情が高ぶっているのか、手に血管が浮かびあがり、顔は赤くなっている。
そして、滅多に見せないくらいのヤケになったような声で感情を爆発させたように話を続けた。
「全ては有夢が死んでしまってから始まった。そして美花ちゃんが亡くなり、叶と桜ちゃんと翔君が連絡無しで長期間行方不明になり……アナズムでは叶が昨日死んでしまった。もう、もうたくさんなんだよ。なんで黙って自分の大事な子供が死ぬのを見なくちゃならないんだ! 俺だって助けられるものは助けたいさ! でもね心から大事なみんなが……死んでしまうくらいなら、また、俺たちの前から消えてしまうかも知らないのなら……もうやめてほしいんだ」
お父さんが言い切るとともに、お母さん達はみんなついに目にためていた涙を流し始めた。それにミカのおじさんやショーの親父さんもお父さんと考えは全く同じらしく、悲しみを含んだ目で俺らのことをじっと見つめている。
「人の命は大切だ。でも、自分の子供の命はなによりも一番大切なんだ。それをわかってくれないかな。いや、わかるだろう。例えば有夢が美花ちゃんをなによりも大切なように。叶が桜ちゃんを命をかけて守りたいように。俺たちだってそのくらいみんなが大事なんだよ、ねぇ」
俺はどう返していいかわからなくなった。アナズムの人たちみんなを助けてたらいつのまにか親不孝をしてたじゃないか。俺や叶が地球に戻ってきて初めて両親に接触したときに見せたあの顔を俺は忘れていたんだろうか。
俺はどうしたらいいんだろう。お父さんの言う通り手が届くのに見捨てることなんてできないし、でも、これ以上親を悲しませたくはない。なにが正解なんだろう。
本当に、戦うのをやめたほうがいいんだろうか。でもそしたらSSSランクの魔物は……? でもSSSランクの魔物と対峙するとお父さん達が……でも……でも。
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レベルメーカーの主要人物の親が全員仲睦まじく暮らしてることにしてて良かったと思ってます。やはり親というのは大きな存在ですからね。
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