閑話 推定強敵 (叶)
今日もまたSSSランクの魔物が現れたみたいだ。桜の積極てきなハグを受ける寸前で兄ちゃんから二人一緒に呼び出された。別にそれは構わないとして……SSSランクの魔物が一気に5匹現れたのは大きな問題だろう。日に日にその数が増えていっているし、もはや何かの予兆であるとしか思えない。本当、お兄ちゃんご苦労様。
呼び出された先である食堂に行くと、すでに観測できている魔物の姿を映像で確認できる状態だった。今日はイカみたいのとかドラゴンとかがいる。そんな5匹の魔物の中でも特に異彩を放っていたのが触手の塊の真ん中に目玉が一つついているやつ。
ふと見たときは、触手が卑猥な想像を連想させ、桜とミカ姉、リルさん、女の子っぽいにいちゃんを行かせたら、絵面的にまずいことになるかもしれない……くらいに思っていた。しかし、俺はある瞬間を見た。
俺以外誰も気がついていないようだったけれど、その触手の塊の真下に鳥のようなものが飛んできている場面があった。画面で言えば2ドット分くらいの大きさしかないと思う。
その鳥が触手の塊を通過しようとしたところ、触手がなにもしていないのにもかかわらず、ドス黒いものに包まれ空中分解したんだ。
そのドス黒いものからは昨日にいちゃんが倒した強い貝殻の魔物と同じような闇の深さを感じた。
もし昨日のにいちゃんが倒した貝殻と同じ系統の魔物なら、ステータスがカンストしている俺たちにですら何かしら有効打を持っていたりするかもしれない。
本当はかっこいいドラゴンと戯れたかったけど、推定強敵を発見してしまったのだから仕方がない。こいつの相手は俺がするしかない。
となると桜は連れて行きたくない。昨日の戦闘を見ている限りでは、遠くまで離れていても、正体不明の闇は届いてしまうほどの射程距離を持っている可能性がある。巻き込みたくないんだ。
だから俺はにいちゃんに一人で討伐に行かせて欲しいとお願いした。そしたらにいちゃんも同じ考えだったみたいで、俺とにいちゃんは単独行動をすることに決まった。
さすがは俺の実兄だ。基本的な思考回路は同じなんだろう。大切な人を誰一人巻き込まないようにできてるんだ。
「じゃあ、俺はここで」
話の最中で俺はさりげなくそいつを選ぶ事に成功した。ふふふ、誰にも選ばせてやらなかったぜ。これではとまずは安心だ。
みんなもすぐに相手する魔物を決めて行き、俺の瞬間移動で送る。他の4体からは中二病患者としての勘では何も感じないし、大丈夫なはず。
「じゃあ行ってくるね」
にいちゃんを送り出したら、今度は俺だ。
映像は翔さんの親父さんを中心に、討伐に向かったうちの両親以外の大人たちが監視してくれている。
「じゃあ、俺も行ってきますね」
「行ってらっしゃい、叶君。くれぐれも怪我をしないようにね」
「はいっ」
親父さんからそう言われたけど、どうだろう。保証はできないなぁ。かと言って負ける気もしなかったので、俺は躊躇することなくその触手モンスターの元に飛んだ。
「うぉっ……と、ひえっ!?」
我ながら情けない声を出してしまったものだ。いや、覚悟していたとは言え目の前にグネグネ触手の塊が現れたらちょっとはこんな声も出ちゃうって。グロテスクなんだもん。そして思っていたよりデカイ。あと宙に浮いてる。いや、宙に浮いてるのは映像の時からわかってたけど、念術で身体を支えなきゃいけないってことが頭から抜けてた。落ちそうだったよ、危ない危ない。
<素っ頓狂な声。何者>
もちろん空中でしかも近距離に飛んできたから隠れる暇もなく気がつかれてしまった。完全に俺のミスなんだけど、せめて遠距離から魔法でも打ってれば楽に戦えただろうに。近くに飛びすぎたな。
みんな俺のこと頭いいって言ってくれるけど、このくらいのミスは結構するんだよね……。
<何者>
「あ、えーっと……冒険者です、はい」
<冒険者、つまり、ワタシを討伐?>
「……!」
触手の間から目だけがギョロリと覗いてきた。ふふふふ、こうして近くでみると、どうしてなかなかモンスターとしては様になってる見た目じゃないか。
<ちっぽけ、人間。女の子、戦う? ワタシと、戦う?>
「俺は男だ!!」
<オス、メス、どっちでもいい。ただ、悲鳴、音が、違う。男なら、さっくりと、痛めつける、効果的>
やっぱりろくな趣味してなかった。女の子に間違われるのは日常茶飯事だからいいとして。さっさと倒してしまおう。
俺は瞬間移動でこいつから距離をとった。流石に俺の瞬間移動は視認できないようで、目玉はキョロキョロと俺のことを探す。
<消えた? 消えた?>
「くらえっ……!」
SSランクの魔法を唱えた。
当たれば確実に一撃でこいつを仕留められるはずなんだけれど……。
<無意味。そこ、いたのか>
身体が映像で見たような黒いモヤになって、俺の魔法を回避した。やっぱり一筋縄じゃいかないか。さしずめ、身体を闇魔法に変えられるスキルか何かだろう。……でも、いくらか対処法はある。
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