閑話 推定強敵 2 (叶)

「こい、グングニル!」



 手を空に向かって開き、マジックバッグの中から直接瞬間移動させてきたグングニルをかっこよく掴む。自分の愛武器の名前を呼びながら掴むシチュエーションなんて、俺の琴線ど真ん中なのだ。

 しかしカッコよくグングニルを取り出したの良いものの、この触手の魔物への有効打はスパーシオペラティオンの技を使うか、普通に魔法で倒すか、念術をつかってアレコレすることであり、武器で攻撃するのはあまり効かないと思うんだけど。


 あと眼帯! これを忘れてはいけない。桜から俺への愛の結晶兼お守り。今日は左目につけさせてもらおう。もちろんバッグから取り出してつけるのはカッコ悪いので瞬間移動と念術で上手いことやる。



<悲鳴を聞かせて>

「我が叫ぶのは、愛しい人への愛の言葉だけだ」

<あ、ああ、そう……>

「覚悟しろ……ゆけ! グングニル!」



 手始めにこのグングニルを投げてみる。どのように回避するのか、闇っぽいのはどう分散するのか、どの速度まで対応できるのかが知りたい。グングニル特有の俺の元へ戻ってくる効果と、お父さんに重要性を気が付かされたり念術での操作を併用する。

 あとグングニルは名前を呼ばなくても投げれば普通に飛んでってくれるし効果も発動する。



<多くの、冒険者、殺してきた。だから、わかる。その槍、いい槍>



 そりゃあ自慢の兄ちゃんが作り直してくれたものですから。アナズムにある槍の中で最も強いのはほぼ確定なんだ。



<だが、無意味>



 こちらに向いてる目玉に一直線に向かったグングニルは、当たる瞬間に闇となった触手にスカされてしまった。当たりそうな部分とその周辺だけを変換するみたいだ。しかしあれはあれでカッコいい技だな。俺も闇魔法たくさん覚えてるし、頑張って開発してみようかな。



<触れても、塵にならない。やっぱりいい槍。それはそうと、まずは片腕をぉ……お!!!?!?!>



 回転させながら、投げた時よりも2倍のスピードでグングニルを俺に向かわせてみた。目玉を撃ち抜かず、回転による切断で触手をごっそりと斬る。

 意識外からの攻撃は普通に当たるのか。普通に超スピードでグングニルを投げまくってれば倒せちゃいそうだな。



「ごめん、君の片腕の方が先に取れちゃったみたいだ」

<おのれ、おのれ、おのれ!!>



 ぶった斬った触手は結構早く再生して行く。それも俺に向かって伸ばしながら。先端まで復活する頃には俺の目の前まで触手が迫っていた。ちなみにこの触手のスピード、たぶん拳銃により発射された弾丸よりも速い。

 それにしてもだね、んー……やっぱり形があれだ……女性陣に近づけさせたくない。男と女で悲鳴のあげさせ方が違うと言ってたし、あまり健全な発想はできないな。



<触れたら塵! まずは片腕……!!!!???>

「ごめん、やっぱり、君の腕の方が取れたみたいだ」



 触手の切断面が俺の目の前にある。また切り取っちゃった。

 俺は戦う時、敵からの攻撃を全て自動的に瞬間移動させるよう、概念的に言えば瞬間移動の膜を纏っている。つまりこいつの触手は俺に触れた瞬間、そこから一定の範囲分、切り取られてどこかに飛ばしたんだ。今回は素材として持って帰るためにマジックバッグの中にご招待した。

 ダーキニーの時も味方には俺に触れられるようにして、敵が攻撃してきたら俺に触れた部分を切り取れたんだけど。桜の早とちりがそれを発動させなかった。

 そういえば味方には触れられるようにしてなかったら、桜のお、お、お………乳房だけ切り取られてどっか飛んで行ってたってことになるのか。あの時のことを思い返したにもかかわらず、鼻血が出てこないくらいにはヒヤッとさせてくれる。



<おまえ、何者……!?>

「なに、今更怖気づいたの? ……そうだな、俺に勝てないってなら、しばらく実験に付き合ってよ」

<なにを……>



 グングニルを超スピードで投げれば目玉を簡単に貫いてしまう筈だ。でもその前に、反応速度や反射速度をみて、どの程度、物理攻撃や魔法を回避できるのか見たい。身体を魔法にするってやっぱりかっこいいから。ショーさんも覚えているように、俺も身体をかぜなしたり 闇にする魔法を覚えてみたい。



「まあ、モニター組からは苦戦してるようにみられちゃうかなぁ……いや、その方が都合がいい。そうしとこう」

<や、やめ……!>



________

_____

__



「か、かにゃた。お願いだから無理はしないで………」

「無理はしてないよ。実力の範囲内だから」



 たしかに強敵だったかもしれないし、周りからも強敵と言われてる触手やろう……名前はシアエガっていうらしい。どういう魔物から進化してそんな名前になったかわからないけど、固有名詞をもつ魔物はやばい方なんじゃないかな。

 


「ならいいんだけど……ぎゅっ」

「んう…」


 

 桜が顔に抱きついてきた。これを始めてから鼻血が出るまでが遅くなり、数秒、桜の温もりを楽しむことができるようになってきたほどだ。ただ、一つ問題があるとしらやはり鼻血は治らないので、あんな魔物よりこっちの方がよっぽど手強いってことなんだけど……。



「ぐふぅぅぅぅ……」

「鼻血出たね……拭こっ」



 俺の桜に対しての色欲の制御方法も克服できる日が近い。

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