第904話 参戦への引き止め

「おめでたいこと以外で話したいのって、今起きてることに関してですか」



 もうはっきりとそう訊いてみた。子供に恵まれたことについてずっとお祝いしててもいいんだけど、本人達が話したいことあるのに無駄に話を長引かせても仕方ないからね。



「うん、そうなんだ」

「私達、これでいいのかな……って」

「どうしてです?」



 俺とミカにとっては二人は今みたいに仲睦まじく暮らしてくれることが一番いい。俺だけじゃなく、一番面倒を見ている様子だったギルマーズさんや親友のバッカスさんもそうだろう。

 ウルトさんとパラスナさんには悪いけど、これから言うだろうことは……ほとんど否定することになる。


 国王様がギルマーズさんに頑張らせて、この二人に討伐しろと声をかけず、むしろ自身が出撃するため鍛え直すことにしてるほどなんだ。

 普通の人に対してならここまでせず、パラスナさんはともかくウルトさんには依頼を受けるよう命令が下されてもおかしくない。そうしないのは、この二人の過去を知っていて考慮してるからだと思うんだ。その意向を無下にはして欲しくない。



「今……SSSランクの魔物がなぜか出現し続けているのは、アリムちゃんなら知ってるよね? すでに何匹か退治したかもしれない」

「そうですね。この屋敷に住んでる人間だけで合計三匹は討伐済みですかね、今のところ。ボクだけだったら1匹だけですが」

「そっか、もうそんなに……」


 

 そんなに申し訳なさそうな顔をしないで欲しい。俺達の場合はたまたま遭遇したりしたから討伐してるだけだし、別に苦にも感じていない。それに観測したとしてもアナズム全体で3日に1体が関の山で大変でもない。どうせ瞬殺だし。

 でも二人は違う。何が違うって環境が違う。



「これじゃダメだって最近は毎日思ってるんだよ。みんな頑張っているのに、俺だけ家に引きこもって遊んでるなんて」

「だから私達もそろそろ冒険者活動に復帰したいと思ってるの」

「なるべく控えていただきたいのですね。特にパラスナさんは」



 二人にそう言ってもウルトさんもパラスナさんも答えがわかっていたようで、その申し訳なさそうな表情から変えることなく続きを話し始めた。



「ギルマーズさんにも国王様にも同じようなこと言われたよ、ついでにバッカスとラハンドとガバイナ……」

「それだけ皆に止められてるんですから、今の起こってることは見逃してもいいんじゃないですか?」

「でもっ……みんなが闘っているのに私達だけ……」



 すごく負い目を感じてる。いや、みんなから止められているらしいのに気持ち変わりしないのはもはや頑固とも言うべきなんじゃないかな。

 ミカが俺の耳元で、話を変わると申し出てきた。それなら任せようと思う。



「あの、二人とも」

「なんだい? ミカちゃん」

「今この国にSSSランカー、あるいはその実力に至ってる人って何人いると思いますか?」

「アナズムで一番多いらしいね。アリムちゃんとミカちゃん、ギルマーズさんに、俺とパラスナ。そして国王様。……あと、あいつ。あとここに住んでる4人だっけ。11人か」



 11人って十分多くないだろうか。

 ところであいつって誰だろう。

 そういえばウルトさんが英雄として賞賛いるのは奴隷解放したことで、その際に一人のSSSランカーと激突したとは聞いたことあるな。奴隷売買と捕獲をやってた最低な人で、今は獄中暮らしだったとか。ま、勘定に入れなくていいね、そんな人。

 ウルトさんの計算に対してミカは首を軽く振り、話を続ける。



「違います。正直そのアイツって人を忘れてましたが。……それでも11人よりもはるかに多いですよ」

「そうなの!?」

「ええ、ざっと23人です」

「そ、そんなに……」



 大半は俺のせいだ。レベルアップの方法を教えたり、直接レベル上げをしてあげてとてつもなく増えてしまった。

 さっきの11人を除いて、カルアちゃんとティールさんとセインフォースの王子様方の計6人。そしてリルちゃんの両親を除いたうちの保護者達6人。計12人だね。



「と、いっても全員を把握しているのは私とアリムと国王様くらいで、ギルマーズさんはこの半分、他の人たちは11人よりも少なく記憶していると思いますが」

「そ……そうなんだ……」

「いつの間にそんなことになってたの?」

「色々あったんですよ、色々……ね?」

「う、うん!」

「色々……」



 別にやましいことじゃないけど、説明しろと言われたらややこしいので誤魔化しちゃう。でもこれで二人は納得してくれたかしらん?



「そういうわけなので。無理はしなくていいんですよ、本当に」

「強いて言うならパラスナさんは絶対安静で、ウルトさんはパラスナさんとお腹の子を守るため、例えば街にSSSランクの魔物でも侵入した時にでも戦えばいいとボクは思いますよ」



 これだけ説得してダメだったら、申し訳無さと言うよりむしろSSSランカーとしてのプライドと闘争本能だけど……この二人はそんなことなかった。さっきよりは納得してくれたような顔をしているね。

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