第852話 ギルマーズさんと遭遇

「……と、こんな感じでどうでしょうか」

「すんばらしい! これぞこれぞこれぞ、まさにアテクシが求めていたものザマスゥゥゥゥ!」



 今日のお仕事はモデルでも鍛冶屋でも冒険者としての活動でもない、すごく久しぶりなデザインのお仕事。

 お祭りとウルトさんの結婚式を見て気に入ったから頼んだのだとか。えへへ、可愛いとか言われるのとは別に照れるよ。



「しかしこれでいいんザマスか? 100万ベル払いますのに、上級職人の相場と同程度なんて……」

「一応本職は冒険者ですし、デザインのお仕事はあまり来てないんです。慣れてないから安いんですよ」

「……そうザマスか? そういうことなら仕方ないザマス。あ、即金でいいザマスよね?」

「え? ……ええ」



 このおばさん……じゃなくて新しく開店する服屋のオーナーさん、見た目からしてお金持ちなのはわかってたけど、大金貨8枚をポンと出してくるなんてね。

 まあそんな大金もらってもやっぱり今は使い道ないんだけど。



「じゃあボクはこれで」



 仕事をした場所から外に出た。ミカが待ってくれている。このままデートの予定だからね。



「有夢さー、こっち来てから色々と才能を見つけてくって言うの? 得意なこと増やしてくよねー」

「そうだねぇ。ずーっとゲームしかやってこなかったから気がつかなかったけど、例えば絵に夢中になってたらスキルの力がなくても凄い絵が描けたりしたんじゃないかな」

「じゃーあー、有夢の将来はウチの専属デザイナーなんてどう?」

「んー? 副社長じゃなかったの?」

「兼任で!」

「それは忙しいなぁ……」



 仕事でもミカとずっと一緒に居られるのはいいかもしれないけどね。そんなに仕事してたらゲームやる暇がなくなりそうだよ。まぁ将来の話だし、今すぐってわけじゃないんだけど。



「もちろん! 夫婦としての営みも疎かにしたらいけないからねー」

「俺的にはそれが最優先なんだけどね」

「えへへへへ……お?」

「どうしたのミカ」



 今日デートしようと決めて居た場所へと歩いて居た時、ミカが足を止めた。俺も一緒にミカが見ている方向を向く。そこには見るの自体久しぶりのSSSランカーであるギルマーズさんが完全武装した姿で、真剣な面持ちを浮かべて歩いていたの。

 完全武装といっても武器と軽い防具くらいしか持ってないけど。



「話しかけてみる?」

「迷惑かからないかな?」

「でもあの人が真面目な顔をして歩いてるのって初めて見ない? 気になるのよね……」

「たしかに、何か力になれることがあるかも」



 もし迷惑そうにしてたらすぐに退散するということにして、話しかけてみることにした。

 大声で叫んだらギルマーズさんだけでも、俺たちだけでも十分な人だかりができてしまうから、近くからメッセージを使って話しかけてみた。


 対応は顔の表情とは変わり、普段通りの少しおちゃらけた叔父様風の話し方だ。周りに気がつかれないようにするアイテムをフル活用し、直接話すことにした。



「改めて、お久しぶりですねギルマーズさん!」

「おー、久しぶりだな二人とも。相変わらず可愛いくて何より」

「ウルトさんとパラスナさんの結婚式以来ですよね?」

「そうそう、久しぶりといえば一時期よくボクから武器買ってたじゃないですか。もう何ヶ月も来てくれてませんけど……どうかしました?」



 ギルマーズさんは自分のあごひげをナデナデしながら、俺たちの質問に答えてくれた。



「金がなかったわけじゃない。……二人の結婚式以来、急激に仕事が増えちまったんだよ。もう連日、俺のギルドの奴らと一緒に討伐、討伐、討伐、討伐で……」

「なるほど、そうだったんですね。……あれ、でもボク達は、ね……?」

「うん、そんなにお仕事来てないよね?」



 武器を買う暇がなくなるほどに忙しいんだったら俺と美花だけじゃなく、ショーやカナタにだって回って来てもおかしくないんだけど。



「それはあれだ、国王様は念のために常時、この国にアリムちゃん達を居させたいんだと思うぜ。アリムちゃん達より強い人間なんて今はいないんだから」

「なるほど……」

「俺だって魔神はどうだかわからないけど、大抵の奴なら倒せる。だから最難関の討伐の依頼が大抵俺に回ってくるんだよ」



 そういやこの人、魔神を倒せる実力を持つ勇者(ヘレルさん)が悪魔の力でパワーアップした状態にもかかわらずタイマンで倒してしまったような人だった。

 単にレベル上げをしすぎているだけの俺らを除けば、この人が実際最強に一番近いんじゃないかな。世間の評判通り。



「なるほど……じゃあ今からもその仕事ですか」

「ああ。でも今回はちょっとキツいないようでな。しばらく……あー、これは子供に話す内容じゃないわな。うん。とにかく俺のお楽しみがしばらくできないんだよ」

「た、大変ですね」



 やっぱり風俗店とかいってるのかなぁ?

 それとも俺とミカみたいに奥さんか恋人とお楽しみ?

 でもたしかに忙しくてなかなかそういうことできないってキツイよね。

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