第846話 楽屋にお呼ばれ

「言われた時間になったね」

「じゃあ入ろっか」



 なるほど、これが楽屋前というものか。あのMCの人の名前が書かれているカードが扉に差し込まれている。この中に広く鏡が貼ってあったり畳にちゃぶ台が置いてあったりする部屋があるわけだ。


 翔が扉をノックした。

 いいよ、という声が聞こえたので翔は扉を開け、俺たち7人はゾロゾロとその部屋の中に入り込む。

 予想通り、テレビでいくらか見たような部屋だ。

 MCの人のカバンなどの私物が置いてあり、机の上には差し入れだろうか、饅頭や果物が乗っかっている。



「いや、悪いね。わざわざ呼び出しちゃって」

「いえ、とんでもない」

「いちにぃさん……7人には狭いかもしれないけれど、どこかテキトーに座ってよ」



 椅子は一応4つあるみたいだ。性別的に俺と叶と翔は椅子には座らず畳の上に正座し、女子四人に座ってもらった。



「まー、大事な用事があるから呼び出したとか、そういうわけじゃないんだけどさ。ちょっと話をして見たくなっちゃって……特に、その二人に」

「僕と桜ですか?」

「そうそう」



 やはり叶と桜ちゃんが目当てだったか。あの話に感動して話を聞きたがる人は多いからね、仕方ないね。

 


「……あ、それともう一つ。ごめん、もしかしたら途中で何人か来るかもしれない。二人と会ってみたいっていう芸能人はね、結構いるんだよ」

「それは構いませんが」

「へへ、悪いね」



 MCの人はどれだけ叶と桜の半生の話に感動したかを述べた。なんと、感動しすぎて目の関係の募金を口では言えないくらいの金額を投入したらしい。

 そういえば、医療関係への募金が叶と桜ちゃんの話が放送されてから飛躍的に増加したって聞いたことある。

 とにかく自分がどれだけ感動したかを、画面越しの芸能人から叶と桜ちゃんのファンと化した目の前のおじさんは熱を込めて話した。



「そ、そんなにですか……! ありがとうございます!」

「本当に目が見えるようになって、どれだけ良かったと思ったか……」

「下川さん、入っていいですかぁ?」

「ん! ああ、君か。この子達もいいって言ってたから、来てきて!」

「お邪魔しまーす……おー、やっぱりほんものだ!」



 8人のうちのメンバーにいた一人がやってきた。その人を筆頭に次々と人がやって来る。8人いたメンバーのうちの5人は訪れ、さらに食堂で見たアイドルや(記憶が正しければ)女性歌手をしてる人、その他諸々テレビで見たことある人達やその関係者が大勢来てしまった。

 佐奈田がびっくりするくらい目を輝かせてたよ。

 俺らと最初にいたMCの人の8人を除いて5人ほど集まってから、もっと広い別の場所で話すことになる。

 今はもう、だいたい40人は集まって来てるんじゃないだろうか。



「ぐすっ……ぐすっ……わだじ、ぼんどうにがんどうじでっ……よがっだ…よがっだでずよぉぉぉぉ」

「あ、あの、こんなに集まってもらって恐縮なんですけど、そんなに心に響いたのが驚きといいますか。僕と桜にとっては当たり前の日常をインタビュー受けてドキュメント番組にされただけなのですが……」

「俺はねぇ、そうだねぇ、君の彼女をなんとしても守るっていうオーラにねぇ、感動したんだよねぇ」

「目が見えないだけじゃない……青春の甘酸っぱさ! これが良かったってわけなのよぉ!」



 さすがIQ200越え。全部上手く受け答えしている。そのことについても色々言われたりした。

 正直、ここまで影響を与えているとは思わなかった。あんまりネットで反響とかってみないから。

 もしかしたら当時、相当すごかったのかも知れない。

 

 叶と桜ちゃんはこの人達を不快にさせない言い方で「自分たちよりもっと重症のカップルだっている」「ドキュメント番組で自分たちと同程度、あるいはより重い事案が特集されるなんて珍しくないんじゃないか」と訊いたが、彼らはみんな「感動した」の一点張り。

 

 お兄ちゃん的にはもしかしたら叶の頭脳により発せられたみんなが共感できる言い回しがあの番組内に多々あったんじゃないかって思ってる。うん、叶だしやっぱり不思議じゃないよ。



「はぁ……とにかく一度お会いしてみたかったんだ……」

「これがらもっ……頑張ってくだざいっ、あ、ぢがう! おじあわぜに!」

「ど、どうも……」

「そういえばこの子達、叶君と桜さんだけではない……君たちみんな……なんかこう、すごいんじゃないかね?」

「「「「「へ?」」」」」



 叶と桜ちゃんから標的が俺たち全員へと移った。

 翔はもちろん今話題になってることをたくさん言われ、リルちゃんも海外からの留学のこと、俺と美花は顔のこと、佐奈田はどうやら父親のことを知ってる人がたくさんいたようでなんだか若干怯えられていたような気がする。本人は自分も注目されて楽しんでたみたいだけど。


 そして総じてなんらかの形で芸能界入りを勧められるんだ。まあ、こうなるよね。

 何十人が口を揃えてそういってくる。それも本当に有名な人や偉そうなスタッフさんばかりだからこれまでの人生の中で一番引きが強い勧誘。

 か、完璧には断りきれない……!



「かわいぃ……ん、みんな、アレはなんだ!」

「……あれ?」

「ほんとだ、なんだアレは!」



 唐突に、一人の恰幅のよい芸能人が大声をだしてこの皆が集まっている場所の側面にある大きな窓を指差した。 

 その窓の先には、なんかよくわかんない物体が流れ星のように落ちてくる様が見えた。

 でも今までにみたことのない光景。

 なんだか、こっちにまっすぐ落ちて来てるような……?



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総文字数200万文字突破(〃・ω<〃)

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