第845話 撮影終了
「なんとですね、握力が152キロもある。これは世界記録に近い高さを誇るらしくて」
「はぁ!? そんなにあんの!?」
わかるわかる、みんな翔の握力をしるとそういう反応するんだよね。そして大抵の人は喧嘩を売らなくなる。なぜなら腕掴まれたら握られるだけで潰れちゃうから。
「というわけでね、まずは林檎をご用意しました」
「これを握り潰せばいいんですか?」
「定番だよね」
受け渡された林檎を翔はその場で速攻握りつぶした。力を込めることなく、豆腐でも潰すかのように。
「すんなりいったなー」
「人の頭とか握り潰せたりしないの?」
「いやー、それはやったことないですね」
あれ、なかったっけ。ところで美花がリルちゃんと何やらお話をしているようなんだけど。
「……ね、リルちゃん」
「わふん?」
「ほぼ毎日揉まれてるんでしょ? あの馬鹿力に、ここ。……痛くないの?」
「わふー、ショーが私に痛いことすると思うかい? とても優しくて気持ちよくて……」
「そうなんだ」
おそらく胸の話だろう。美花が心配になるのもわかるけどリルちゃんのいう通り翔は力加減も完璧だから大丈夫だと思う。佐奈田が何か分厚い冊子にメモってるのは無視したほうがいいのかな?
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「というわけで、本日のゲストは火野 翔君でしたー!」
撮影が終わった。なんと、俺たちをいじったり、翔の筋肉についての話をしたりしたら予定時刻があっという間に来てしまい、企画のうちの半分しかこなせなかったらしい。握力の話をしたあと好物と柔道を始めたきっかけの話をして終わってしまった。
どう考えても企画倒れなのにステージ端で嬉しそうにスタッフさんが微笑んでいるのは、内容としてはいいものだったからかもしれない。
エキストラの人達は帰り支度を始めている。俺たちも翔がこちらにやってき次第7人で帰るつもりだ。
そこに、この撮影でずっと俺らのそばにいたスタッフさんから声をかけられた。
「あの、6人ともすいません」
「はい?」
「撮影中に楽屋に呼ばれてたじゃないですか、あれ、どうやらガチだったようなので、楽屋入りは今から30分後になると思いますが、どうかお願いします」
「わふん、あれ本当に呼んでたんだ……」
すっかり冗談だと思ってたんだけどな。呼ばれたなら仕方ない、行くか。乗り気じゃない人はいないみたいだしね。
「あ、そうだ。火野さんとはここで待っていれば合流できると思いますので、火野さんと合流し、今から30分が経ったくらいで楽屋に行くのがいいと思います」
「わかりました」
「すいませんね、エキストラなのにここまでガッツリ巻き込んでしまって……」
「慣れてるっていえば慣れてるので構いませんよ」
それだけいうとスタッフさんはステージの片付けに行ってしまった。その10分後、翔が俺たちの元にやってくる。
服はいつも着てるようなものに戻ってるが、髪型や軽い化粧はそのままだ。やっぱりかっこいい。
「わふー! ショーーーーッ!」
「おうおう、よしよし」
いち早くリルちゃんは翔の胸元に抱きつき、めちゃくちゃに甘え始めた。そんなリルちゃんを翔は微笑みながらなだめる。なんだか少し大人っぽい。
「適応したわね……」
「ん? さなちゃん、適応したってなにが?」
「あの状況にすっかり慣れたってことよ、火野が。そうでしょ? 途中から緊張感がなくなってたもの」
「さすがだな。よく見てる」
なるほど、この大人っぽさはこれか。翔からまた一つ欠点がなくなったわけだ。うへ、なんて恐ろしいやつ。
「それにしてもショーカッコよかったよぉ……男の人3人乗っかっても普通に片方で腕立て伏せ続けちゃうなんて!」
「あれ実は俺も驚いてんだよ。3人乗せたことはなかったからな。美花と有夢の二人が最大だったからな、今まで」
「その二人って相当軽いんじゃ……」
「まあな」
俺の体重も女の人とそう変わらないからね、最大記録からだいぶ飛躍したわけだ翔は。だとすると、下手したら本当に事故って腕が変なことになってた可能性もあるんだ。なんかひやっとしてきたぞ。
翔が超人でよかった。
「わふー、でもこれからは私じゃショーの役不足ってことになるね」
「やっぱりああいうのいつもやってるの?」
「うん、さなちゃん。でもいつもなら背中に私がべったりと張り付いてるんだよ。テレビだからさすがに乗っかるだけにしたけどね」
佐奈田はまた紙に何かを書き込んだ。
いままでこんなにメモ魔だったっけ? うーん、どうだったかな。
「そうだ。あの人から呼ばれてるんだろ? いいのか行かなくて」
「あと12分後くらいに呼ばれてる。とりあえず近くまで行っておいたほうがいいかもしれない」
そういうわけで俺たちは楽屋付近の休憩場所へと移動した。さすがにここら辺は他の場所より芸能人を見かける。
たぶんあのMCだった人は叶と桜ちゃん目当てだよね? どういうお話してくれるんだろうか?
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