第842話 完全に飛び火

「そう、じゃあ普段はどうなの彼は。ここが好きだとか直して欲しいとかってある?」

「わふー、好きなのは全部好きだすよ! でもやっぱり甘えたりしても鈍感で気づいてくれない時とかたまにあるから、悪いところがあるとしたらその鈍感さくらいかな」

「ほら、クラスメイトからも彼女からも鈍感だって言われてる」

「あは……いや、そっすね、自覚はないんですけど」



 翔は苦笑いしている。もっと言ってやってほしい。翔の欠点といえばそのくらいだからね。……まあリルちゃんっていう彼女がいる現在、別に直す必要はないとは思うけど。


 俺たちの裏で待機しているスタッフさんが、今度は俺にマイクを渡すようにリルちゃんに言った。

 そして俺の真後ろに立つ。MCの人はこちらをちらりと見ると、軽く頷いた。



「じゃあ……君ね! 君は翔君とどのくらい仲がいいの?」

「はい、僕はもう……だいぶ前からずっと仲良くやらせてもらってますね!」

「具体的な時期とか……」

「幼稚園生からずっと! 幼馴染とか親友ってやつですよ」



 マイクを渡されたからアイドルモードのスイッチオン。こういうのにアナズムで慣れておいてよかったよ、ほんと。



「へー、なるほどねー」

「俺気になったんだけどさ、君って僕っ娘なんだね?」

「りゅーちゃんもそれ思った! ぶっちゃけ萌える」

「あー、あの……」

「ん? どうしたの」



 どうやら翔は俺が男であるということをバラすみたいだ。アナズムと違って女だって偽るわけにはいかないからね、バラすならさっさとしてもらったほうがいい。



「あいつ、男なんですよ」

「じょーだんはよしこさんだよ、それ。……どっからどう見たって女の子でしょう」

「みたところ見た目も声も女の子にしか見えないけれど……君、男なの?」

「そうですね、僕は男ですよ! れっきとした」

「ぬぇえええええ!?」



 そ、そんなに驚くことだろうか。エキストラの人達だけならず、スタッフさんまでみんなして驚いているように見える。



「ちょっとおじさんは信じられないんだけどさ、ほんとに男なら……もうほぼ100%、初めて会った人には女の子って間違えられるでしよ?」

「えへへ、そうですね。かなり間違えられちゃいます。というか男だって初めて会った人から言われたことないです」

「だろうね」



 男からラブレターを大量にもらうほどだからね。

 仕方ないね。



「じゃあ男の娘ってことになるわけだ。その女の子っぽい服装も自分が可愛いってわかっててやってたりする?」

「んーと、これは周りの趣味というか……みんなが着せてくるので、自然と僕自身が着るものも女の人が着るものみたいになっちゃって」

「すごいなー……ってことは隣の子も実は男とか?」



 今度は美花に話が振られる。MCの人自身は俺にもっと話を聞きたそうにしてたけど、後ろにいるスタッフさんが美花の真後ろにたってなにやら合図を出したから変えたみたいだ。



「私は違いますね、彼と違ってちゃんと女です」

「君は翔君とはどういう関係で?」

「私と彼と翔の三人とも同じ幼稚園からずっと一緒で。いわゆるトリオですね」

「あー、なるほど! 三人でね、幼馴染トリオね、はいはいはい。なるほどね」

「そして私は彼と付き合ってます」



 また俺の方に視線が集まった。

 しかしみんな納得したような顔をする。なんだよぅ、なんでそんなに納得した感じなんだよ! ……って、やっぱり女の子同士にしか見えないから微笑ましく見えるとかかな、前に言われたみたいに。



「あーーっ! りゅーちゃんまた思い出した!」

「再びどうしたりゅーちゃん」

「あの二人さ、クリスマスの時にここの放送局のカップル企画でハワイ旅行当てた、美少女カップルって今話題の……」

「知ってる知ってる! それは俺も知ってるわ!」

「俺もだな」

「っていうか、それ以前にも度々インターネットでありえない美人として紹介されてるところ見たりするんだけど……」



 八人の間でどんどんと俺と美花に関する過去の注目された歴史が語られる。なんでこの人達そんなに覚えてるんだろう……いや、エキストラの方も頷いてる人がかなりいる。

 俺と美花の顔ってそんなに記憶に残りやすいかな?

 まあ、美花ほどの天使はいないから仕方ないね!



「ここまでなにかとテレビ出てるな……じゃあ他の三人は? もう一気にそれぞれ翔君とどういう関係か言ってくれる?」



 スタッフさんは叶と桜ちゃんと佐奈田にマイクを渡した。順番的に最初に叶が喋る。



「僕は……」

「まって、君も男か!?」



 しかし叶が話し始めるとともにそう言われた。叶は頬をかきながら珍しく恥ずかしそうに頷いた。

 


「えーっと、さきほどの……ね、女みたいな男の……弟です。翔さんには昔っから色々とお世話になってるんですよ」

「あ、彼女……じゃなかった、彼の弟さんねー。で、その三つ編みの君は?」



 今度は桜ちゃんが話す。一見桜ちゃんはこういうのが苦手そうに見えるけど、実はめちゃくちゃテレビ慣れしている。



「私は男の子じゃない方の妹です」

「なるほど、彼女の妹さんね」

「まって、これはまって。じつはさっきから気がついてたんだけどさ」

「どうしたりゅーちゃん」



 この人やっぱり知識量豊富だな。毎日新聞とかみてるんだろうなぁ。トークはすっごいふざけてるけど、じつは真面目なのかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る