第837話 テレビ局の見学
「ほほぅ……中はこうなってるのか」
六人で固まってテレビ局社内を練り歩く。テレビ局内なら有名な人とか見かけるかと思ったけど、そうでもないのかな。だもなにかしら機材を持って忙しそうにしている人は何回か見たよ。
「えーっと、そうそう、たしかここがあのグッドモーニンジャの朝のニュースを放送してるスタジオね」
「へぇ……」
テレビの中とはすなわち、俺たち一般人にとってはかけ離れた世界であるわけで、こうして目の前に突きつけられてもなんだか実感がわかない。
映ったことはたくさんあるのにね。
「おーい、君たち!」
「はい?」
引き続き見学をしていると、俺たちを呼ぶ声が。その声と一緒に、眼鏡をかけ台本らしき紙を丸めて握っている、いかにも業界人風の人が現れた。
「なにをやってるの、もうちょっとで撮影だよ?」
「え、撮影は午後二時からって聞いていたのですが」
「全然違うよ、あと10分で始まるよ!? 場所を忘れた? そこのDスタジオだから、急いで急いで……」
また走ってDスタジオとかいう場所に連れて行こうとする男の人。軽く腕を掴まれていた俺は抵抗する。
「ち、ちょっと待ってください。人違いか何かだと思いますよ?」
「いやいや、君たち六人とも『今ドキッ€活躍する10代の若者達~アイドル・女優編2時間スペシャル~』に出演する子達じゃないの?」
「違いますよ!」
「違うの!?」
めっちゃ驚いた様子で俺の手を放してくれる。
メガネが光に反射して目が見難いけど、口がポカンと空いてるからマジで驚いてるってことはわかる。
「え……じゃあなに」
「私達は『おしゃべり☆エイト』に出演する同級生を見に、その番組にエキストラとして参加する予定の者です」
佐奈田が淡々と答える。佐奈田もこういうこと慣れてるのかしら。まあ、父親がそういう関係の人だし、ありえるね。
「まーじか……え、君達業界人オーラがキラキラ出てるのに!?」
「違いますよ」
「そっか………芸能人じゃないの……か。よし、これ、君達これ。間違ってすまなかったね、もし芸能界に興味があったらこれに電話して……じゃ!」
男の人は慌ただしくまた、そのDスタジオとかいうところに行ってしまったようだ。俺の手にはきっちり人数分の、おそらくその人の名前が書かれている名刺が握らされていた。いつのまにか。
「五人ともなんだかそんなに動じてなかったね、思ったより。やっぱり特番組まれたり年がら年中スカウトされてるから慣れっこかぁ」
「さなちゃんこそ」
「いいのよ、私はああいう人たくさん知ってるし。さ、次のところみにいこ」
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「お昼ご飯だね」
「学校の食堂と何か違うのかな?」
「さぁ」
2階にある食堂でご飯を食べる。ちなみに見学者なども利用していいことになってるよ。
ショーウィンドウにはラーメンとかの模型が置いてあるね。
「流石にお昼時ちょうどだと人がいっぱいかな」
「お弁当で食べる人もいるからそうでもないと思うけどね」
佐奈田の言う通りだった。ここ一応会社だし、人結構たくさんいるのかなと思ったけど、席の7割くらいしか埋まってない。いや、7割埋まってるって結構だと思うけど、それでも予想よりは少ないかな。
ここの食堂は食券スタイルのようだ。とりあえずみんなで思い思いのものを買い、席についてそれぞれ出来上がり次第料理を自分の席に運び、食べ始めた。
「また桜は甘いもの……」
「い、いいじゃん別に! 普通のご飯に加えてチョコレートケーキ頼んだだけだもん!」
「ね、みんなあれみて、アレ」
佐奈田がちょっとはしゃぎ気味に俺たちの目線を、自分の目線に合わせるように促してきた。そちらを向くと、どこかでみたことあるようなキラキラした男の人、三人くらいが座り、ラーメンを食べながら談笑していた。
「おー、やっと芸能人見れたか」
「えーっと……なんだっけ、何かのアイドルグループだよね?」
「かなり有名なんだけど……そっか、普段あなた達テレビ見ずにそれぞれ他のことしてるもんね。でもさ、本物のアイドルよ? かっこよくない?」
「わふーん、なんだか貧弱そうだね」
リルちゃんの目線は顔じゃなくて腕や腹に行っている。リルちゃんの珍しい鋭い一言。
「リルちゃんの好みに合わせたら誰だって貧弱になるよ。あれは可愛い系だから……」
「有夢と叶君の方が可愛いよ?」
「そうそう」
「ちょっ……二人とも……」
「あー、本物の女の子みたいな二人と比べちゃダメ。あれは正真正銘の男なのに可愛いからいいのよ」
「佐奈田さんまで……」
佐奈田の言いたいことはわかるよ。男らしさを突き詰めた翔と、男の娘を極めた俺と叶の両極端と比べちゃダメだってことだよね。
しかし、やっぱり本物は芸能人オーラ漂ってるなぁ。
すごいなぁ。
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