第823話 今日という今日は

「シヴァぁぁぁぁぁ!」

「ど、どうしたんだ! そんなに大声出すなんて珍しい……」



 アナズムに帰ってきてしばらくしてからすぐ、俺はミカとカナタとショーを連れてシヴァいっしょにに詰め寄った。もう言い逃れなんてできないようにしてやる!



「また何かあったのか?」

「何かあったのか……って、あったんだよ! かなーりヤバめのやつが地球であったの!」

「どんなのだ、言ってみろ」

「まって。写真があるから」



 一応、テレビに映ってるやつだけど写真を撮ってきた。

 俺は氷漬けになった家と氷魔法の魔法陣型になった雲の両方をポーチから取り出し、まずは氷漬けになっている家の方を見せた。



「これだよ、これ!」

「むっ……これは地球のニュース番組か。家が氷漬けになってるな。世界の不思議を調査するバラエティ番組の内容か?」

「違うよ。普通に朝のニュースだよ。本当に家がこんな感じで氷漬けになったの。ピンポイントで。だからニュースになったんだよ」

「ふむ……しかし地球というのは不思議だから、こういうこともありえなくはないんじゃ……」

「って思うでしょ? 次こっち見て!」



 今度は魔法陣の方をみせる。

 すると、シヴァはロボット犬の液晶画面の顔で目を丸くした。



「これは……合成ではないよな?」

「うん。これも氷漬けの家ほど話題にはならなかったけど、SNSで盛り上がってニュースに取り上げられたらしいんだ」

「魔法陣……それもこの世界の、氷魔法の魔法陣か。全て皆が住んでいる付近で起こったのか?」

「ううん。二つとも他県だよ」

「なんと……」



 どうやら本気で心当たりがないらしく、相当びっくりしてる。俺が掲げている二枚の写真を交互に見比べ、首を傾げた。



「これを関連性がないという方が難しいな。ところで、地蔵の方はどうだ?」

「相変わらず変な挙動であちこちに転がっちゃってるよ」

「そうか」



 シヴァは何か考えているみたいだ。俺の真後ろにだれか立つ気配。どうやらカナタがシヴァに聞きたいことがあるらしい。



「ね、シヴァ。本当にその、にいちゃん達が言ってる首のことも、この魔法陣と氷漬けの家のことも何も知らないの?」

「ああ、さっぱりわからん」

「じゃあ魔神のだれか一柱がやってるとかじゃないんだ」

「違う。そもそも我々はここから出られないし、地球にもアナズムからは自力では干渉できない」



 そう答えてもらったカナタは、腕を組み考える仕草をする。しかしすぐに腕を解き、俺の方を向いた。



「もしかしたら光夫さんがやったとかって考えられない?」

「光夫って、あのサーカスのあいつか」

「あー、光夫さんかぁ……無い気がするけどなぁ」



 光夫さんがやってるってことはあんまり考えられない。そもそもあの人にこの世界の魔法を使って、こんな世間に露見してしまうような大ごとをする利点と理由が思い当たらない。



「俺が知ってる限り、俺ら以外にアナズムに関わったのはあの人だけだ。あ、現代で生きてる人でね」

「確かにそうかもしれないけど」

「まあもし光夫さんじゃ無いとしたら……」



 カナタは顔をシヴァに向き直した。

 じーっと見つめた後、口を開く。



「じつは魔神のうち誰かが封印されたふりをしていたり、今まで俺たちに力の一部を隠していてそれを使っているか、ほかに怪しい人物が関係してるか」

「えー、なにか力を隠したりなんてしてることないよねぇ?」

「ない、ないぞ!」



 シヴァはプルプルと首を振る。機械でできてるからもちろん機械音がするよ。



「あと、じつは密かに協力者がいるなんてことは?」

「ない、それもないぞ!」

「はいダウト」



 カナタは俺とシヴァの間にグイっと割って入り、ヤンキー座りをしながらシヴァに顔を近づけた。



「え、カナタ、なにか心当たりあるの?」

「あるある。俺と桜は特にあるよ。翔さんも覚えているなら心当たりはあるはず」

「お…おう……。あ、あー、もしかしてデイスって人か?」

「そうそう、その人」



 そういえばそんな人も居たっていってたな。どんな人だったっけ。いつものメンバーで俺とミカだけが直接会ったことないからよくわからないんだよね。



「あの人はスルトルについて色々知っていた。その上でローキス王……ではなく、主にスルトルに従事して行動していた。……そして魔神はそれぞれ交流があって大きく独立しているわけじゃない。つまり、シヴァもデイスさんのことを知っている可能性がある。あれ以来、あの人のこと一度も見てないけどね。……ね、どうなの?」



 何か核心につく言葉だったのかシヴァはなにも答えずに、カナタをじーっと見た。まるで悪いことして怒られる直前の子犬みたいな格好をしている。

 しばらくしてやっと答えた。



「ああ、そうだな。それならスルトルに聞いた方が早いんじゃないか?」

「ま、それもそうだね。にいちゃん、スルトルの解放をお願い」

「あ、うん、わかった!」



 やっぱりうちの弟は頼りになるなぁ……。



 

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