第811話 謎の現象

「つ……疲れた……」

「あはは、お疲れ様ー」

「やべぇなこりゃ……ふぅ」

「いい加減、イケメンって言われるのにも慣れてきたんじゃない?」



 帰り際、俺と美花、翔とリルちゃんで話をする。

 翔の顔には明らかに疲れが見えていた。仕方ない、今日一日ずーっと人に揉まれたんだから。流石の筋肉も疲れんんでしょう。



「慣れるわけねーだろ……はぁ」

「わふん、私はあったときからカッコいいなって思ってたよ!」

「そうか……ありがとな」



 翔と離れることなんてないから、リルちゃんも一緒に被害にあって疲れてるはずなのに、健気にも翔にひっついて癒してる。……ように見かけて実は自分がくっつきたいだけってのもわかってる。



「帰ったらたーっぷり疲れをとってあげるからね」

「ね、リルちゃん。翔の疲れってどうとるの?」

「そりゃ、ぱふぱふって」

「ほぅ」



 美花がニヤニヤしてる。翔はリルちゃんの発言に驚いてるみたいだ。そしてリルちゃんはしまった、という顔をしていた。



「なるほど、今日は人に揉まれたから、帰ったらその分自分の彼女の胸を揉むってことねぇ…」

「ばっ……違っ……」

「ごめんねショー」

「ふふふ、なにも恥ずかしがることはないわ。私もちょくちょく有夢にされてるし」

「うわああ、言わないでよっ!?」



 まさかの暴露大会になるとは思わなかった。

 恥ずかしい。でも高頻度じゃないし、気が向いた時にちょっとお願いするだけだから……地球では。



「わふん、そうなんだね!」

「うん、見た目によらず助平だからね」

「うぅ……」

「はぁ……」



 俺と翔は互いに目を合わせた。ああ、僕の親友よ。互いにやることは一緒か。

 しかも俺の場合は助平とか言われたし、さらに見た目によらずって言われたし。何重にもダメージだよ。



「わふ、じゃあそろそろ帰るね。今日は大変だろうから部活に参加しなくていいって、私とショーは言われてるんだ」

「そっか、お疲れ様。またあしたねー」

「うん、またあした!」

「ちゃんと癒してあげるのよ」

「わふーん!」



 二人と別れた後は、まだなにも世間からは大きくは注目されてない俺と美花で手を繋いで帰る。

 ちなみに、俺は怒ってないけどむんずけてるよ。



「ぷくー!」

「えー、だって本当のことだし」

「ぷくーー!」

「励ますには私たちも暴露するしかなかったし……あとで言ってた通りのことさせてあげるから許してっ!」

「ん、わかった」



 くそう、簡単に許してしまった。 

 でもそれでいいの。んふふー。



「……あれ?」



 美花が足を止める。今はもう家が目と鼻の先にある距離まで来てる。何かあったんだろうか。

 俺は何もまだ気がつけてないけど。



「どしたの?」

「いや……ほら見て、幻転地蔵」

「んん、あっ!?」



 たしかに美花が不思議そうにして当たり前だ。

 今朝、首が取れてたから直してあげたばかりのはずなのに、また取れてしまっている。

 


「あー、なんだろう、取れやすくなっちゃってるのかな。ほら、顎が外れるのが癖になるみたいに」

「それはわからないけど……故意って線もあるし、偶然って線もあるし」

「とりあえず首を直してあげなくちゃね!」



 俺はお地蔵様の首を持ち上げ、しっかりと乗せてあげた。

 ついついお節介したくなった俺は、拭けばたちまちなんでも綺麗になる布ふきんを周りのアナズム関係者以外から見えないように作り出し、綺麗にしてあげた。 

 新品同様に綺麗になったのは、少しやりすぎたかもしれない。



「どう、あれだけ拭いたんだからなにか原因わからなかった?」

「いや全く……とりあえずなにかで接着しておいたほうがいいのかな?」

「やめといたほうがいいんじゃない? アナズムの屋敷に置いてある転送装置と見た目がそのまんまなんだから、シヴァを封印してた以外になにかありそうだし」

「それもそうだね」



 てな訳で、とりあえずこの日はそれで放置することにした。もちろん家に帰ってからは美花がお詫びをかねてサービスをだね…。



______

___

_



「またぁ?」

「嘘でしょ?」



 翌日、金曜日。

 俺と美花が幻転地蔵の前を通ると、また昨日と同じようになっていた。せっかく綺麗にしたのに、頭に土がついてる。



「これは確信犯だね! わざとだよ、わざと! ぷっくー!」

「うん……でも、私たちがアナズムに行く前から色々と変わった現象が起きてるお地蔵様だから、それって可能性もなくはないよ」

「火の玉が見えたり、凶暴なうさぎが現れたりでしょ? 前者は多分火術の魔法だし、後者は俺があの世界で最初に倒した魔物、ヨクナウサギだと思うよ」



 って考えると何かしらワープ系の効果でもあるのかな。よくわかんないや。うーむ。



「でもとりあえず、あとでなにがあったか確認できるようにはしておこうよ」

「じゃあ、ここで不可視の監視カメラでも置いてってく?」

「うん、そうしよっか」



 俺はお地蔵様から一番近くの木に普通の人からは見えない監視カメラをこっそりとつけた。

 これで原因がわかるといいんだけど。

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